町田は不安と共に目覚めた。
女子ソフト部の部室。そこで起床した町田は、昨日の惨劇を思い出していた。
高校3年生の男子生徒が、新入生の女子生徒にボコボコにされ、最後には男の象徴を潰されてしまったこと。
圧倒的な力の差。
同じ人間同士とは思えないような段違いの性能の差。
それを見せつけるような出来事だった。
これから先、彼女は自分のことを標的にするといった。
いったい、これから自分はどうなってしまうのか。
無事に夏休みを越えることができるのか。
町田は戦々恐々として、ただただ怯えるしかなかった。
(マネージャーとかいってたけど、いったい何をさせられるんだろう)
昨日の男のようなことをされるのではないかと思うと、町田は恐怖でいっぱいだった。
昼休みは顔面騎乗で座布団にされ、夜には人間サンドバックよろしくボコボコにされる。
少女たちのストレス発散のための玩具。
1年生の女子ソフト部員たちの規格外の体格、強さからすれば、そんな非現実的なことだって十分に考えられることだった。
いったい、どうなってしまうのか。
そう考え続けた町田を待っていたのは、拍子抜けするような答えだった。
*
「それじゃあ、ボール磨き、ちゃんとやっとくのよ」
彩華が言った。
場所は道具入れのために使われている倉庫だった。
町田の前には、ソフトボールを入れたカゴが所狭しと置かれていた。
「練習が終わるまでに、全部綺麗にしておきなさい」
いいわね、と言い残して、彩華は練習に戻っていった。
ポツンと残された町田は、途方にくれた。
いったい、どんなことをやらされるのかと思えば、なんのことはない、ただのボール磨きだったのだ。
こちらとしても、部室に住まわせておいてもらう手前、何かお礼のために雑用くらいやらなければいけないと考えていた。
ボール磨きくらい、どうってことはない。
しかし、
「す、すごい量だな」
彩華が置いていったボールは、ケースにして10箱はくだらない。
ケースすべてに、少なくみつもって30個はソフトボールが入っている。
これ全てを綺麗にするなんて、できるのだろうかと、町田は思った。
「まあ、急いでやればなんとかなるのかな」
そう思い、町田はさっそくボール磨きにとりかかった。
昼休みすら返上して、必死にボールを磨き続ける。
硬式の野球ボールと違い、ソフトボールは大きくて、最初は少し手間どったものの、なんとかコツをつかんでボール磨きを続けた。
*
あっという間に日が落ち、練習終了時刻となった。
倉庫の中で、一心不乱にボール磨きをしていた町田は、ふうとため息をついた。
「けっきょく、終わらなかったな」
ケース2つ分を見ながら町田が言った。
なんとかここまでは終わったものの、練習が終わるまでには全部磨き終わることができなかった。
まあしかし、この後も時間はあるのだ。
女子部員たちが帰った後に、きちんと磨き終わればいい。
町田はそう考えていた。
その考えがどれほど甘いものなのか、町田はこの後、身を持って体感することになる。
「ねえ、なんで終わってないのよ」
冷徹とした声が響いた。
倉庫に入ってきたのは彩華だった。
上気した頬。過酷なトレーニングを終えた彩華は、制服姿のときよりも、野生の迫力を存分に発揮していた。
長身。
ど迫力で仁王立ちとなっている彩華に見下ろされ、町田は蛇に睨まれたカエルと化した。
「あ、いや」
「なんで終わってないかって聞いてるんですけど」
不機嫌に言って、彩華が町田の目の前までくる。
町田は彩華を見上げる格好だ。
練習着のユニフォームに身を包んだ彼女はとてつもなく迫力があった。
町田の目の前には、たくましい下半身があり、さらにその上にはユニフォームを突き破らんとする巨乳。
そしてさらに上には、町田を冷徹な瞳で見下ろしてくる彩華の美貌があった。
まるで、ゴキブリでも見ているような、軽蔑とした視線。
被虐の性癖をもっていない男であっても、土下座せずにはいられないようなそんな女王様としての雰囲気。
そんな彩華の様子にビビってしまった町田は、言葉につまって何も言い訳ができなかった。
それが、彩華の怒りをさらに増してしまった。
「言っても分からなきゃ、こうするしかないわね」
「う、わわわ」
言うなり、彩華が町田の胸ぐらをつかんで、持ち上げた。
左手一本。
それだけで町田の胸ぐらをつかんだ彩華は、そのまま、自分の顔の高さまで町田のことを持ち上げた。
身長差。
下級生の女子部員のほうがあきらかに身長は高い。
だから、町田の足は地面につかず、宙づりの格好になってしまった。
下級生の女子に胸ぐらをつかまれ、宙づりにされてしまっている。
襟を締められるように胸ぐらをつかまれているので、町田の息苦しさはすぐに限界をむかえた。
「や、やめて」
必死の抵抗とばかりに、町田が彩華の左腕をつかんで、その拘束をほどこうとする。
しかし、びくともしない。
下級生の女子に、町田は力で勝てなかった。
「わたしは、練習が終わるまでに全部磨いとけって、そう言ったわよね」
彩華が、目の前で宙づりにしている町田むかって吐き捨てた。
「こんな簡単なことできないなんて、お仕置きが必要みたいね」
「い、井上さん、やめ、」
バッッチイイイインン!!
