世界同時多発危機。
文字通り世界の危機が同時多発的に発生する事象のことだ。そして、「世界の危機」もまた文字通りの意味だった。
―――宇宙のかなたにある水蛇座β星から宇宙人が地球に攻めてきて人類が滅亡に瀕するという危機。
―――地中深くで眠っていた古代遺跡が活動を始め地球から陸地を消し去ろうと脈動を始めてしまったという危機。
―――タイムマシンを開発した未来人たちが時代の転換点を制圧しようと現代にタイムトラベルしてきて新たなディストピア世界を構築しようとする危機。
ありとあらゆる危機が、同時に、多発的に発生するようになって、それが終わらなくなった。
単一の組織が無限に発生する敵の相手をすることは不可能であり、だからこそ、世界ヒーロー協会の統制のもと、複数の組織が立ち上がるようになった。たった一つの敵対勢力に負けるだけで人類は滅亡してしまう。ヒーローたちは、定められた敵との戦いで常に勝利が求められてきた。
そんな世界同時多発危機が発生してから、かれこれ100年あまりが経過しようとしている。今日もまた、ヒーローたちが人類の存亡をかけた戦いに邁進していった。
*
「もうすぐだ。もうすぐ戦いは終わる」
感慨深いものを感じながらレッドがつぶやいた。
彼の所属する極東第13戦隊の敵は魔王軍だった。
初代レッドから始まり、2代目からレッドを引き継いでから数年、いよいよ戦いは終わりを迎えようとしていた。
―――20年前。
東京渋谷の道玄坂にゲートが現れ、異世界と繋がってしまった。ゲートから現れたのはおとぎ話に出てくるような魔物たちだった。
すぐさま極東第13戦隊が組織化され、防衛作戦が展開された。
その頃には世界同時多発危機に対するマニュアルが整備され、スムーズな組織化がされたとレッドも聞いている。魔力をもった敵に対して開発されていた魔力吸収スーツを着用して迎撃にあたる。この戦隊スーツには倒した魔物の魔力を吸収して力に換えるチート能力があった。
初代レッドの時代には四天王のうちの1匹を亡き者とした。
2代目レッドの時に残りの四天王も撃破することに成功していた。
そして、今のレッドの代になってから四天王の配下の残党狩りを行って、魔王を執拗に追い詰めてきた。ゲートも破壊してあるので、あとは東京のどこかに隠れ住んでいる魔王を見つけ出して始末するだけ。完全勝利は時間の問題・・・・・・そのはずだった。
「なぜこんなことに」
レッドが苦々しい表情となる。
最初にやられたのはグリーンだった。
夜の人気のない街路。
そこで発見されたグリーンの戦隊スーツには一切の魔力が残っていなかった。初代グリーンの時代からコツコツと吸収してきた魔力がすべて奪い去られてしまっていた。
しかも、どういうわけかグリーンは昇天した姿で発見された。アヘ顔を浮かべた全裸の格好で見つかったのだ。グリーンは今でも意識が戻らず、病院で生死の境をさまよっている。
グリーンだけではない。
ブラックも、ブルーも、正体不明の敵にやられてしまった。
彼らは命に別状はないものの、そのスーツからは魔力の大半が奪われてしまっていた。万全の状態で残るのはレッドとイエローの二人だけになっていた。
「くそッ」
悪態をつき、レッドが急ぐ。
イエローの身に危険が迫っているのだ。
正体不明の敵の探索任務にあたっていたところ、いきなりイエローからの救難信号をとらえ、すぐに消えた。
イエローに何かあったことは明らかだった。
その場所に向けて、レッドが神速の速さで駆けていく。ビルからビルに飛び移りながら、最短距離で走る。すぐに救難信号のあった地点にたどりつき、それを見た。
*
深夜の暗闇があたりを支配している。
街中のビルとビルの間。
その行き止まりにある空気さえ腐ってしまっているような場所で、レッドは初めて正体不明の敵の姿を見た。その正体は信じられないものだった。
「じょ、女子高生?」
彼女は制服を着ていた。
それはどこからどう見ても学校の制服だった。あどけない童顔の顔つき。ボブカットの幼い少女。その頭には角も生えていない。どこからどう見ても、ただの人間だった。
