夜の巳雪さんは激しい。

 私の精液を搾り取るために積極的になり、子種を求め続ける。

 巳雪さんの体は男を殺すために際限を知らず進化していくようだった。私の精液を捕食するたびに、彼女の体がより男の精液を搾りやすく進化していくのが分かる。甘い匂いが増し、妖艶なフェロモンを周囲にふりまいて、獲物である私を誘う。そんな肉体的な性能だけでも勝てないのに、彼女の卓越した性技が加わったらもうダメだ。私はただただ彼女に精液を捧げるだけの家畜になるしかない。

(エサだ……サキュバスのエサにされちゃってる)

 朝昼晩と精力のつく栄養満点の食事(亜鉛たっぷり)を提供され、精液を作らされて、そして夜に収穫される。サキュバスのエサ。巳雪さんの家畜となり、彼女に精液だけを捧げるだけの毎日。もしも巳雪さんに狂信的な愛情がなければ、私の精神も人格も、とっくの昔に破壊されてしまっていただろう。

「旦那様はゆっくり休んでいてください」

 帰宅すると食事の準備をしてくれる。

 私はいっさい手伝うことを許されていない。

 一家の大黒柱に家事までさせられないと、まるで昭和の時代に戻ったみたいな考えをかたくなに口にして、巳雪さんがすべてを準備してくれる。家の中は常にピカピカに綺麗だ。彼女がせっせと雑巾をかけ、汚れ一つない清潔な環境を整えてくれる。汚いトイレや排水溝についても巳雪さんは手を緩めず、熱心に掃除をしてくれるのだ。彼女の美しい指を汚したくないなんていう気色の悪い独占欲が胸に浮かび、それ以上に彼女のことを大事にしようという暖かい幸福感が胸を包む。

「おまたせしました、旦那様」

 食卓に今日も豪華な食事が並ぶ。

 すべてが精力のつくものばかりだ。精子を構成するたんぱく質や亜鉛といったものを摂取できる食事たち。毎日搾り取られているので体が目の前の栄養素を欲していることが分かる。

「いただきます」

 手をあわせて箸を手にとる。

 焼き魚をほぐしてから口に運ぶ。

(うまい)

 焼き加減なんかが絶妙すぎる。

 あぶらが落ちないギリギリの火加減であぶられた焼き魚に舌鼓をうつ。野菜がたくさん入った味噌汁をすすって、「ふう」と息が出た。

「どうですか、旦那様」

 そんな私のことを巳雪さんが心配そうに見つめてくる。うるうるとした瞳で不安そうに問いかけてくるのは食事の時の恒例になっていた。

「お口にあいましたか?」

 不安なのだ。

 こんなにもおいしい料理なのに、巳雪さんはいつも不安そうに問いかけてくる。私は白米をかきこみながら、言った。

「おいしいです、すごく」

「本当ですか?」

「はい。なんというか、体に染み渡ってくる気がします。巳雪さんは本当に料理が上手ですよね。丁寧に時間をかけてつくってくれたんだなあって、それがわかります。ええと、その、愛情みたいなものが伝わってきますよ」

 柄にもないことを言って赤面する。

 それ以上に顔を真っ赤にした巳雪さんが恥ずかしそうに顔をうつむかせてから、上目遣いで私のことを見上げてきた。その表情は明るくなり、喜んでくれているのが分かる。心が暖かくなるようなニッコリとした笑顔。

(めちゃくちゃかわいい)

 顔を赤くしてご飯を食べていく。

 口の中にいろいろな味がひろがる。一つ一つの食材が確かな力をもっているように感じられる。私は夢中になって巳雪さんの用意してくれた食事を平らげていった。

(巳雪さん、綺麗だ)

 食事を堪能しながらも我慢できずチラチラと巳雪さんのほうを見てしまう。そうすると、彼女も私のほうを見つめていて、自然と目があった。にっこりと笑った巳雪さんが言う。

「ご飯をたくさん食べてくれてうれしいです」

「いや、こんなにおいしいご飯なら誰だって夢中になりますよ」

「いいえ。小食の男性というのはいますから……それに、体が消耗していると、食欲というのも自然と弱くなるものなんですよ?」

 消耗?

