金曜日の夜。
俺たち3年B組の男子たちは、全員、夜道を連なって歩いていた。
皆が皆、それぞれに武器を手にとっている。武器といってもたかが知れていた。俺は家にあった包丁をもってきている。他の男子たちも木刀やら金属バットやらで武装しているに過ぎない。
誰も喋らなかった。
黙々と歩いた。
恐怖と不安に押しつぶされそうになりながらも、誰一人として逃げずに南の洞窟に向かった。それだけ、皆が玲奈のことを助けようと思っていたのだ。俺たち全員にとっての幼なじみをなんとか助けたいと、そう思っていた。
南の洞窟。
島の南にある打ち寄せる波によってできた自然洞窟だ。満潮になっても水没することがない大きな洞窟。街灯もない暗闇の中を月明かりだけを頼りに歩いていく。敵はいつものように洞窟の中で待っていた。
*
そいつの素性は不明だ。
分かることはそいつが女であるということ。大柄な体格をしているということだけだ。
顔にはSMクラブの女王様がつけるような仮面がつけられている。そのせいで顔はほとんど見えない。ニンマリと歪んだ瞳と、口元が見えるだけ。年齢も分からないが、おそらく俺たちよりは年上だろう。
服装もキテレツなものだった。エナメル性の黒い衣装。ビキニの水着みたいになったそれを着用するだけで、あとは生身だった。胸が大きい。脚も長くって、むっちむちなのに野生動物みたいな躍動感と筋肉の力強さを感じさせる。小麦色の肌がテカテカと光っていた。
それが敵だった。
こいつが敵だ。
俺たちはこいつを倒して、龍山玲奈を助けなければならない。
「はい、じゃあ、今日の対戦相手を決めようか」
敵が楽しそうにして言った。
こいつはいつもそうだ。殺し合いをする気配なんてまるでない。こいつは確信しているのだ。今日も自分が勝つということ。俺たちを殺して楽しむことができるとそう確信している。そうはいかない。今日こそ俺たちが勝利するのだ。俺たちは決意を新たにして、目の前の敵をにらみつけた。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・言・う・と・お・り」
敵が、俺たちを順繰りに指さした。
敵の指が最後に止まったのは後藤だった。野球部員で手には武器となる金属バットが握られている。
玲奈とも仲がよくて、野球部では主将もつとめているスポーツマンだ。後藤はゴクリと唾を飲み込んでから、一言「行ってくる」と言って、敵のほうに向かった。
「ちょっと待ってね。いま道をつくるから」
敵が楽しそうに言った。
敵と俺たちの間は海水で隔てられていた。少し上に広場になったようなスペースがあり、そこに敵は一人で立っている。このままでは海水が邪魔で敵がいる広場まで行くことができない。それを敵の能力が解消した。
ひとりでに、海水の中に岩の足場が現れた。
それは敵がいる広場まで続いていた。
どういう原理なのかは分からない。けれど敵は観測したことを現実にする能力を持っているのだ。それは、これまでの戦いで敵自ら語ったことだった。
「ほら、はやく来てよ」
敵が手招きをする。
本当に楽しそうだった。さばさばとして、まるで男友達と戯れようとしているかのようだ。
後藤はゆっくりと歩いていった。金属バットをもって、生まれた岩の足場を歩いていく。そして、敵と相対した。
「それじゃあ、はじめよっか」
*
そう言った敵は動かなかった。
リラックスした様子でニヤニヤと後藤を鑑賞しているのが分かる。それとは正反対に後藤はハアハアと息を荒くしながら震え、緊張していた。
「どうしたの? 来ないのかな?」
「う、ううッ」
「あはっ、怖がっちゃって情けないな~。ほら、3分間はこっちから何もしないであげるから、攻撃してきなよ」
そう言われた後藤が覚悟を決めたようだ。
彼は握りしめた金属バットを上段に構えると、そのまま勢いよく敵にむかってつっこんでいった。
「うわあああッ!」
ドスンッ!