「ううううッ!」
少女の姿を呆然と見つめていたレッドが、うめき声を聞いてハっと我にかえった。
視線の先。
イエローの顔面が、少女の爆乳に捕食されて、食べられてしまっている事実が脳みそにようやく届く。
「え?」
訳が分からずレッドがまたしても呆然とする。
少女の大きなおっぱい。
制服のボタンがはずされて露出している胸の大きさが脳みそのすべてをジャックしてくる。それを見たら一瞬たりとも目が離せなくなる。すべての男にとっての天敵みたいなおっぱい。その胸部に、イエローの顔面が捕食されてしまっていた。
「うううううッ!」
呻き声が聞こえてくる。
イエローは戦隊スーツを着用したままだった。フルフェイスのヘルメットも着用している。
そんなイエローの後頭部には少女の両腕があてがわれていて、抱きしめるようにしてイエローの顔面をおっぱいに生き埋めにしていた。イエローの体がびくびくと痙攣している。さらに悪いことに、イエローのスーツが黄色く発光しているのが見えた。その光は少しづつ少女のおっぱいに吸い込まれていく。魔力が吸収されているのだ。
「イエロー!」
呆然としていた一瞬が過ぎ去り、レッドが駆け出す。右拳に力をこめて、敵であるはずの少女に向けて必殺のパンチを振りかぶった。
「わ、わわっ」
それに気づいた少女が獲物であるイエローを放して、間一髪でレッドの拳を避けた。おっぱいから引き抜かれたイエローの体が崩れていく。それをレッドが抱き寄せて、助け出した。
「イエロー! おい、イエロー! しっかりしろ!」
呼びかける。
けれど反応がまったくなかった。ぴくぴくと痙攣するだけで「ううう」という弱々しい喘ぎ声しか漏れてこない。レッドがイエローのフルフェイスを解除してやる。現れたのは、アヘ顔を浮かべて、昇天している男の顔だった。
「く、遅かったか」
そっとイエローの体を地面におろして切り替える。
目の前。そこでたたずむ正体不明の敵と相対する。
(どこからどう見ても人間の女だ)
制服姿のまだ幼さの残る童顔の少女。
身長も低めで愛くるしい瞳をしている。けれど、はだけた制服から見える爆乳だけが、明らかに規格外だった。
「おまえ、なにものだ」
レッドが構えながら言う。
少女があわあわと慌てたように立ち上がった。
そして、彼女はそのまま綺麗にお辞儀をした。深々とレッドに頭を下げてから、レッドを上目遣いで見上げて、少女が口をひらいた。
「あ、わ、わたし、魔王軍臨時アルバイトの大山詩織です。よ、よろしくお願いします」
*
恥ずかしそうな声。
彼女の言葉にレッドは首をかしげた。
「臨時アルバイト?」
意味が分からない。
魔王軍の臨時アルバイト? なんなのだそれは。
「は、はい。アルバイトです。戦隊討伐のアルバイトの募集があって、応募したら合格しました。魔王軍というか、魔王さんに雇われたアルバイトとして、今ここに派遣されています」
アルバイト。
ということは、彼女は魔王に雇われただけの人間ということだ。彼女は魔物ではない。自分たちと同じ人間。それが魔物側の味方をしている。その事実にレッドの怒りが頂点に達した。
「き、君は分かっているのか。自分がしていることを」
「どういうことですか?」
「魔物の味方をしているということだ。世界の危機の味方をしている。つまり人類の敵になっているということが、君には分かっているのか?」
少女が―――詩織がキョトンとした表情を浮かべた。「ええと」と言いよどみながらも、彼女は、
「別にそういうわけじゃないと思います」
「な、なんだと?」
「わたしはただのアルバイトですから。雇われて、時間どおりに仕事をするだけなんです。だから別に、世界の敵とか、そういうものじゃないですよ」
彼女が笑いながら言う。
「それでもお給金のためにはきちんとやらなくてはいけません。ただのアルバイトですが、ヒーローさんたちと、わたし戦います」
お金のために働く。