爆発音にも似た打撃音が倉庫に響いた。
ビンタ。
彩華の一撃は、町田をして、自分の首の骨が折れてしまったのではないかと思わせるほど、強烈な一撃だった。
「井上さんじゃないでしょ? あんた、そんなことも分からないの?」
彩華がさらに不機嫌になって言った。
「あんたは、女子ソフトボール部にマネージャーとして入部した新参者なのよ? わたしたちのほうが先輩だって、そんなことも分からない?」
「う、ああ」
「これから先、ちゃんと「彩華先輩」って言うのよ。もちろん、ほかの女子部員にもね。先輩ってつけて、敬語で話さなかったら、ただじゃおかないから」
分かった? と彩華に言われ、町田は必死に首を何度も縦にふることしかできなかった。
下級生の女子を先輩と呼び、さらに敬語までつかわされる理不尽。
それに対する納得のいかなさはもちろんあったが、こうして彩華に片手だけで胸ぐらをつかまれ宙づりにされ、強烈なビンタをくらっては、彼女の言うことを大人しく聞くことしか町田にはできなかった。
「ふんっ、それじゃあ、ボール磨きできなかったお仕置き、これからするから」
「え?」
ビンタされ、許してもらえると思っていた町田は、彩華の顔を見返した。
そこには、にんまりと猫のように笑う残酷な彩華の顔があった。
「あんたが磨き終わらなかったのは、2ケースだから、だいたい60個ね。その分、ビンタするから、しっかり受け止めなさい」
「な、な」
「これは先輩から後輩に対する教育的指導だからね。ちゃんと、ビンタされた回数数えとくのよ。間違ったら、最初からやり直しだからね」
「や、やめて」
「アハハっ、怯えちゃって、なさけないでちゅねー。年下の女子のビンタにそこまでビビるなんて。これだから男虐めはやめらんないわ」
言って、彩華が右手を振りあげた。
「それじゃあ、いくわよ」
バッチイイイン!!
「ひいいいいいい!!」
「それ」
バッチイイイイン!!
彩華がビンタを繰り出していく。
何度も何度も。
彩華は上級生の男子の胸ぐらをつかんで宙づりにし、その頬に強烈なビンタを繰り出していくのだ。
往復ビンタ。
町田の顔が左右に揺れる。
バチンバチンと軽快な音が倉庫に響きわたる。
一撃で意識を刈られそうになる。
町田は彩華の平手が直撃するたびに、じーんと頭が麻痺するような感触を得ていた。
目の前。
自分のことを宙づりにして、ビンタを繰り出してくる下級生の女子。
彼女は悦び、笑いながら、自分のことをビンタしてくるのだ。
男を虐めることに最大の快楽を得ている。
そのことが町田にはすぐに分かった。
怖い。
昨日の男子ソフト部のキャプテンみたいに自分もされてしまうのではないか。
恐怖に襲われた町田はパニックとなって、ひいひいと悲鳴を叫ぶことしかできなくなった。
「アハハっ。いい悲鳴ねー。ゾクゾクしちゃう」
バチイイイン!!
