女子ソフト部の練習が終わった。
外はすっかり夜だ。
他の部活の生徒たちもいなくなったグラウンド。その一角に立つ1年女子ソフト部員たちの部室で、一人の男の人生が終わろうとしていた。
「それじゃあ、最後のチャンスをあげるわ」
彩華が言った。
部室の中には1年生部員6名に町田、そして男子ソフト部のキャプテンがいた。
彩華と男子ソフト部のキャプテンが対峙し、それをほかの部員たちが取り囲む格好だ。
彩華の様子はとても楽しそうで、獰猛な鷹のような笑みを浮かべている。
これからなにが始まるのだろうかと、町田は不安になった。
「わたしに勝てなんて言わないわ。そんなの無理だし。だから、あんたが私の頭に触れることができたら許してあげる。で、あんたの負けはあんたがギブアップって言ったときだけでいいわ。これなら希望があるでしょ?」
「ゆ、ゆるしてください。彩華様、なんでもしますから・・・・それだけはああ」
「ふふっ。勝てばいいだけの話よ。勝てばまだまだ玩具として遊んであげる。でも、あんたで遊ぶの飽きちゃったのよね」
くすくす笑いが巻き起こる。
長身の女子部員に囲まれ、肉の壁を前にして、男は逃げることを諦めたようだった。
「決まりね」
彩華が言った。
「それじゃあ、はじめましょうか」
*
対峙する彩華と男。
彩華はニヤニヤと笑いながら、手を腰にやって余裕の表情で立つだけ。
対して男は焦燥にかられたように、吐く息荒く、彩華のことを見上げている。
その体格差。
まるで大人と子供の戦いだ。
こんなの勝負にすらなるはずない、町田はそう思った。
「う、うわああああ!!」
男が彩華に突進した。
必死の形相で、男が彩華の体に組み付き、全力で倒しにかかる。
体格差のため、男は彩華の腰のあたりに組み付くことしかできなかった。
全力。顔を醜く歪ませ、顔を紅潮させてまで、必死に力をこめる。
しかし、
「それっぽっち?」
それを彩華は余裕の表情で受け止めていた。
涼しげな表情。
手は腰にやって仁王立ちとなり、彩華の体はまったくビクともしなかった。
「ねえ、わたしまだ、ぜんぜん本気だしてないんだけど」
「く、あああああ!」
「あんた、負けたらどうなるか分かってるのよね? それで、本気の本気で今、わたしにタックルしてきてるのよね」
問答の中でも、男は必死で彩華の体を押し倒そうとしていた。
しかし、全くの無駄。
彩華は自分の体にまとわりつく虫でも見るかのように男を見下ろしていた。
絶対零度の視線。
女王様のような雰囲気を漂わせ、冷然として男を見下ろす絶対者。
「ふう、もういいわ」
そんな彼女がため息をついた。
おもむろに右手を振りあげる。
そしてそのまま、無造作に男の背中に上から張り手を振りおろした。
バッチイイイインン!!
「ヒッヒアアアアア!!」
打撃音の男の悲鳴が響く。
彩華の一撃によって、男は勢いよく地面に叩きつけられてしまった。
地面にうつ伏せで倒れ、背中の激痛にのたうちまわっている男。
そんな男を淡々と見下ろした彩華は、またも無造作に右足を振りあげると、そのまま地面に倒れている男の背中に踏みおろした。
「ひっぎゃあああ!!」
背中を踏みつけ、なおも彩華の乱暴はやまない。
そのまま、ぐりぐりと男の背中を踏みつけ、潰そうとする。
彩華の大きな足裏と地面にサンドイッチにされてしまった男は断末魔の悲鳴をあげた。
「ほら、立たないと、潰されちゃうわよ」
ドスン!!
ベギイ!! バギイ!!
