巳雪さんの容赦がなくなった気がした。

 当然だ。マゾに手加減する必要なんてないのだ。巳雪さんが防音設備の整ったラブホテルで、私に絶叫じみた喘ぎ声をあげさせていく。

「あっぎいいいいッ!」

 もはや人間ではなくなったみたいな悲鳴をあげる。

 ベットの上で、ひたすら乳首を責められ、何度目になるか分からないメスイキで壊される。

「ふふっ」

 そんな私の悲鳴を巳雪さんが堪能しているのが分かった。

 私の体にぴったりと覆いかぶさり、乳首をむさぼり喰らって、手加減なしの本気の乳首責めをしていく巳雪さん。彼女の舌がコロコロと私の乳首を転がすたびに、私の体がビクンと震え、またしても絶頂する。自分の体が電気ショックをくらったみたいに痙攣しているのが分かる。その余韻をしっかりと味あわせるために、巳雪さんの舌と指がゆっくりとしたものに変わった。

「み、巳雪しゃあああんんッ!」

 抗議の声なのか、もっといじめてという求愛なのか分からない声が自分の口から漏れる。

 まだ断続的に体がメスイキの余韻で震えている。ねっとりとした舌使いと指使いで、巳雪さんが私の二つの乳首を執拗に、ねちっこく責めてくる。片方の乳首は彼女のぷっくらとした唇に食べられたままで、もう片方の乳首は乳輪に沿った極上のフェザータッチで焦らされていった。

「うふっ」

 メスイキの余韻で悶える私のことを、巳雪さんはニッコリとした笑顔で見つめていた。

 上目遣いでもって男の痴態を観察している女性。私に致死的な快感を与え続け、悲鳴をあげさせてはその様子を堪能している美しい女性が、手加減なしの本気で私を追い込んでいく。

「み、巳雪さん、しゃ、射精」

「…………」

「射精させてえええ。お願いだからああッ」

 長時間の乳首責め。

 その間、彼女は一度も射精を許してくれなかった。

 たまに片手で私の玉袋をコロコロと転がすだけ。竿には一度も手を触れずに、永遠と乳首責めだけで私をメスイキ地獄に叩き落としていく。

「もう無理いいいい。もう無理ですうううッ!」

「…………」

「射精させ、あ、あ、あ、ダメエエエッ! 乳首強くしちゃ、イッギイイイイッ!」

 焦らしの時間が終わる。

 巳雪さんの舌と指が獲物めがけて蠢いていく。

 こうなったらもうダメだ。

 私は喘ぐだけの猿に変わる。

 ねっちこく、執拗に、情け容赦のない本気の乳首責め。すべての男はメスに変わる。乳首の快感で悶え、「アンアン」と甘い喘ぎ声をもらすマゾメス。そんな情けない存在にさせられて、トロトロにトロケた顔をさらしながら、美しい女性にじいいいいいっと見下ろされるのだ。

「見ないでえええッ!」

 じいいいいいいいッ!

「見ちゃいやあああッ!」

 じいいいいいいいッ!

 情けない様子を見つめられて、それだけでマゾの快感が体ではじける。

 さらに重度のマゾにさせられてしまった。自分の体が改造されたことが分かる。マゾになればなるほど巳雪さんの与えてくれる刺激は快感をもたらした。私という存在が変えられていく。マゾに……回復不可能なほどに性癖を変えられちゃってる……。

「マゾってきもちいでしょ?」

 巳雪さんが私の乳首から唇を放して問いかけてくる。

「マゾの殿方は、女性にいじめられて、それではじめて自分をさらけだすことができるんです。いじめられて、きもちよくなって、マゾイキして、それを見つめられて、支配されて、マゾイキして、それも観察されて、自分の体が自分のものではない感触で悶えて、マゾイキして、支配されて、支配されて、支配されて、マゾイキする。それがずっと続くんです」

「ひっぎいいいいッ! いっぎいいいいッ!」

「男らしさとは正反対な今の旦那様の姿、とってもステキですよ? わたしにすべて支配されてください。そうすればもっとマゾイキできます。マゾイキすればするほど旦那様はマゾになって、もっとマゾイキできます。ふふっ、旦那様の心も体も、ぜんぶわたしが支配してあげますからね」

 カリカリカリッ!

