「う、うわああああ!!」
恐慌状態に陥った同士たちが、娘にむかってアサルトライフルを発射する。
何十人もの人間による集中砲火。
生身の人間には絶対に防御不可能なはずの銃弾の雨。
しかし、
「無駄だってば」
娘は、とくに何をすることもなく突っ立っているだけだった。
なのに、銃弾は娘の近くになると、急に勢いをなくし、ぽつんぽつんと地面に落ちていく。
7.62×51mmNATO弾が、うず高く娘の前に積まれていく。
私たちの力の象徴が娘の前ではまったくの無力だった。
カンカンと、弾が娘の目の前で力なく地面に落ちていく光景は、力の差を見せつけられるようで、絶望が走った。
「そ、そんな・・・・・・」
同士たちが絶望の声を口にする。
娘が、やれやれといった具合に口を開いた。
「不意打ちじゃなきゃ意味ないって教わらなかったの? そんな武器、私たちが能力使えば無力化できるなんて、前の戦争で分かってたことじゃん」
前の戦争。
男と女の戦争。
男の惨敗に終わった、あの屈辱の戦争。
「それじゃあ、今度はこっちの番だね」
言うと、娘はグローブをはめた。
それは、エナメル性で指貫きがされたグローブだった。
色は赤。
エナメルの光沢が妖しく光り、なんともいえない魅力を娘に与えていた。
「まあ、本当なら、こんなグローブ必要ないんだけどね。気分だよ気分」
娘は誰に対して言うでもなく言葉を口にする。
手をグーパーして、はめたグローブの感触を確かめている。
その様子は、自宅のリビングでテレビを見てくつろいでいるような娘そのままで、どうしても懲罰委員会の活動をしているようには見えなかった。
「うん、いいかな」
娘が満面の笑みで言った。
「それじゃあ、始めるね♪」
ドッゴオンンンン!!
衝撃。
娘の姿が消えたと思ったら、一人の男の体が吹っ飛んでいた。
きりもみしながら、男の体が私のほうへと吹っ飛んでくる。
地面で削られ、体があらぬ方向をむいている。
私の足下で狙いすましたように止まった男の体には、大きな穴があいていた。
血が噴水のように飛び出ている。
一撃。
娘はただ、素手で男を殴っただけ。
それなのに、男は生き絶えてしまったのだ。
「言っておくけど」
その声に誰もがビクンと反応した。
死体になった男が立っていた場所に、いつの間にか娘が仁王立ちしていた。
黒のエナメルで出来た、露出の高い衣装を着ている娘。
男たちが完全武装している中、見事なプロポーションを惜しげもなくさらしている少女。
男と女の違いを見せつけるようなその衣装は、明らかに効果を発していた。
「今の別に、能力をつかったわけじゃないからね」
男たちの包囲網の中に入っている娘が、どうでもよさそうに言った。
周囲には何人もの男たちがアサルトライフルで武装している。
それなのに、どうしてこうも絶望感だけを感じるのだろう。
こちらが数では圧倒的に有利なはずなのに、なぜこんなにも恐怖だけを感じるのだろうか。
「どうやって死ぬかも分からないんじゃ、かわいそうだから、教えてあげるね」
娘が言った。
「今のは、私の生身の力。能力なんて使わないで、私の純粋な力だけで殴ったの」
娘は、胸の前で右拳をギュウっと握りしめた。
エナメル同士がこすれあう音がして、それが場違いにも色気を感じさせた。
「全力で殴っちゃうと、私の体ももたないから、こっちがケガしないように殴る瞬間に拳を強化するけどね。でもそれだけ。後は全部、能力なんて使っていない純粋な私の力」
娘が続けた。
「能力を使えば、あっという間に懲罰を執行できるんだろうけど、それじゃあ面白くないからね。だって、これは懲罰なんだから、恐怖のどん底で、泣き叫びながら、死んでいってもらいたいじゃない」
娘は自分の言葉に一人妖艶に笑った。
娘は、笑いながら首をぷるぷると左右に振ってから、口を開いた。
「ごめん、うそうそ。本当は懲罰のことなんてどうでもいいんだ」
優しかったはずの娘。
天使のような私の娘。
しかし、彼女は悪魔だった。
私の娘は、興奮を抑えられないように言った。