アルバイト感覚でヒーローたちと戦うと言うのだ。その傲慢な考えにやはりレッドは怒り狂った。人類のため、そしてかけがえのない家族のために日夜努力を続けてきた自分たちに、なんの覚悟もないアルバイト風情が立ち向かおうとしてきている。それが何よりも許せず、レッドの頭は冷酷に冴えた。
「それなら相手になってもらおうか」
レッドが構えをとる。
怒れば怒るほどに頭が冴える特殊性をレッドはもっていた。
怒りが力になるのだ。
これまでの魔王軍との戦いでもその才能がいかんなく発揮されてきた。アルバイトであろうと容赦はしない。少女の甘い考えを粉々に砕いてやる。レッドはそう思考し、そのとおりにしようとした。しかし、
「あ、無駄ですよ?」
少女が当然のように言った。
そのかわいらしい声にレッドの虚が突かれる。それがレッドの最大の敗因だった。目の前の少女に勝つ可能性があったとすれば、彼女が動く前にすべてを終わらせる必要があったのだ。
「男の人はわたしには勝てません」
「な、なに?」
「はい、見てください」
詩織が制服のボタンをはずした。
そして、その凶器をレッドに見せつける。
効果はてきめんだった。
「う」
レッドが呻く。
彼の目の前には巨大すぎるおっぱいが露出していた。制服からこぼれた大きな乳房。ブラジャーからもあふれかえってしまっている柔肌が、レッドの視界に飛び込んでくる。その柔らかそうな二つの果実を見ただけで、レッドの意識が奪われてしまった。
(な、なんだこれは)
おっぱい。
そのはずだった。
けれども普段オカズにする動画や画像のおっぱいとは明らかに違っていた。どう考えても人間離れしているようにしか見えない。張りがある健康的な肌。そこに水滴が落ちても簡単にはじけてしまいそうなほどテカテカに輝いた生命力の塊。これまで見てきたどんな爆乳よりもデカい。普通なら重力に負けるはずなのに、そのおっぱいは物理法則にすら打ち勝ってしまっているように思える。その大きさと、形を前にして、レッドの意識が朦朧としてきた。
(そ、それに、なんだか甘い匂いが)
さきほどからレッドの鼻を刺激してくる匂い。
詩織がおっぱいを露出したのと同時に強くなったその匂いを嗅げば嗅ぐほどに、レッドの体から力が抜けていく。頭が麻痺して、レッドの力の源である怒りが消えていってしまう。代わりに現れるのは欲情。色欲に支配されて、レッドの足腰がガクガクと震えてしまった。
「あ、すごいですね。まだがんばれるんですか?」
詩織が驚いたように言った。
「さすがは第13戦隊のリーダーさんですね。今までの方は、これでおしまいでしたけど」
「な、何を言ってるんだ、お前は」
「それなら、これでどうですか?」
えい。
かわいらしいかけ声。
同時に詩織がブラジャーをはずした。「あ」という声がどこからか響いた。少女の巨大すぎる生乳がこぼれてきて、ついにレッドの意識がおっぱい一色になってしまった。
「しゅ、しゅごいいいいッ!」
レッドの口から情けない声が漏れる。
目を血ばらせたレッドが、ハアハアと息を漏らしながら食い入るように凝視する。少女の生乳。現実感がないほどにデカいのに、やはり重力に逆らって鎮座するおっぱい様に意識のすべてをもっていかれ、それ以外になにも考えられなくなってしまう。
「はあはあはあ」
荒い息が漏れる。
普段のレッドからは考えられない乱れよう。質実剛健を地でいく強い男が、おっぱいの前に屈服してしまっている。怒りをパワーにしていく男の体から怒りがなくなっていった。だからだろう。レッドは最後の一瞬まで、詩織がゆっくりと自分に近づいてくることに気づけなかった。
「はい、おしまいです」
ぎゅううううううッ!
「むうううううッ!?」
捕食された。
そうとしか見えなかった。
巨大なおっぱいがレッドの顔面を捕食し、そのまま生乳の中に生き埋めにしてしまっていた。
「むっぐうううううッ!」
レッドがじたばたと暴れる。
必死の抵抗。
おっぱいで顔面を包み込まれているだけなのだ。こんな拘束、簡単に抜けられる。そう思っていたレッドはあまりにも愚かだった。
(しゅ、しゅごいいいいいッ!)