金属バットが振るわれ、それが敵の肩に直撃する。あまりの激痛に敵が崩れおちる・・・・・・なんてことはまったくなかった。
「くすっ、なにそれ」
敵は笑っていた。
女王様の仮面をつけた女は口元をニンマリとさせて、仮面の穴から見える瞳も楽しげに笑っていた。金属バットで殴られたというのに、そのダメージをまったく負っていないことは明らかだった。
「う、嘘だ。うわあああッ!」
後藤が次々と金属バットを振るう。
全力で殴っている。それなのに敵は微動だにしなかった。ニヤニヤと笑いながら、手を腰にやって後藤の金属バットを受けきっていく女。
敵の体が傷つくこともなかった。
内出血も何もない。金属バットの嵐が襲いかかっているというのに、敵の体はテカテカの小麦色のままだった。
「ほら、がんばりなよ。おまえって野球部だったよね」
敵がつまらなそうに言った。
「いっしょうけんめい努力して野球の練習してきたのに、ぜんっぜん効いてないよ? ちゃんと素振りしてきたのかな?」
「く、くっそおおおッ!」
「おっそいスイングスピードだねえ。そんなんだから、この前も野球なんてやったこともない私の球にかすりもしなかったんだよ。笑っちゃうなー」
訳の分からない言葉を口にしながら敵が笑っている。
彼女の声を聞いているとずきずきと頭が痛くなる。何か大事なことを忘れているのに思い出せない。そんな気持ち悪さでいっぱいだった。
「はい3分」
ガシッ!
呟いた敵が金属バットを手にとった。
全力でフルスイングされた金属バットを右手だけで掴んで止めてしまう。
驚愕する後藤と、それをニンマリと見下ろす敵。
その体格差は一目瞭然だった。スポーツマンである後藤よりも二周りは大きな体。特に体の厚みは段違いで、後藤の胴体ほどもある敵の小麦色の太ももだけからも、絶望的な格差があることが分かった。
「没収するね」
「あ」
そのまま敵が金属バットを取り上げてしまう。
武器を失った後藤が絶望の表情を浮かべる。
それを堪能するようにニンマリ笑った敵が、まるで見せつけるようにして金属バットを両手で持った。そして、
バッギイインンッ!
「うわっ、簡単に折れちゃった」
言葉どおり。
敵は金属バットを手の力だけでまっぷたつにしてしまったのだ。それほど力をこめていない様子。それなのに、あの固いバットが折れ曲がっている。
「ほ~ら、もっと見てよ」
さらに見せつけていく。
敵がまっぷたつに折れたバットをさらに折り曲げていく。
バギンベギンっという壊れていく音が響く。
四つ折りにされ、さらに折られる。
小さくなっていく金属の塊。
ついには両手で包み込めるほどになってしまったバットのなれの果て。
それを敵が両手で包み込んで、ぐいっと力がこめられた。
敵の手の平が開くと、コインほどの小ささになった金属の塊が現れた。
「すごいっしょ。こんなに圧縮しちゃった。私、こんなことできるほど強くなっちゃったんだー」
「そ、そんな」
「ほら、おまえの大事な金属バット、バッギバギに折られて壊されちゃったよ? 次はおまえの番」
怯えた後藤の髪の毛を敵がわし掴みにした。
片手で髪の毛を掴んで、ぐいっと上に引っ張る。そうすると後藤の顔は強制的に上を向くことになって、そのニンマリと見下ろしてくる敵の顔を見ることになった。「ひい」と情けない悲鳴が漏れた。
「ふふっ、怖がってる怖がってる。あー、気持ちいー」
「ひ、ひいい」
「どうしようかな。どうやって殺そう」
ぐりぐりと右手でわし掴みにした髪の毛を上下左右に揺さぶっていく。
その視線は獲物を前にした狩人のものだった。言葉どおり。どうやって殺そうかとその方法を思案しているのだ。その視線を前にして後藤はますます縮みあがって、ぷるぷると震えながら恐怖していた。
「よし、決めた」
壮絶に笑った。
次の瞬間、彼女は後藤の後頭部に手をまわすと、そのままぎゅううっとおっぱいの中に押しつけた。
「むっふうううううッ!」
「あはっ、息も吸えないでしょ? 私の大きく成長したおっぱいの中に埋もれて潰されちゃってる」
その小麦色に輝く大きなおっぱい。
代謝が多すぎるせいなのかテカテカした肌に彩られた巨大なおっぱいは、まるでそれ自体が生きているかのような迫力をもっていた。後藤は、そんな大きな胸の中に取り込まれて吸収されてしまっているようだった。
「おまえはおっぱいで殺す」
ぎゅううううっと後藤の頭部を抱きしめて潰しながら彼女が言った。
「いつもおっぱいばかり凝視してくるもんね。嬉しいっしょ? ほれほれ~」
ぎゅううっ! ぎゅうううッ!