「本当は、男の体を潰す感触が好きなだけなの。弱いむしけらみたいな生き物が、私の手でじかに死んでいく様子がたまらないの。ほかはどうでもいいんだ」
だから、ね。
「みんなのことも、殴って、蹴って、潰して、壊して、撲殺してあげるからね♪」
説明を終えた娘は悪魔になった。
一番近くの男を豪快なフォームで殴る。
男の顔面は吹き飛び、頭をなくした男の体があらぬ方向へ倒れた。
娘の長い脚が、死に神の鎌のように一線する。
娘が、コンパスのようにくるりとまわった後、娘を中心にした円には男たちの死体が残された。
暴風雨のような虐殺。
生身の肉体の人間が行っているとは思えないような殺戮の嵐。
それを娘は満面の笑みで行った。
純粋無垢な笑みではない。
瞳が妖しく光った妖艶な女の顔。
心底、男を素手で殺すことが好きでなければ浮かべられない表情。
そんな表情を、あの優しかったはずの娘が浮かべていた。
「やめて!! 許してくだ、ギャアア!!」
「ひい、助け、お願いあ、あ、ああああ!!」
「お母さん、ごめんなさ、ひ、やだやだやだオアアアッ!!」
男たちの命乞いと断末魔が響く。
娘のあまりの力に、男たちはまったく戦意をなくしていた。
50名の男たちが、一人の女に勝てない。
とっくに成人を迎え、武装までしている男たちが、まだ16歳の、しかもなんの武器ももっていない少女に勝てない。
そのことを、同士たちはまざまざと見せつけられていった。
「ほらほら、もっと抵抗していいんだよ。そのほうが、こっちも面白いんだから♪」
ボッゴオオオンン!!
男の胴体に穴を空け、長い脚で男たちの命を刈り取りながら、娘が続けた。
「せっかく武器を集めたのに、さっきからぜんぜん使ってないじゃない。そんなことじゃ、すぐにみんな死んじゃうよ?」
娘が、バカにしたように吐息をもらした。
「ま、どうせ、君たちが何をやっても無駄なんだけどね♪」
殴る、蹴る。
男たちが悲鳴をあげて命を散らす。
娘が躍動するたび、その過激なコスチュームからこぼれんばかりの巨乳が揺れた。
短いレザーパンツから伸びる長い脚、むちむちの、それでいて鍛え上げられた生脚。
その魅力的な脚には、男たちの命を刈り取るとき、幾ばくかの筋肉の筋が浮き出て、それがさらに娘の魅力を駆り立てていた。
「あはは、弱すぎ♪」
踊るように娘は男たちを殺していく。
男の顔面を殴って潰し、脳漿を飛び散らす。
胴体に風穴を空けて、臓物を周囲にまき散らす。
遊具で遊ぶ幼児のように、娘は男たちの体で遊んでいた。
娘は、男たちの命を奪うことに、無上の喜びを感じているらしかった。
「ふふ、こんなのはどうかな」
娘が男の足首をつかんだ。
なすすべもなく逆づりにされた男は「いやだあ、ひいいい!!」と悲鳴と命乞いを繰り返す。
それを満面の笑みで観察し、満足しきった娘は、男の体を力任せに地面に叩きつけた。
すぐに男は絶命する。
顔はひしゃげ、原型を留めていない。
しかし、娘は死んだ男を離さず、そのまま死体を振り回し始めた。
「じゃーん、人間ハンマーでーす」
おどけたように言いながら、娘が男の死体をぶんぶん振り回し、周囲の男たちを殺していく。
そこで浮かべた娘の笑みは、悪魔のように凄惨だった。
「あはは、最高!」
独創的な殺し方が出来て、満足している残酷な少女。
本当に信じられなかった。
あの優しかった娘が。
父親の私に優しく声をかけてくれたあの娘が。
こんなにも残酷なことをするなんて。
男を遊ぶように殺して悦んでいるなんて。
そんなこと、信じたくなかった。
「ほーら、かかと落としだよ♪」
娘が右脚を大きくあげた。
短すぎるショートパンツから伸びる健康的な生脚が、男の頭上高く降りあげられた。
目の前の男は、その様子を呆然と見上げるしかなかった。
畏怖さえ感じさせるような魅力的な女性の脚。迫力満点に迫る妖艶なソレを、ただ呆然と見上げる男。
そんな男の様子を一瞬だけ観察した娘は、すぐに死刑を執行した。
「ばいばい♪」
べっぎいいいいい!!