「ひぎゃあぶギャアアッッ!!」
何度も何度も、彩華が男を踏みつけ続けた。
たくましい生足でもって、矮小な負け犬を踏みつぶしていく。
男を踏みつぶす際に、彩華の太股には魅力的な筋肉の筋が浮き出て、見る者の心を奪った。
それは町田も同じだった。
彩華が男を踏みつぶしていく光景を、町田は恍惚とした表情で見つめていた。
その圧倒的な力の差。
神々しいなまでに力強い彩華の魅力。
それに心を奪われてしまい、町田は目の前で行われている異常な光景になにも言えなくなってしまっていた。
「アハハ! ぼろ雑巾みたいになったわね」
ひとしきり踏みつぶすと、彩華が言った。
彼女の生足は男の後頭部を踏みつけていた。ときおり、ぐりぐりと足を動かし、男の顔面を地面に押しつけている。
男は、何度も何度も踏みつぶされ、抵抗する気を失ってしまったようだった。
さきほどから、必死な命乞いが続いている。
「許してください、彩華様あああ! なんでもしますから、なんでも!」
「・・・・・・・・・・」
後頭部を踏みつけられ、男は彩華に土下座をしているような格好になっていた。
それを仁王立ちの彩華が冷たく見下ろしている。
彼女は、もはや隠す気もない女王様としての威厳をもって言った。
「じゃあ、潰してもいいの?」
「ひ、ひい」
「諦めて、女の子になっちゃう?」
「やめてえええ!! ゆるしてくださいいいい!!」
聞き分けのない男に彩華が業を煮やした。
彼女は男の髪の毛をつかむと、勢いよく持ち上げた。
ぶちぶちっと髪の毛が抜ける音がする。
そのまま男を持ち上げると、一度、自分の顔の前に男の顔をもってくる。
そして、まじまじと醜く汚れた男の顔を凝視した。
その上で、彼女は最後の仕上げをすることにした。
「連続気絶、いくわよ」
*
男の背後にまわりこみ、チョークスリーパーの格好になる。
男の細い首に、彩華のたくましい二本の腕が巻き付いた。
まったく隙間なく、男の首にまきついた彼女の腕は、さながら獲物にまきついたアナコンダのようだった。
「どうされるか、あんたなら分かるでしょ」
彩華が男の耳元でささやく。
艶めかしく、情事をささやくような妖艶さで、
「あんたが潰してくださいって言うまで、ずっと締め続ける。泣いても喚いても許さない。ずーっと朝まで、満足に酸素を吸わせてもらえずに苦しむの」
「ひ、ひいいい」
「ふふっ、これやって、あなたは私の奴隷になったんだもんね。嫌でも覚えてるでしょ、これがどんなにつらいか」
「やだああ、ああああ!!」
反狂乱になって暴れる男。
しかし、彩華はそんな男を腕だけで拘束してしまっていた。
身長差故、男の足は地面についていない。
彩華の腕で宙づりにされ、既に男の運命は決まっていた。
「何回まで、正気でいられるかな」
「ゆるして、ゆるッヒッギャアううう!!」
ベジイイ!!
メキッッギャベチベチ!!
彩華の腕に力がこもった。
男の首から肉と骨が壊れる音がする。
「うわあ、彩華ちゃんのタワーマンション、久しぶりに見るなー」
周囲を取り囲む女子部員たちが口ぐちに喋り始める。
「見てよ、こいつの顔、真っ赤になっちゃって爆笑なんだけど」
「キャハハ、必死に暴れちゃってさー、昆虫みたいですねー」
「ま、無駄だけどね。こいつの力だったら、わたしでも余裕に拘束できるかな。彩華だったら、抵抗なんてできないよね」
女子部員たちは残酷だった。
男の人生を壊すこの作業を、ありきたりのレクリエーションとしか思っていない。
そんな女子部員たちの輪の中で、町田は彩華への畏怖と共に、恐怖を覚えていた。
しかし、彼は、彩華の腕の中で顔をチアノーゼをおこして真っ赤にしながら、必死に暴れている男から目をはなせなかった。
「頸動脈は絞めてあげないわよ。気道だけ完全に塞いであげる」
「ヒッギイイッギャッギャ!!」
「こうすると、痛みと苦しさがずーと続くのよね。息をすることなんてできず、ツバも飲み込めないまま、ずーと苦しむ」
「hっやjぎゃああああ!!」
「そろそろ一回目ね」
言葉どおり、男の抵抗が少しづつ小さくなっていく。
それを彩華は後ろから淡々と観察していた。
そして、
「はい、墜ちた」
冷酷に言った。
周囲の女子部員たちがキャアアっと歓声をあげる。
町田は呆然とするしかなかった。
こんなにも簡単に男のことを墜としてしまえるのか。
この前まで中等部だった女の子が、年上の先輩をこうまで圧倒することができるものなのか。
町田は自分の足がガクガクふるえるのを感じた。
「ほら、見なさい」
いつの間にか、町田の目の前に彩華がきていた。
その二本の腕の間には、男の首が挟み込まされている。