力強く抱きしめられ後藤の顔面がおっぱいでさらに潰れる。まったく息ができないのだろう。後藤の体がびくんびくんと痙攣し始める。
「ふふっ、簡単に殺したらもったいない」
後藤が息耐える瞬間、敵が後藤の頭部をおっぱいの谷間から解放した。
涙と涎で汚れた後藤が「ひいひい」と言いながら必死に呼吸をしている。
そんな後藤の頭部めがけて、半身をひねった彼女が、そのままおっぱいを炸裂させた。
バッチイイイインンッ!
おっぱいビンタ。
大重量の二つの果実が横から炸裂し、後藤の頬がひしゃげるようになった後に吹っ飛んだ。おっぱいでビンタされるというお遊びのような技なのに、後藤はダンプカーにひかれたように吹っ飛んでいき、洞窟の岩場にぶつかって止まった。断末魔の形相を浮かべ、口から血反吐を吐いて、四つん這いのまま嗚咽している。
「あはっ、吹っ飛んだね~」
敵が嬉しそうに言った。
「おまえも本望っしょ? 私のおっぱいで死ねるんだからさ。ほら、二発目やってやるから、はやくこっちにきて顔を差し出せよ」
彼女が命令する。
今も血反吐と嗚咽をもらしている後藤にむかって容赦なく命令していく。
「とっととしないと、今すぐ殺す」
底冷えする絶対零度の声。
その言葉に後藤はビクンと顔をあげた。イヤイヤをするようにして絶望の表情を浮かべた後藤は、それでもよろよろとよろめきながら敵にむかっていく。
殺されたくない。
その一心で敵の命令どおりに動くしかない後藤。
彼はそのままぷるぷる震えながら彼女のおっぱいの前に自分の頭部を差し出した。
「た、たひゅけて・・・・・・こ、ころしゃないへえええ」
滑稽な命乞い。
後藤の口の中は血塗れだった。おっぱいビンタによって口内の歯が根こそぎ折れてしまっている。そんな男のみすぼらしい姿を見て、敵はこれまで以上にニンマリと笑った。
「じゃあ、この一撃で意識を保っていられたら殺さないでおいてやるよ」
「や、やはああああッ! こんなの無理いいいいい! こんなおっぱい、たえられるわけないでしゅうううううッ!」
涙をぽろぽろ流しながら怯えている。
そんな男を前にしても敵には同情心なんてかけらもないようだった。あるのは残虐さ。それだけだ。
「ほら、これが今からおまえを殺すおっぱいだよ」
「ひ、ひいいいい」
「でっかいっしょ? この前はかったら、114センチのJカップだってさ。この衣装も特注品で、奴隷どもに作らせるの大変だったんだよね」
彼女が両手でおっぱいを挟み込んでぐいっと強調させた。
後藤の鼻先寸前までおっぱいを近づけて威嚇している。その上で宣言しているのだ。このおっぱいでおまえを殺す、と。その凶器を前にして、後藤はもはや痙攣するみたいにガクガク震え始めた。
「ほら、おっぱいビンタ、いくよ」
「ひゃだあああ! ひゃだああああッ!」
「約束どおり、意識を保っていられたら殺さないでやるから」
まあ、無駄だろうけど。
バッチイイインン!