 まるで見せつけるように、巳雪さんが私の乳首をカリカリと蹂躙する。それだけで私の体は痙攣し、メスイキとマゾイキを繰り返す。喘ぎ声をあげ快感でよがる姿を上から見下ろされて、さらにマゾイキしてしまった。

「人差し指だけでカリカリしますね」

 やめて。

 その言葉を発する前に始まってしまう。巳雪さんの2本の人差し指が、両乳首をカリッ! カリッ! カリッ! っと蹂躙し始めた。

「アッ! アッ! アッ!」

 人差し指の動きにあわせて私の口から喘ぎ声が漏れる。単調なリズム。単調な動き。まるで片手間みたいな余裕さで行われる乳首責め。

「アッ! アッ! アンッ!」

 それなのに私の口から喘ぎ声が止まらない。

 単調なリズムなはずなのに、巳雪さんの人差し指が乳首をカリカリするだけで、私の体に電流が走り、喘ぎ声をあげさせられる。その姿はまるで、彼女の指の動きにあわせて演奏される楽器のようだった。

「マゾ楽器、お上手ですよ」

 笑った巳雪さんが私を演奏しながら続ける。

「私の指の動きにあわせて音楽を奏でている旦那様の姿、とてもステキです。甘い声で、男らしさなんてかなぐり捨てて、マゾ音楽を鳴らしています。ふふっ、旦那様には、マゾ楽器の才能があるみたいですね」

 カリッ! カリッ! カリッ!

「アンッ! アアッ! アヒッ!」

 カリッ! カリッ! カリッ!

「アヒッ! ヒンッ! アアッ!」

 カリッ! カリッ! カリッ!」

「ひゃ、ひゃめでえええええッ!」

 必死に命乞いする。

 けれどそれは逆効果みたいだった。巳雪さんはマゾ楽器が言葉を発したことに不満らしい。少し哀しげな表情を浮かべて、巳雪さんが私の乳首の奥底にひそむ快楽ポイントを押し潰し始めた。

 カリッ! カリッ! カリッ!

「アギイッ! ヒギャッ! アキャッ!」

 再び言葉を喋ることもできないマゾ楽器になった私を見て、巳雪さんが満面の笑みを浮かべる。

 快感が強すぎて言葉を喋ることもできない。私に許されたのは、巳雪さんの指の動きにあわせて喘ぎ声を漏らすだけ。人格を無視されて、人権も奪われて、マゾ楽器にさせられる。そう思うと、とてつもなく興奮して、さらにマゾイキした。

「マゾの旦那様、とてもかわいいです」

 巳雪さんが笑う。

「このまま何時間か、演奏を続けますからね」

「アギイイッ! ヒャアアッ! ヒッギイッ!」

「たあっぷり、悶えてください」

 続いていく。

 私は何度目になるか分からないメスイキとマゾイキで、頭を壊されていった。



 *



 どれくらい時間だ経ったのだろう。

 壊れた頭で巳雪さんの声を聞く。

「ふふっ、少し休憩しましょうか」

 時間の経過は分からない。

 何時間も、何十時間も経った気がする。

 ようやく巳雪さんの人差し指が私の乳首から離れた。私のことをマゾ楽器に変貌させていた魔性の指から解放される。

「あひい……ひいい……」

 解放されたのに快感の余韻が続いている。

 もういじられていないのに、乳首の奥底からはメスイキとマゾイキの余韻が消えてくれない。敏感になりすぎた乳首が空気に触れるだけで刺激を受け、じいーんとした快感を体に走らせる。巳雪さんから何もされていないのに、快感の余韻だけでメスイキし、体をよじらせてしまう。そんな情けない姿を、じいいっと、巳雪さんから見下ろされていた。

「いい顔になりましたね、旦那様」

 聖母みたいな優しい笑顔。

「とろとろに溶けて、体中の力を脱力させて、快感の余韻で悶えて体をもじもじさせている旦那様の姿……いつまでだって見ていられます。まさしくマゾという感じで、かわいらしくって、食べてしまいたいです」

 言葉とともに彼女が私の頬をベロリと舐める。

 長く肉厚な舌が私の頬を平らげてしまう。

「み、巳雪しゃああんん」

 私の口から久しぶりに喘ぎ声ではない言葉が漏れた。巳雪さんから「どうしましたか?」と優しく問いかけられ、絶叫が爆発した。

「イかせでええええッ! 射精させでええええッ!」

 必死に懇願する。

 彼女がその気ならば私のことを乳首責めだけで射精させることも可能だろう。けれど巳雪さんは決して射精を許してくれなかった。射精をさせるか、メスイキさせるか、巳雪さんは自由にコントロールできるのだ。彼女がその気になれば、10時間だって20時間だって、乳首責めでメスイキだけさせて、射精を一度だって許さないことも可能なのだろう。