ぶらぶらと、彩華の腕の中で宙づりに揺れる男。
彩華は、その男の顔面を町田に見せつけてきた。
「こんなふうに、あんたもなるのよ」
「う、あ」
「こんなふうに、白目むいて、舌を飛び出して、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになるの」
「ひ、ひい」
町田は恐怖のあまり一歩後ろに下がった。
そんな彼の後頭部に何か柔らかいものがあたった。
「逃がしませんよ、先輩♪」
「ふふっ、これからが面白いところだからさ」
「ちゃあんと、見てないとダメかな♪」
女子部員たち。
町田よりも体格が良く、発育よく育ちきった肢体が、そこには壁のようにして立ちはだかっていた。
下級生の肉の壁。
町田は、年下の女子部員たちに背後から見下ろされ、蛇に睨まれたカエルみたいに硬直した。
「ふふっ、そこで全部見ておきなさい。自分の末路をね」
言うなり、彩華が再開した。
町田は、周囲を女子部員たちに囲まれて、それを見つめることしかできなかった。
*
「はい、23回目の気絶ね」
こともなげに彩華が言った。
彼女の腕の中で永遠絞め続けられている男の姿は、惨めなものになっていた。
目は真っ赤に充血し、涙と涎で見れたものではない。舌はダランと外に飛び出てしまっている。
男は全裸に剥かれていた。
彩華がそうしたのだ。
彼女は片手で男の首を絞めあげながら、もう一方の片手で男の服をすべてはぎ取ってしまっていた。
上着はびりびりに破かれて、彩華の足下に転がっている。
ダランと完全に弛緩してしまっている男の姿。
ときおり、ビクンビクンと陸にあがった魚のように痙攣し、それを見る周囲の女子部員たちが爆笑の声をあげている。
人として終わってしまっているといいほど、調教されてしまった男。
しかし、彩華は許さなかった。
「ほら、起きなさい」
ドッスウン!!
背後から、片手で男の首を絞めあげ宙づりにし、もう一方の手でもって、彩華は男のわき腹を殴った。
何度も、何度も。
その凄まじい一撃の結果、男の体はさらにビクンビクンと痙攣する。
そして、
「ふ、ふは?」
覚醒。
気絶した男は最初、自分が今どういう状態にあるのか分からない。
惚けたように、視線をきょろきょろさせて状況を把握していく。
しばらくして、彼は気づく。
首を動かすことができないこと。
自分の足が地面についていないこと。
そして、さきほどから満足に息を吸えないことに。
「はい、再開」
ベチギチギチッッ!!
ベギャベチベチッ!!
「ふはがあがっっがっがあああ!!」
彩華の腕に力がこもる。
気道だけを完全に封殺。
男が狂ったように暴れ、彩華がそれを無効化する。
これまでと全く変わらない作業が行われていた。
男はこうして何度も墜とされ、起こされ、そして墜とされていった。
強制的に気絶させられ、体を殴られて覚醒され、また気絶させられる。
全裸の男の全身は真っ赤に腫れ上がっていた。
何度も何度も殴られた結果だ。
彩華は、この作業を何度も何度も繰り返してきたのだった。
男の精神はとうに狂ってしまっていた。
「あはは! 見てよ、あいつ、自分の頭ぼこぼこ殴り始めたよ?」
女子部員の言葉どおり、男は狂ったように自分の頭を自分の拳でボコボコ殴っていた。
何度も何度も、頭蓋骨が折れてしまうのではないかという全力で、自らを痛めつける。
「ウウウンギャギャっ・・・・やみゃ、ウググ・・・ヤギャヤ!!」
ボッゴオ! ボゴ! ドスン!!
涙を浮かべながら、人の単語を喋ることさえやめてしまった男。
両拳をつくって、右拳で殴り、左拳で殴るということを、何度も何度も繰り返していく。
ボゴボゴと自分の頭を叩き続ける。
そんな異常な事態でも、彩華は冷静だった。
「ふふっ。何度も何度も墜とされて、起きたと思ったらまだ腕の中で、また墜とされる。永遠の無限地獄。これをされると、男ってみんなこうなっちゃうのよね」
彩華が町田に説明していった。
町田はガクガクとふるえながら、それを聞くことしかできなかった。
「永遠に苦しめられて、死ぬこともできないから、自分で自分を殺そうとし始めるの。哀れよね。そんなの許すわけないのに」
頸動脈絞めてあげる。
彩華が言った途端、男の体がビクっと痙攣し、冗談のようにすぐ意識を失った。
ビクンビクン! と、さきほどまでとは比べようもないほど男の体が痙攣する。
その情けない光景に、女子部員たちからは爆笑の声があがった。
「こうやって頸動脈絞めれば、すぐ墜とされちゃう。自分で死ぬことすらできない。それって、どんな絶望かしらね」
ドッスウウン!!