言葉と同時におっぱいが後藤の頬に炸裂した。またしても吹っ飛び、洞窟の岩壁にあたって止まる体。背中を強打し、のけぞるようにして一瞬制止する。まるで壁に埋め込まれてしまったと思うほどの後藤の体が、ずるずると下におちていき、そのまま動かなくなった。
「あはっ、気絶しちゃった」
敵が嬉しそうに笑った。
彼女はニヤニヤ笑ったまま後藤に近づき、その髪の毛を片手でつかんで持ち上げた。そのまま自分の視線の高さまで持ち上げてじっくりと観察し始める。
後藤はぴくりとも動かなかった。ひょっとしたら死んでしまっているのかもしれない。そんなことを考えて他の男子たちと一緒に絶句していると、敵がこちらに向かって歩いてきた。
「ほら見てよ。こいつ、あっけなく気絶しちゃった」
海水によって隔てられた俺たちは、敵が気絶した後藤を宙づりにしてこちらに展示してくるのを呆然と見上げるしかなかった。
髪の毛を片手で捕まれた後藤は、ダランと全身の力を放棄し、気絶していた。白目をむいて断末魔の叫びのように苦しそうな表情を浮かべている。額から血が流れていて、腕はあらぬ方向に折れ曲がって骨折していた。おっぱいで壊された男の姿だった。そしてこれから、おっぱいで殺されることになる。
「じゃ、殺そっと」
ひとしきり鑑賞した敵が言った。
「おら、起きろよ」
乱暴に後藤の頭部を揺らす。
暴力的に、髪の毛を掴んで宙づりにした後藤の頭部を上下左右に動かした。そうすると、脱力した四肢がブラブラと強制的に揺れてしまって、まるで操り人形のようだった。
「ふは」
起きた。
起きてしまった。
ニンマリと笑った敵が囁く。
「は~い、おっぱいで食べちゃいまーす」
おどけたように言う。
彼女はそのまま、後藤の頭部を後ろからおっぱいの谷間の中にとじこめてしまった。
「ぱっくん」
むっちいいいいいッ!
そんな音が聞こえてきそうなほど、巨大すぎる敵のおっぱいが後藤の頭部を捕食した。褐色の肉の塊が貪欲に後藤を食べてしまっている。その規格外のおっぱいの大きさの前に、後藤の顔面すら見えなかった。すっぽりと、深い谷間の中に閉じこめられてしまったのだ。
「むっふうううううッ!」
後藤が命の危険を感じて暴れ始める。
折れていない腕と脚をブンブンと振り回しながら、おっぱいから逃れようと必死の努力をしている。身長差から、後藤の足は地面についていなかった。おっぱいによって宙づりにされているのだ。そんな哀れな獲物が、頭部をおっぱいから引き抜こうと首を一生懸命動かしているのが分かった。
「無駄だって」
むっちいいいいいッ!
敵が両手でおっぱいを左右から挟み込んだ。
巨大な乳房が蠱惑的に歪み、その中に閉じこめた獲物を潰している。その衝撃に、後藤の暴れていた体はピタリと止まってしまった。
「死ね」
ぎゅうううううッ!
べぎべっぎいいいいいッッッ!
メキバギバッギイイイッ!
何かが潰れていく音がする。
谷間から血液が溢れてきた。肉片のようなものが周囲に飛び散っていく。その動きは敵が両手でぎゅううっとおっぱいを挟み込むたびに強くなった。
「ご、後藤」
誰かが呆然と呟く。
後藤の体は今度こそ動かなくなっていた。おっぱいに頭部を挟み込まれて潰され、両手両足が生命力をなくして物体になった。
「あはっ、さいこー」
敵が興奮して笑っている。
今もぐりぐりとおっぱいで死んだ後藤の頭部を潰している。殺してもなお死体で楽しんでいるのだ。まるでおっぱいで人間をミンチにしてしまおうと思っているかのようだった。執拗に後藤の頭部をおっぱいで潰し、それによって性的に興奮している。
身長の高い悪魔が俺たちの同級生を殺してしまった瞬間だった。俺たちは一歩も動けずに、その光景をただ呆然と見上げるしかなかった。
「ほら、見てよみんな。こいつ、おっぱいで殺されちゃった」
敵が自慢してくる。
おっぱいに挟んだまま、その死骸がブラブラと揺れている光景を見せつけてくる。後藤の体にはもはや一切の力はなくなっている。当然だ。死んでいるのだ。殺されてもなおおっぱいから解放されない後藤の体が宙づりにされて揺れている光景は、絞首刑にされてそのままさらしものにされている罪人のようだった。
「みんなのことも、大事に殺すからね」
敵が言う。
「じゃ、今日は終わりにしよっか」
そう言って久しぶりに敵がおっぱいから両手を離した。重力によって後藤の死骸が落ちる。ソレはそのまま海へと落ちていった。おっぱいからゴミ箱に捨てるみたいに、直接海へと落ちていった死体。ザブンという音と海しぶきがあがって、首なし死体となった後藤が海へと沈んでいく。
「お魚さんの餌~」
おどけたように言う。
まるで子供みたいなはしゃぎっぷりは、彼女の発達しきった体とはそぐわないものだった。
「じゃあ、また次の金曜日に」
敵が俺たちを見つめながら言った。
その瞳が怪しく輝く。
「ばいばい」
つづく