顔面に伝わってくる生乳の感触で、一瞬にしてレッドの体から力がなくなってしまった。
抵抗して暴れていた体が少しづつ脱力していく。
それほどまでに詩織のおっぱいの威力はすさまじかった。顔面に伝わってくる柔らかさの前にレッドの体が屈服していく。顔面には健康的なピンク色の乳首がこすれ、それだけで下半身が溶ける。そんな物理的なおっぱいとの接触だけでもダメなのに、息を吸うと猛毒みたいな甘い匂いで頭が麻痺してしまった。
「むうう・・・・むうう(ビクビクンッ!)」
ついにレッドの体が完全に脱力した。
少女のおっぱいに頭を突っ込みながら、両手両足をダランと垂れ下げてしまって、ぴくぴく痙攣するだけになってしまう。
「男の人は、わたしのおっぱいには勝てないんですよ」
できの悪い生徒に言い聞かせるようにして、詩織が続ける。
「レッドさんだけではないので安心してください。年上だろうが歴戦の勇者だろうが、わたしのおっぱいの前では無力なんです。みなさん、わたしの弟みたいに甘々のおっぱい奴隷になってしまうんですよ」
「むううう・・・・むううう・・・・」
「あ、わたし弟がいるんです。それがもうかわいくてかわいくて、毎日かわいがってあげているんですが、そのせいで重度のおっぱいジャンキーになってしまいました。そんな姿もかわいくて、毎日おっぱいを堪能させてあげているんですよ」
こんなふうに。
ぎゅううううううッ!
「むううううううッ!」
レッドの顔面がさらに詩織の底なしおっぱいに引きずりこまれていく。乳肉が頭部全体を生き埋めにして、その柔らかさの前にレッドの体がさらに脱力してしまう。おっぱいの谷間の奥底に眠っていた甘い匂いを嗅いで、さらにレッドが狂っていく。
(頭バカになりゅうううッ!)
甘い匂いを嗅げば嗅ぐほどに頭が麻痺した。
すごい幸せな気分になって、敵のおっぱいに拘束されているのも忘れて夢中になってしまう。逃げないといけない。けれど前頭葉が命じた電気信号は各筋肉に届く前に溶けてなくなってしまう。それもこれも、少女の甘い匂いのせいだった。
「フェロモンです。すごいでしょ?」
困惑したレッドに答えを与えようと詩織が言う。
「わたしのフェロモンは特殊みたいで、みんな夢中になってしまうんです。どんなに強情な男性もこれをくらったらいちころです。みんな従順なおっぱい奴隷になってしまいます。ふふっ、今のレッドさんみたいに、体中の力を失って、ぴくぴく痙攣するだけの情けない姿になってしまうんですよ」
言葉どおりレッドは自分の体に力が入らないのを感じた。それどころか、抵抗しようという気持ちすら溶けてなくなっていくのを感じる。
(勝てない・・・・勝てないんだ・・・・)
そんな気持ちがレッドの中にたまっていく。
それほどまでにおっぱいの威力がすさまじかった。怒りを力にするレッドの特殊性が、少女の凶悪フェロモンによって完全に無力化されてしまっている。レッドの中の怒りがなくなり、かわりにおっぱいに対する隷属心でいっぱいになってしまった。
「はい、墜ちましたね」
詩織が言う。
「それでは魔力を吸収しますね?」
ん、と甘い声が漏れる。
同時にレッドの体が赤く明滅した。それはこれまで敵を倒して吸収してきた魔力そのものだった。戦隊スーツにため込まれていたエネルギー―――それがゆっくりと少女のおっぱいに向かって動いていく。
「うわ、すごい魔力ですね」
詩織が驚いたように言う。
「さすがはレッドさんです。戦隊のみなさんの中でも一番強い・・・・・さすがですね」
賞賛される。
けれど彼女は今、あまりにも簡単にレッドから魔力を吸収しているのだった。その規格外の爆乳で、レッドが必死の努力の末にたくわえてきた魔力を吸収してしまっている。それがレッドには信じられなかった。
(な、なんで・・・・この子はただの人間のはずなのに・・・・・なんで魔力を吸収することなんてできるんだ)
薄れいく意識の中で思う。
その答えは詩織からもたらされた。
「実はわたし、魔王さんに魔法をかけてもらったんです。この魔法、相手が屈服したらその人がもっている魔力を吸収できる魔法なんですって」
「むううううッ!?」
「最初は強いヒーローさんたちを屈服させることなんてできないだろうと思っていたんですが、おっぱいでパフパフしてあげたら簡単にできました。そうするとほら、こうやって、みなさんの魔力を吸収できるんです」
ぎゅうううううううッ!