「射精させでくだしゃいいいいッ! お願いしましゅううううッ! ち●ぽいじっでえええええッ! 犯してでえええッ! ち●ぽもいじって射精させでくださいいいいいッ!」

 それが分かっているからこその全身全霊の命乞い。

 巳雪さんの慈悲にすがらないと射精一つ許されない。そんなマゾに変えられてしまった私は、自分一人では寝返りもうつことができない赤ん坊になり、アンアンと泣きながら、射精懇願を続けるしかなかった。

「ダメですよ、旦那様」

 しかし巳雪さんはニッコリと笑って私の命乞いを拒絶した。

「まだまだこれからです。旦那様にはもっと我慢してもらいます。我慢すればするほどきもちよくなれますからね。一緒にがんばりましょう」

 ファイトです。

 両手をガッツポーズみたいにして、心の底から応援してくれていることが分かる姿。しかし、私からしてみれば、聖母みたいに笑う彼女が悪魔にしか見えなかった。

「次はお尻でマゾイキしましょうね」

「ひゃだああああッ! お願いいいいッ!」

「またマゾ楽器にしてあげます」

「嫌ですううううッ! マゾ楽器ヤああああッ!」

「いきます」

 必死に抵抗する私を無視して巳雪さんが襲いかかってくる。

 私の体を回転させて、うつ伏せにさせる。私の腰が巳雪さんの大きな両手によってがっちりと拘束されて、持ち上げられる。私の無防備なお尻が、巳雪さんの眼前にさらされた。

「ふふっ、いい声で鳴いてください」

 ズッボオオッ!

「おっっほおおおおンッ!」

 巳雪さんの長い舌が私のアナルを突き破る。

 常人離れした長い舌が、私の体内で暴れ回っているのが感じられる。クネクネと蠢いて、快楽で私の息の根を止めようとしている軟体動物。強すぎる快感で涙がぽろぽろと落ちていく。快感が強すぎて気絶することもできない。私は顔面を布団に突っ伏して「あっぎいいッ」と叫ぶしかなかった。くぐもった悲鳴が部屋中に轟いていく。

 クイッ!

「オッホオオオオンッッ!」

 けれど顔を布団に突っ伏して悲鳴を我慢しようとしたことがいけなかったらしい。

 巳雪さんの凶悪肉厚舌が私の前立腺を一瞬だけえぐる。それだけで私の体に電流が走り、電気ショックを受けた筋肉の反射でもって、私の上半身がびくんっと起きあがってしまう。そして叫ばされるのだ。

「オオオオッ! イッギイイイッ!」

「ジョッボオオッ! ジュルジュルウウッ!」

「アッギイイイッ! おっっほおんんッ!」

 獣にされる。

 人間としての尊顔を奪われ、獣みたいな悲鳴をあげさせられる。目の前には鏡。そこには白目をむいて断末魔の悲鳴をあげている男が映っている。うつ伏せにされ、細い腰を大きな両手でわし掴みにされて、尻穴を情け容赦なく犯されている男の姿。そんな残酷な所行をしている女性は笑顔だった。鏡には私の叫び声を堪能しながらニコニコと笑う女性が映っている。

(も、もう……無理……)

 脱力して、私の上半身がグテッと布団に落ちる。顔面を布団に突っ伏して、グジャグジャと尻穴を捕食されていく。断続的にあがる悲鳴がくぐもったものに変わる。しかし、それすら巳雪さんは許してくれなかった。

 クイッ!

