姫華物語 第4章
富士見ヶ丘高等学校の入学式。
そこには姫華とその家族の姿があった。
さきほどまで式典が行われていて、そこで主席合格を果たしていた姫華が新入生代表のあいさつをした。早くも制服を着崩し、派手なメイク全開の褐色ギャルが壇上にあがると会場全体がザワザワとうるさかったが、慣れっこの姫華はよどみなくスピーチをして、壇上を後にした。今は入学式が終わり、出席してくれた父と兄のところで軽く話しをしているところだった。
「娘よ。立派な姿だったぞ」
父が父親の威厳の演技をしながら言った。
兄の影響なのか元々の血筋なのか、最近、父親っぽい言動に固執する傾向があって、姫華は「ウザいな」と内心で思っていた。
「ウザいな。いつもそんな口調じゃないじゃん」
「姫華、唐突にディスられると父さんだって傷つくんだよ。それと、制服はきちんと着なさい」
「父親様よ。姫華はこれでいいんだって。似合ってるじゃんか、なあ」
兄が助け船を出してくれる。
やれやれと肩をすくめた父がため息をついてから言った。
「まあ、本当にこの学校に入学してくれるとは思ってなかったし、オマケに主席合格とくれば何も言うことはないさ。よくがんばったな、姫華」
「パパ」
「パパはやめなさい。JKのおまえに言われるとなんか別の意味に聞こえる。それより、今更だが本当にいいのか。姫華のことだから、BL学園に入学するってそうごねると思ってたんだがな」
「そんな約束を破るようなことしないよ。それに、高等部に入ってもスクールに通わせてくれるんでしょ?」
「無論だ。万年係長の年収を舐めるなよ。好きなだけバトルファックに打ち込めばいい」
父がドヤ顔で言う。ウザいなと思ったけど今度は口に出すことはしなかった。
「そういえば、この学校にもバトルファック部はあるんだろう? そっちには入部しないのか?」
「え、う、うん。そうだね」
「別にスクールに通いながらでも部活に入ることはできるんじゃないか? 部活はいいぞ。高校生活が充実したものになる。父さんもこう見えて高校時代はブイブイ言わせていたものだよ。聞く? 武勇伝」
「聞きたくない」
姫華が端的に言うと「そ、そうか」と言って父親が押し黙った。
「まあでも、部活で得られるものがあるのは確かだ。どうだ。バトルファック部には入部しないのか?」
「ん……なんというか……その」
思い浮かべるのは健二先輩のことだった。
彼にもらった競技水着は黒宮によって引きちぎられ、使えなくなってしまった。部活に入れば、当然、彼とまた肌を重ねることになる。その時、プレゼントされた競技水着を着用していないことに気づいた健二先輩がどう思うのか。それを考えると、どうしても部活に入ろうという気にはなれないのだった。
「まあまあ、妹ちゃんには妹ちゃんの考えがあるのさ。約束どおり富士見ヶ丘に合格したんだから、あとは妹ちゃんの好きなようにやらせてやろうぜ」
いつものように兄が助け船を出してくれた。
父親もそれ以上の追求をするつもりはないようだった。
「じゃ、俺らはもう行くぜ。しっかりやれよ妹ちゃん」
「うん。お兄ちゃんも、忙しいのにありがとね」
「いいってことよ。久しぶりに制服姿の女子高生と合法的に干渉できるチャンスだったからな。何人か連絡先も交換したぜ」
こんなところでも兄は兄だった。
犯罪はしないでよねと注意すると、兄は「にっしっし」と笑って父と一緒に帰っていった。父が兄に「連絡先を今すぐ捨てろ」と怒鳴りながら歩いている。姫華は家族から大事にされていることを感じながら、新しい学校へと入っていった。
●●●
姫華の学校生活は順調の一言だった。
元々、富士見ヶ丘は進学校で知られており、ここに通う生徒たちは勉強が出来て大人しい生徒が入学していた。だからこそ、姫華のような派手な生徒はクラスの中で浮いてしまうものだが、ギャルになった姫華のコミュニケーション能力にかかればクラスの中心になることなんて簡単なことだった。
「清水っち、おっはー」
「か、神村さん、お、おはよう」
「加藤っちは今日も練習だったん? 朝からがんばるねー」
「お、おう。おはよう、神村」
今日も元気に姫華があいさつをしている。
清水と加藤は中等部から一緒の男子友達だ。進学校の富士見ヶ丘に合格するため必死に勉強をして合格を勝ち取った男たち。彼らの目的は姫華と一緒の学校に通うことだった。そのためだけに、彼らは教師から無謀と言われていた合格を勝ち取ったのだった。
「ねえ、二人とも選択授業はバトルファックにするんだよね?」
二人にむかって姫華が言う。
途端にオドオドし始めた男友達2人を見て、姫華がニンマリ笑った。すべてを把握している姫華が勝ち誇るようにして言う。
「ふふっ、ウチもバトルファック選んだからさ~、また中等部の頃みたいに、徹底的に搾り取ってあげるね~」
こんなふうに。
姫華が左右から自慢の褐色おっぱいを挟み込む。着崩した制服からこぼれる褐色おっぱいの谷間がぐんにゃりと歪み、男二人はそれだけで限界に達した。
「「い、いっきゅううううッ」」
どびゅどっびゅううううッ!