抱きしめが増す。レッドの光が強くなって、それが少女のおっぱいのほうへと移動していく。貴重な魔力がどんどん吸収されていった。
(だ、大事な魔力が、こんなことで)
これまで敵を倒して手に入れてきた魔力。
自分だけではない。初代レッドや2代目レッドたちの努力の結晶。男たちが命をかけて戦いに勝利し、勝ち取ってきた大事な魔力が、こんなふざけたおっぱいで吸収されてしまうなんて、悔しくて仕方なかった。
(許せない)
レッドの中に怒りが生まれる。
理不尽な状態に対して強まるレッドの力。その怒りのパワーを活力として、今、レッドがおっぱい監獄から抜けだそうと、
「ん、おいしい」
「あひいいいいいいいッ!」
無駄だった。
おっぱいの前ではあまりにも無力。その乳肉の感触と、フェロモンの多幸感によって、レッドの怒りは霧散し、吸収されてしまう。しかも、
(ぎ、ぎもじいいいいッ!)
さきほどから魔力を吸い取られるたびに感じる快感。まるで射精をしているようなエクスタシーが全身を貫いてくる。気持ちよさがずっと続き、レッドの体がびくんびくんと痙攣していった。
「きもちいでしょ?」
詩織が言う。
「魔力を奪われてきもちがいいんですよね? そういうものだって魔王さんが言ってました。だから恥ずかしがらなくてもいいんですからね」
甘い言葉。
それにレッドの心がさらに屈服してしまう。
「ぜ~んぶ、わたしのおっぱいで吸収してあげます」
にっこりと笑って、
「おっぱいに夢中になってくださいね、レッドさん」
*
時間が経過する。
逃げることもできずレッドの顔面は詩織の爆乳に拘束されたままだった。ずっと魔力が吸収されていき、レッドの絶頂もまたずっと続いていた。
(負けるのか・・・・このまま・・・・おっぱいなんかに全部奪われて・・・・・)
力なくピクピク痙攣するだけになったレッドが絶望の中で思う。
なんども怒りを力に変えて逃げだそうとしたが、やはり無駄。怒りが生まれたのと同時にその力ごとおっぱいに吸収されてしまう。吸収されれば快感で体が脱力して動けなくなる。少女のおっぱいに顔面を突っ込み、両手両足を脱力させた男が、大事な魔力を奪われていった。
(すまない・・・・みんな・・・・)
謝罪の言葉が脳裏によぎる。
人類の敵に敗北してしまった。
それも魔王軍そのものではなく、魔王軍に雇われたアルバイトの少女に完敗してしまったのだ。
その情けなさ過ぎる結末にレッドの瞳からぽろぽろと涙がこぼれていく。けれど、そんな男の涙すら少女の爆乳によって吸収されてしまう。ヒーローとしての尊厳も、男としてのプライドも、なにもかも少女の爆乳に奪われていく。
(負ける・・・・負け・・・・)
あきらめてしまった男。
ぴくぴくと痙攣していくだけの敗北者。
しかし、次の瞬間、唐突に魔力の吸収が終わった。
「考えてみれば、このまま全部奪ってしまったらダメですよね」
詩織が真剣そうにつぶやいている。
レッドが訳も分からずにいると、突然レッドの頭部がおっぱいから引き抜かれた。首と顔の下半分は豊満な谷間によって挟まれ、拘束されながらも、レッドの顔面だけが乳肉と乳肉の間からひょっこり顔を出していた。
(なぜ、吸収をやめたんだ?)
ピクピク痙攣しながらレッドは疑問に思っていた。
かなりの魔力が吸収されたといっても、まだスーツには魔力が内包されていた。その途中で彼女が吸収を止めたのはなぜなのか。訳が分からず、レッドは少女のおっぱいの中でアヒアヒと悶えるだけだった。
「今日のところは見逃してあげますよ、レッドさん」
詩織がニッコリと笑って言う。
レッドは困惑して少女を見上げることしかできなかった。
「考えたんですけど、このままレッドさんの魔力を吸収したら終わってしまいますよね」
少女がレッドを見下ろしながら、
「レッドさんの魔力を吸収したら魔王軍の勝利です。そうなると困るんですよね。だって、」
淡々と、
「魔王軍が勝ってしまうと、わたしのアルバイトも終わっちゃいますから」
ただそれだけ。
アルバイトが終了になって賃金を得られなくなってしまう。そんな理由で、詩織はレッドにとどめを刺さないというのだ。
「だから見逃してあげます。あと一歩のところでレッドさんが決死の力で抵抗してきて、イエローさんを抱えて逃げてしまったと、魔王さんにはそう報告しておきますので、安心してください」
どさっ。
詩織がレッドを解放する。