高く降りあげられた娘の右脚が勢いよく降りおろされた。
まるでギロチンのような一撃。
娘の脚は男の脳天を貫き、そのまま男の頭を地面に叩き潰した。
叩き潰し、絶命した男の頭を、娘は嗜虐的に踏みつける。
ぐりぐりぐり。
娘の右脚が、男の頭を蹂躙し、そのたびに絶命した男の体がビクビクと痙攣した。
そんな哀れな男をじっくりと見つめ、恍惚とした表情を浮かべる悪魔。彼女は満足したのか、さらに右脚に力をいれた。
ブッシュウウベギイッッ!!
潰れたトマトをつくるよりも簡単そうに、娘は男の頭を潰した。
血しぶき。娘が男の死体から脚を離すと、娘の足裏------ブーツの裏には男の肉片がこべりついていた。
娘は無造作に右脚を払い、こべりついた肉片を周囲に散らす。
呆然と娘による死刑執行を見ていた周囲の男たちの顔面に、血液と死んだ男の肉片がこべりついた。
男たちは呆然と顔についた仲間の変わり果てた姿を感じ、絶望に身を凍らせた。
「う、うわああああ!!」
男たちがついに恐慌状態に陥り、逃げ出していく。
武器を放り出して、我先にと出入り口に殺到していく同士たち。
完全にパニックに陥っていて、満足に走ることもできない有様だった。
「あーあ、逃げても無駄なのに」
娘が一人つぶやく。
言葉のとおりになった。
同士たちは一人も出入り口から外に出ることができなかった。
「なんだよこれ、なんなんだ!」
男たちが裏がえった声で叫んだ。
部屋の出入り口には、透明な壁が出来ていた。
決して誰も逃がさないために設けられた質量をもたない壁だ。
女性の能力。
それを行使している娘が言った。
「逃がすわけないじゃん。私がこのビルに入った瞬間、すべての入り口に壁をつくったもんね」
男たちは、なおも出入り口に群がり、脱出を試みようとしている。
しかし、無駄だ。
ミサイルでも突破できなかった女性の能力を、生身の男が突破できるわけがない。
「ふふ、かわいそうにねー」
娘は、入り口に群がる男たちを見て楽しそうに笑っていた。
まるで、虫かごの中に入れた昆虫が、なんとか外に出るために必死に努力している様子を眺めているかのようだった。
娘の手のひらの上で、男たちは転がされていた。
●●●
「さてと」
娘が、入り口から視線をはずした。
そのまま、娘はくるりと体の向きを変え、私に視線をむけた。
衝撃が全身を貫く。
娘の視線が私だけに突き刺さっていた。
私の周囲にいた同士たちは、すでに逃げ出して、誰もいなくなっている。
一人、舞台に取り残された私。
娘は、飴細工のようにグニャリと曲がった鉄くずを持った私のことを、真正面から見つめていた。
「ふふ、びっくりした?」
言うと、堂々と娘が歩きだした。
こつこつこつ。
黒のブーツが床を叩き、ゆっくりと私のほうへ近づいてくる。
撲殺した男たちの死体をわざと踏み、さらに死体を潰しながら娘が来る。
見事なプロポーション。
大きな胸と、長い脚。
歩くたびに胸が揺れ、歩くたびにそのムチムチの生脚に目が釘付けになった。
「ふふっ」
こつこつこつ・・・・・・ぴたっ。
歩みが止まる。
下を向いた私の視界に、男の命を吸った娘の生脚が飛び込んできた。
私は、びくびくしながら顔をあげた。
獲物を目の前にして妖艶な笑みを浮かべた娘がそこにはいた。
「今朝ぶりだね、お父さん」
仁王立ちで私を見下ろしながら、娘が口を開いた。
すでに身長は娘のほうが高い。
身体的能力の点でも、娘は私を上回っている。
広い肩幅と、引き締まった二の腕、美しく鍛えられた腹筋に、私の胴体ほどもあろうかという長い脚。
すべての身体的能力で、娘は私を圧倒しているのだ。
「ふふっ、小さいね、お父さん」
娘が言って、私のことを容赦なく上から見下ろす。
自然と、私は娘を見上げる形になった。
身長以上に、娘のことが大きく感じられた。
まるで年上の女性を目の前にしているかのような圧迫感。
絶対に敵わないことが分かっている対象。
私は、娘に純粋な恐怖を感じていることを悟った。
それと同時に、娘の色気と美しさに畏怖の感情さえ抱いていると感じる。
実の娘を崇拝しそうになっている。
それほどまでに、血を浴び、何人もの男たちの命を刈り取った娘の姿は魅力的だった。
「さて、お父さん。最後の調教の前に質問があれば答えるよ?」
満面の笑みの娘が言う。