視覚情報だけで射精した男たち。
姫華はくすりと笑ってから、次なる獲物を求めて教室中を闊歩する。梅野をみつけて同じことをして遊び、高等部から友人になった男たちをからかって射精に追い込む。遊び半分に男を射精させて楽しむ姫華。男たちはますます姫華の魅力にのめりこみ、おっぱい奴隷として彼女に心酔していった。
●●●
姫華はできるだけ自分の教室から出ないように心がけていた。
そのせいで、彼女の濃密なフェロモンが教室中に溢れかえり、男たちを悶々とした気持ちにさせていた。ふとした瞬間に見える姫華の大きなおっぱいやムチムチの太もも、さらには巨大な桃尻を前に、興奮した男たちは前かがみになり、何度もトイレに直行することになる。
そんな男子たちの反応は確かにかわいかったが、姫華としては意図してそのような反応を引き出すために教室から出ないようにしているわけではなかった。
健二先輩に会わないようにする。
ただそれだけのために、姫華は休み時間も外に出ないようにしているのだった。トイレに行く時間も忍者のように気配を消し、移動時間についても鉢合わせをしないように気を配った。
しかし、真面目すぎて少し抜けたところのある姫華は、健二が自分に会いにくる可能性のことを全く考えていなかった。
「おう、姫華。ちょっといいか」
上級生が堂々と1年の教室に入ってきた。
その空気の読めていない感じは相変わらずだなあと思いながら、姫華は「うっ」と健二のことを見つめたまま動きを停止してしまう。ジャガイモ顔は相変わらずだったが、少し体が大きくなった気がする。身長も少し伸びていて、なんかいいなーと思った。そんななんの気なしの思考も健二が目の前に来たことによって停止してしまった。
「おいおい、どうしたよ姫華。ひょっとして俺のこと忘れちまったのか」
心配そうな表情。
忘れるわけないだろうがと思いながら、姫華が重々しく口を開いた。
「前田健二先輩。2年生。西園寺拓也選手が大好きで、バトルファックに命をかけちゃう頭のおかしなところがある」
「なんだよ姫華、覚えてるじゃないか」
「当たり前ッスよ。お久しぶりッス、健二先輩」
どきどきしながら話しかける。
大丈夫だろうかと姫華は心配でならなかった。今の自分はきちんと気さくで人なつっこい後輩の演技が出来ているだろうか。心臓がどきどきし過ぎて、自分でも何を言っているのか分からない。
「おお、元気そうでよかったよ。スクールに通ってるんだってな」
「そうなんッスよ。健二先輩が卒業してから、同好会じゃ練習する相手がいなくなっちゃいまして」
「まあ確かに、おまえレベルだと相手を務まる男も少ないだろうな。どうだ、問題なくやれてるのか」
「ええ。メキメキ上達して敵なしッス。今なら健二先輩のこと瞬殺できるかもしれないッスよ」
動揺しながら答える。
スクールでのことを健二先輩が知っているのか知らないのか、それが問題だ。スクールで黒宮にボコボコにされていること。そんなことを知られたら生きていけない。ひょっとしたらプレゼントされた競技水着が破られてしまったことも知っているかもしれない。もしそうなら、教室の窓から飛び降りて自決しよう。そんなことを考えていた姫華の心配は杞憂だったようで、健二が本題を切り出した。
「今日はお前に頼みがあってきたんだ」
「頼みッスか?」
「そうなんだ。スクールに通っているお前にこんなこと頼むのはアレなんだが、お前しか頼りにできる奴がいなくてさ」
そう言ってお願いされたのはバトルファック部の練習につきあってほしいということだった。
女子部員が全員卒業してしまい、さらには新入部員も入部してくれなくて、練習相手がいないとのこと。だから、練習に付き合ってくれる女子を探しているのだという。
「あー」
姫華が口を開く。
その「あー」はどこまでも間延びして響いた。
健二先輩の力になってあげたいという気持ちもあれば、そんな女子部員も満足に集められないザコ部活で健二先輩以外のザコ部員を相手にしたくないという思いもあった。しかし何より気にしているのは、健二先輩からプレゼントされた競技水着のことだった。姫華は発声練習でもするかのように、「あー」と30秒ほど声を出してから言った。
「ごめんなさいッス。健二先輩のお願いでもやっぱりダメっす」
「やっぱりダメか」
「ッス。ウチ、本気でプロ目指してるんッス。だから、スクール一本でがんばりたいです」
いつから自分はプロを目指すことになったのだろう。
自分の目標は黒宮に復讐することただそれだけだった。それなのに、健二先輩のお願いを断るためだけに、口からすんなりと嘘が出てきた。詐欺師の才能があるかもしれない。やはりあの口から生まれたような兄は自分の実の兄であり、血は争えないようだった。
「そうだよな。無理言ってごめんな」
「い、いえいえ。そんなの、気にしないでください」
姫華は罪悪感でどうにかなってしまいそうだった。
そんな気持ちも知らないで、目の前のジャガイモ先輩が優しくほほえんできた。
「がんばってるんだな姫華。誰よりも強くなるって、そう言ってたもんな」
彼の手が姫華の頭におかれる。
そのまま、ゆっくりと力強く頭を撫でられた。かああっと顔が赤くなり、何も考えられなくなってしまう。追い打ちをかけるようにして目の前のジャガイモが口を開くのを聞いた。
「お前ならプロだってなんだってなれるよ。がんばれよ、姫華」
言いたいことだけ言って健二は帰っていった。
後には顔を真っ赤にしたままの姫華だけが残された。あのジャガイモはますます空気が読めない女泣かせになっている。黒宮に復讐した後にはちょっとこらしめる必要がある。そんなことを姫華は考えては、健二に撫でられた頭に自分で触れ、「ふふっ」と上機嫌に笑うのだった。
つづく