久しぶりにおっぱいから逃げることができたレッドの体が、そのままうつ伏せに倒れる。もはや体に力が入らないらしく、その体がガクガクと痙攣していく。そんな惨めな扱いを受けながらも、レッドはあくまでも誇り高い男だった。
「ふ、ふざけるな」
ぷるぷる震える両腕で体を起こそうとする。
けれども全身の力が脱力してしまっているせいで、途中でガクンと力尽き、また地面に突っ伏してしまう。それが繰り返されていく。
「ふざけるな。そ、そんな理由で、勝負を途中で投げ出すなんて・・・・・そんなこと、許されていいわけがないだろう」
これは命をかけた戦いなのだ。
魔王と人類の互いの存亡をかけた戦い。
それなのに、少女はあくまでも自分のアルバイトがなくなったら困るという理由で勝負に水をさそうとしている。レッドにはそれがとにかく許せなかった。
「立とうとしても無駄ですよ、レッドさん」
そんな地面に這いつくばっているレッドのことを詩織が見下ろしていた。その顔には明らかに真剣な表情は浮かんでいなかった。
「わたしのおっぱいをくらって動けるわけないじゃないですか。1時間はそのままですよ?」
「く、くそッ! 動けええええッ」
「無駄ですって。そんなにがんばらなくても、見逃してあげるって言ってるじゃないですか。なにがそんなに不満なんですか?」
キョトンとしている少女の表情にレッドの怒りが増す。その舐めきった態度がどうしても許せなかった。レッドはなんとか立ち上がろうとして、それでもやはり力尽きて、地面に顔面から突っ伏してしまう。
「あ、証拠写真だけとらせてくださいね。魔王さんに疑われてしまいますから。業務報告はしておきたいので」
レッドを無視して少女がてきぱきと準備を始める。
スマフォを置いて撮影画面にする。
タイマーをセットすると、地面に倒れたまま気絶しているイエローを回収して戻ってきた。そして、まだプルプル震えたまま立ち上がろうとしているレッドの髪の毛を片手でつかみ、同じようにイエローの髪の毛もつかむと、ぐいっと持ち上げてしまった。
「はい、記念撮影ですよー」
そう言ってセットしたスマフォにむかってニッコリと笑顔を浮かべたバイト少女。
その両手には戦利品であるレッドとイエローが握られている。髪の毛をつかまれ、持ち上げられて、強制的にカメラ目線にさせられた男たち。
「や、やめろおおおッ!」
レッドが暴れるがやはり無駄だ。
脱力した男が情けない表情を浮かべたまま、少女によって宙づりにされ、最後にカシャっと、写真をとられてしまった。
「ん、これでよしっと」
詩織がすぐに男二人を解放してやる。
彼女がセットしたスマフォを回収して写真のチェックをし始める。これなら大丈夫そうですと笑った少女が、撮影した写真をレッドに見せつけてきた。
「ほら、よく撮れてますよね」
「ああああああッ!」
レッドの眼前に写真が突きつけられる。
写真の中では、自分とイエローが無様なアヘ顔をさらして映っていた。
自分はこんな顔を浮かべているのかと、今更ながらに驚愕する。少女が、にっこりと優しげに笑っているのも衝撃的だった。そのデカいおっぱいも相変わらずだ。レッドの股間がすぐに勃起した。
「乱暴なことをしてすみません。戦隊の人たちが情けない姿になっていると魔王さんたちが喜ぶんですよ。臨時ボーナスをくれることもあるので、できる限り戦隊の人が情けない姿になるように写真撮影して、業務報告にしているんです」
にっこりと笑って少女が言う。
「このバイト、すごく時給がいいので。できる限り続けたいんです。なので、次の戦いでもちゃんと手加減してあげますから安心してください」
少女がレッドを労るようにして、その頭を撫でてやった。
「これからよろしくお願いしますね、レッドさん」
それでは失礼します。
そう言って詩織が去っていく。レッドはそれでも立ち上がろうと無駄な努力を続けていた。
「ま、待て!」
叫ぶ。
うつ伏せで倒れ、這いつくばるようにして詩織の後ろ姿にむかって、
「勝負しろ! 最後まで勝負しろ!」
滑稽に怒鳴りちらかしていく。
けれども詩織は振り返りもしない。相手にされていないのだ。すぐに少女の後ろ姿も見えなくなってしまった。
「ち、ちくしょおおおおおッ!」
レッドの怒りが彼に力を与える。
それでも立ち上がることすらできなかった。ビルの路地裏で、アヘ顔を浮かべた二人の男が、力なくぴくぴくと痙攣を続けていった。
つづく