バチイインン!!
「ひいいいい! やみゃひいいい!」
「アハハっ。ひょっとして泣いてるの? 年下の女子にビンタされて、泣いちゃったんでちゅかー?」
「やめええ!! ひいいいい!!」
「情けない顔になって、どこまでわたしを楽しませるつもりなのよ。ほらほら〜」
バッチイイイイン!!
バッチイインン!!
「ひいいいいいい!!」
獰猛に笑う彩華。
自分の腕の中で抵抗もできず、なすすべなくビンタを受けるしかない男。
男を力で屈服させているという状況に満足した彩華は、いったん、ビンタをやめた。
ニンマリとした笑みを浮かべ、胸ぐらをつかんで宙づりにした男の顔を観察した。
涙目になって、頬を赤く腫らした男。
その情けない様子を見ると、彩華は自分の子宮がうずくのを感じた。
興奮がつのり、彼女の笑みをさらにサディスティックに変貌させる。
彼女は言った。
「はい、今何回?」
「へ?」
頬をビンタされ過ぎ、満足に答えることもできない男に対して、彩華は繰り返した。
「ビンタの数よ。ちゃんと数えとけって言ったわよね。今、何回なの?」
「・・・・・・・・・・」
「数えてなかったわけね」
「・・・・・ゆるして・・・・」
「このグズ!」
バッチイイイン!!
「ひいいいいい!!」
ビンタが炸裂し、町田の首が吹っ飛ぶ。
彩華が声を荒げて言った。
「ほら、数えなさいよ。60まで数えられないと、今日は朝までビンタだからね」
バッチイイイイン!!
「に、にいいいいいい!!」
「そうそう、その調子っ」
バッチインンンンン!!
「さあああああん、やめてええええ!」
バッチイインンン!!
「よおおおんんん!! ひいいいい!!」
バッチイイインン!!
「ごおおおおっ!! やだあもうやだああ!」
町田の悲鳴がやまない。
ビンタの音も倉庫になり響いたままだ。
何度も何度も、彩華はビンタをやめなかった。
町田がいくら命乞いをしようが、泣き叫ぼうが、強烈なビンタを浴びせ続ける。
そのたびに、町田のカウントの絶叫があげられるのだった。
*
けっきょく、60回のビンタが終わったのは1時間後だった。
途中、何度もビンタで気絶させられ、意識を失った町田。
60のカウントをすることができた頃には、既に彼の顔は真っ赤に晴れ上がり、無惨な姿になっていた。
「はい、今日はこれで終わりにしてあげる」
地面に横たわり、泣きじゃくる町田を仁王立ちで見下ろしながら、彩華が言った。
倉庫の中。
途中まで、見学していた女子部員たちすら、もう帰宅した後だった。
「ほんとうはまだまだ雑用あるんだけどね。今日は特別にこれでいいわよ」
「ううう・・・うううう・・・」
「その代わり、明日っからもっと働いてもらうからね。わかった?」
「うううう・・・・うううう・・・・」
「聞いてるの?」
言うと、彩華が横たわる町田の体を踏みつけた。
ドッスウウウンンン!!
「ひいいいいいい!!」
「ひょっとして、まだ教育的指導が足りなかったの? もう60回いっとく?」
ぐりぐりと踏みつけながらの言葉。
町田は狂ったように叫んだ。
「わ、わかりましたあああ!! 明日からもよろしくお願いします!!」
「最初っからそう言いなさいよ」
彩華が町田を踏むのを止め、仁王立ちする。
「じゃあ、わたしも帰るから。指導してくれた先輩に言う言葉くらい分かるわよね」
町田の心理的抵抗など、既に彩華のビンタでなくなっていた。
町田は立ち上がると、彩華を目の前にして言った。
「指導ありがとうございました! 彩華先輩!」
そして、深々と礼をする。
それを淡々と見下ろす彩華。
上級生の男子に敬語を使わせ、先輩と呼ばせる。
その異常をさも当たり前のように実践する彩華に、町田自身、恐怖を感じていた。
「じゃあ、後かたづけしときなさいね」
言うなり、彩華は倉庫から出ていった。
後には、屈辱に泣き声をもらし、泣きじゃくる町田だけが残された。
(続く)