私はさきほどから何も考えることができず、ただ口をぱくぱくさせるだけだった。
しかし、一番の疑問だけが、自然と私の口から出ていた。
「なぜ・・・・・・なぜおまえがここにいるんだ?」
信じたくがないための言葉。
答えがあらかじめ分かっている質問。
娘は、困ったような表情を浮かべて回答した。
「なぜって、決まってるじゃないお父さん。私が懲罰委員会のメンバーだからだよ」
「懲罰・・・・委員会・・・・」
「そう。この制服見て分からないの?」
言うと娘は、ぐいっと大きく背伸びをした。
それだけで、娘の巨乳はさらに強調され、娘の大きな体が一回り大きく見えた。
露出の高い衣装は過激さを増し、それだけ女性であることを特徴づける。
懲罰委員会の制服の特性を、娘は私の目の前でたっぷりと見せつけていった。
「これで分かってでしょ? 私は懲罰委員で、お父さんたちは執行対象なの。お父さんったら、そんなことも分からないの?」
「・・・・・・・・・・」
「まったく、お父さんの鈍感には参っちゃうよね」
やれやれといった具合に、娘が嘆息をもらしてから続けた。
「せっかく、私が家で再教育の機会を与えてあげたのに、お父さんったらまったく気づかなかったもんね。お父さんの鈍感さは筋がね入りだよ」
「・・・・・・さ、再教育?」
「そうだよ。私がお父さんの家に一緒に住んで、男子生徒の調教を見せてあげたでしょ? お母さんに捨てられて調教を受けられないお父さんも、間近で調教を見れば、こんなバカなことおこさないと思ってたのになー」
衝撃の事実。
ということは、つまり、
「最初から、計画はバレていたのか」
「当たり前でしょ。私たちのこと、バカにしないでよね」
娘が怒ったように言った。
「お父さんの様子が変っていうのはすぐに分かったから、さぐりをいれてみたらあっという間に組織との関係が発覚したからね。今まで、お父さんのことは泳がしておいたの」
「泳がしておいた?」
「そうだよ。ひょっとしたら、組織の上層部につながる有益な情報が得られるかもしれないからって。早紀先輩の指示で」
早紀先輩・・・・・あの浜辺で会った女の子のことだ。
ならば、あの海での出来事も、すべて計算づくで・・・・・・・
・・・・・・すべては娘の手のひらの上。
私は、実の娘にいいようにコントロールされていたのだ。
「あーあ、せっかくお母さんと賭けてたのになー。お父さんが無駄なことを諦めてくれるかどうかって。まったくもう、お父さんのせいで賭けに負けちゃったじゃない。せっかく、新しい奴隷買ってもらうつもりだったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まあでも、そのおかげで今日は遊べるんだもんね。組織の捨てゴマだからろくな情報も知らないだろうって、早紀先輩のお墨付きだし。今日は私の自由にしていいんだもん。お父さんの無能っぷりにも感謝しなきゃだね」
私には、娘の言葉が理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
妻が私の翻意に賭けていなかったことの意味(私は捨てられた)
組織の捨てゴマという意味(すでに組織からも三行半をつきつけられていた)
そのすべてを消化しきれず、私はどさっと膝から地面に落ちた。
「ああ・・・・あ・・うううッ・・・・」
うめき声が情けなく響く。
地面に膝まづいているせいで、娘と私の身長差はさらに広がった。
はるか頭上には娘の顔がある。
長い脚と、美しい腹筋と、さらに大きな胸の先にある娘の顔。
そこには、天使のような笑顔が浮かんでいた。
「お父さん、最後のチャンスをあげるね」
娘は、無能で役立たずな父親のことを見下ろしながら言った。
「これから、目の前で、お父さんのお仲間さん達を殺していくから、それをちゃんと見とくんだよ」
「ううう・・・・あああ・・・・」
「お父さんの仲間を、できるだけ残酷な方法で殺していくから。生まれてきたこと後悔するくらい、たくさん苦痛を与えながら殺していくからさ、それを見て、最後の選択を選ぶといいよ」
まあ、もっとも、と娘がつぶやいた。
満面の笑み。
手を腰にやり、私のことを見下ろしながら、娘が言った。
「結果は、最初から分かってるんだけどね♪」