「オッッホオオンノオオッ!」

 再び前立腺への致命的な一撃。

 白目をむいて、上半身をピンと伸ばして悶絶する。



 ―――布団に突っ伏すことは許しませんよ。

 ―――その情けない顔をちゃんとあげましょうね。



 そんなメッセージを尻穴を通じて伝達される。涙をぽろぽろ流して、快感で頭を壊されながら、鏡の中で笑う巳雪さんに犯されて、さらに重度のマゾに改造させられていく。

(ゆるじで……ゆるじでえ……)

 マゾ楽器に言葉を発する自由なんてない。

 声は喘ぎ声をあげるためにある。

 だから私に許されたのは鏡の中の巳雪さんのお慈悲にすがることだけだった。媚びへつらった負け犬の視線で、鏡の中の巳雪さんを見つめる。ゆるしてください。お願いです。助けてください。そんな気持ちがきっちりと伝わるように、心をこめて、瞳だけで訴えかける。

「ふふっ」

 そんな命がけの懇願の視線に、巳雪さんは笑顔で答えてくれた。

 助かった。

 私の視線を真正面から受け止め、笑顔になった巳雪さんが、慈悲の心でもって手加減を、

「ジュッボオオオッ! ジュルルッジュッルッ!」

 悲鳴すらあがらなかった。

 目をチカチカさせて悶え、時間差で、

「オッボオオオオオオッ!」

 ビクンビクンビクンッ!

 体が陸揚げされた魚みたいに跳ねる。

 筋肉に異常な電気信号が伝わり、狂ったように暴れてしまう。そんな暴れる私の細い腰が、巳雪さんの大きな両手によって簡単にわし掴みにされてしまった。拘束されて無防備にさらされた私の尻穴が、巳雪さんの長い舌によって永遠とほじくられていく。

「オボボオオオッ! オッホオンンッ!」

「ジュボオオオッ! ジュルッッジュッッボオッ!」

「アヒイイイイイッ! オッッホオオンンッ!」

「ジュジュグジュクジュクッ! ズッボオオオンッ!」

 続いていく。

 鏡の中の私は死にそうだ。

 巳雪さんは楽しそうに笑っている。

 これがずっと続くのだ。

 殺される。

 快感だけで殺されてしまう。

 けれど死ぬことすらできないだろう。

 巳雪さんが加減を間違えるはずがないのだ。

 それはこれだけ前立腺をえぐられ過激に責められているにもかかわらず、射精一つできないことからも分かる。猛毒みたいな献身的な愛でもって悶え苦しみ続けるだけの時間が続く。鏡の中で、ずっとずっと、巳雪さんが笑っていた。

「んふっ」

 ようやく巳雪さんも満足したらしい。

 彼女の舌使いが動きを変えた。

 激しく蠢きまわっていた彼女の凶悪肉厚舌が、ねっとりと、ゆっくりとした動きで、私の尻内をかわいがり始める。変化は劇的だった。

「アンッ……アヒイッ……ひゅんッ」

 甘い声。

 マゾにしか出せないとろけた喘ぎ声が口から漏れてしまう。彼女の舌が前立腺の形にあわせてゆっくりと蠢くのを感じる。それはまるで、私の体の中にある前立腺の位置と形を教え込むみたいな作業だった。「ほらここにあるんですよ」と。「この部分を舌でえぐればどうなるか分かりますよね」と。暗に脅されていることが分かる。

 そんなふうな期待と不安でマゾの心を刺激され、ねっとりとした舌使いで焦らされるだけで焦らされて、私はマゾイキする。鏡の中―――ビクンと痙攣した私のとろけきった顔を、巳雪さんがニッコリとした笑顔で鑑賞していた。

(無理……もう……無理……)

 悶える。

 全身が脱力して今度こそ上半身が布団に突っ伏しそうになる。けれどそれも許されなかった。

「あひんッ!」

 彼女の長い脚が伸びてきて、私の体を上から持ち上げてしまう。ちょうど巳雪さんの太ももの上に乗っかって、スーパーマンみたいに宙づりにされる。彼女の足の甲が私の顔を挟み込んでがっちりと固定化してしまう。両頬に巳雪さんの大きな足を感じる。彼女の狙いは明らかだった。私の顔がよく見えるようにしたのだ。顔をそらすことも許されず、目の前の鏡にむかって展示される。

「ああああああああッ!」

 鏡の中。

 私の頭部を包み込むみたいにして、巳雪さんの足の指が蠢いているのが見える。まるで性器に挿入された肉棒みたいだ。私は全身を巳雪さんの大きな体に包まれ、挿入されて、亀頭みたいになった私の顔面だけがすっぽりと外気に触れているのだ。

「あひ……ひゅん……ああん……」

 そんな絶対的拘束下でのアナル責め。

 幸せと不安と被虐で頭がおかしくなる。

 鏡の中の私も壊れていた。

 巳雪さんも笑っている。

 ゆっくりとした唾液音と、男の甘い喘ぎ声だけが、ラブホテルの中に響き続けていく……。



つづく