彩華が殴る。
ぼろ雑巾のようになってしまった男のわき腹を殴り、またしても強制的に覚醒させる。
「ひいいいい!! ひいいいい!!」
目をさました男が、じたばたと両手両足を暴れさせて抵抗し始める。
彩華の腕の中で、息がぎりぎりできる状態のまま拘束させられる。
その一瞬を与え続けるほど、彩華は甘くはなかった。
「はい、再開」
腕に力がこもる。
男の首にまきついた大蛇が、気道を完全に塞ぎ、男から呼吸を奪った。
「はやく言うべきことを言うことね」
彩華が言った。
「でないとこのまま、ずっと続けるわよ。ずっとね」
言葉どおり、女王様としての風格をみなぎらせた彩華は、そのまま何度も男を墜としていった。
男の精神は壊れていった。
唐突に笑いだし、奇怪な笑みを浮かべながら、絶叫したように笑い声をあげ続ける。
かと思うと、突然暴れ出し、全身をバネのように使って、必死の抵抗。
はたまた、いきなり自分の肉棒を握り、勢いよく自慰行為を繰り返す。
そんな男の反応を見て、女子部員たちは爆笑の声をあげ続けた。
「オナニーしてる! あははは!」
「すごーい、なんでなんで?」
「猿みたいに必死に! あは、だめだめ、お腹痛い!」
また墜とされた。
何度も何度も。
それを淡々と行う彩華の姿に、町田は畏怖の気持ちと、何かが高ぶるのを感じた。
絶対無敵の女王様。
自分が彼女の獲物になったらどうなってしまうのだろうか。
今、彼女の腕の中で、永遠の締め付け地獄にあっている男と同じにさせられてしまう。
あんなふうに何度も何度も意識を刈り取られて、人間の尊厳なんて何もかも奪い取られてしまう。
町田は、ごくりとツバを飲み込んだ。
「ねえねえ、彩ちゃん。なんか言いたそうにしているよ」
彩華を取り囲む女子部員が言った。
その女子部員は、彩華に吊されている男の真正面から、男の顔を下からのぞき込んでいた。
その言葉に、彩華が墜とすのを一時中断した。
締め付けはそのまま。
腕の中で、男の首を圧迫しながら、背後から男の顔をのぞきこむ。
「なにか言いたいことがあるの?」
「むううう! ふううう!」
「そう。じゃあ、言葉をしゃべれるくらいに緩めてあげる。言っておくけど、少しでも躊躇したら、すぐにまた再開するからね」
男は、激しく首を縦に振った。
苦渋に満ちた顔。
真っ赤に腫れ上がり、目は充血して、涙と涎でぐじょぐじょにされた男。
彩華は腕の力を緩めた。
ぎりぎり、言葉を言える、それでも息苦しさは継続したままの拘束。
男が堰を切ったように大声で、
「潰してくだしゃいいい!! もう、潰してええええ!!」
「なにを?」
「ぼ、ぼくの金玉ですうう!! 金玉潰してええええ!! お願いしましゅううう!!」
男は必死だった。
必死に、自分の金玉を潰して欲しいと懇願してるのだ。
「自分で言っている意味分かってる? 本当に潰すわよ。二つとも。それでもいいの」
言いながら、一瞬、ぐいっと腕に力をこめる。
ひゅっと一瞬だけ首の締め付けを受けた男は反狂乱になって続けた。
「いいんでしゅうう!! 潰してくださいいいい!! 金玉潰してへええ!! 潰しちゃってくだしゃいいい!!」
「そう」
冷たく言った彼女。
どすっと音がして、男が地面に横たわった。
解放されたのだ。
彩華の肉の中で拘束され、永遠に締め付けらる地獄から解放された。
そして、それは男の終わりでもあった。
「アハハっ」
彩華が笑い、片手で髪をかきあげた。
彼女の表情。
彩華は悦びの笑みを浮かべていた。愉悦と興奮を顔に表し、女豹のように笑う彩華。
彼女はうれしそうに言った。
「わたし、この瞬間がたまらなく好きなのよね。男が苦しくて苦しくて、自分から金玉潰して欲しいって言う、この瞬間が」
彩華が男の目の前で立つ。
腰に手をあて、自分の足下で酸素をもとめてのたうちまわっている男を、虫けらでも見るように見下ろす。
そして、死刑宣告をした。
「それじゃあ、さっそく潰してあげるわよ。負け犬くん」
(続く)