 ただ仕事をしているだけで体が消耗なんて……というところで唐突に気づく。

(み、巳雪さんは、夜のことを言ってるんだ)

 あれだけ搾り取られて体力が消耗すれば食欲だって少なくなる。巳雪さんはそのことを言っているのだ。それは体験談なのかもしれなかった。

(今まで、巳雪さんが結婚してきた3人の男性)

 そのことが気になって仕方なくなってしまう。

 おそらく元夫たちの中には小食な男がいたのだろう。夜の情事のせいで体力が消耗して、食欲がなくなった奴もいたはずだ。そのことを考えると頭がおかしくなりそうだった。最初の頃にはなんともなかったのに、巳雪さんと生活を共にしていると、彼女がほかの男に愛情を向けていたという事実が、自分の中で耐えられなくなっていく。

「旦那様?」

 心配そうに巳雪さんが問いかけてくる。

 私は「なんでもないです」と笑って、巳雪さんのつくってくれたおいしい食事を食べていった。



 *



 食事も終わって、一息つく。

 テレビを見ながらゆったりとした時間が流れる。

 巳雪さんが洗いものをすませると、台所でせっせと働き、おつまみをつくってくれた。ビールと一緒に持ってきてくれる。

「旦那様、どうぞ」

「ありがとうございます」

 コップを受け取り、巳雪さんにビールをそそいでもらう。

 泡のたつ音と琥珀色の液体に心がおどる。喉をならしてビールを飲む。疲れた体に染みわたるようだった。すぐにコップが空になる。

「どうぞ、旦那様」

 すると巳雪さんがまたビールをそそいでくれる。

 その動作もなんだか高級ホテルのウエイトレスのようで、最上級のおもてなしを受けているみたいだった。嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに酌をしてくれる巳雪さん。その上品な美しさを前にして、思わずみとれてしまう。

(こんな綺麗な女性が、私の妻なんだな)

 現実感がない。

 彼女いない歴イコール年齢だった私に、こんなにも美しい妻ができるなんて想像することもできなかった。

 そんなことを思いながらぼおっとテレビを見つめる。画面の中では美人女優として名高い女性が食レポをしていた。肩だしのセーターと白色のミニパンツを履いた女性。しかし、そんな美人女優をもってしても、目の前の巳雪さんの美しさにはかなわない。

(肩だしセーターか)

 思わず、テレビの中の美人女優の服装と、巳雪さんの服装を見比べてしまう。

 今の巳雪さんは和風の服装だった。良く言えば落ち着いていて、悪くいえば古くさい。まるで田舎のおばあちゃんが着るような服装。巳雪さんがテレビの美人女優みたいな服装をしたらどうなるだろう。テレビと巳雪さんを見比べ、肩だしセーターを着ている巳雪さんを想像して、興奮してしまった。

「旦那様、どうされました?」

 不思議そうに巳雪さんが言う。

 私の視線につれられて彼女もテレビを見つめる。そこに映った美人女優を見て、若干、その顔が暗くなった気がした。

「旦那様は、こういうタイプの女性が好きなんですか?」

 暗く、ぐっしょりと嫉妬で濡れたような声色。瞳に若干ではあるが涙をためて、巳雪さんが言う。

「やはり、わたしみたいに身長が高くて、年齢も若くない女よりも、テレビの中のこういう女性のほうが旦那様もお好きですよね」

 しょぼんとうなだれてしまう巳雪さんだった。

 私は慌てて言った。

「ち、違いますよ。なに言ってるんですか」

「でも……」

「私にとって巳雪さんはもったいないくらいに魅力的です。身長が高いのだってむしろ好みです。年齢なんて関係ありません。私は巳雪さんしか好きじゃない」

 勢いよくまくしたてる。

 私の独白に驚いたように押し黙る巳雪さんにむかって、言い訳するように続けた。

「テレビの女優を見ていたのは、彼女が着ている服を巳雪さんが着たらどんなに魅力的だろうなって想像していただけなんです。すみません、不安にさせてしまって」

 謝り終わって、巳雪さんを見つめる。

 彼女は顔を真っ赤にしてウルウルとした瞳で私のことを見つめていた。その瞳には明らかなハートマークが浮かんでいる。

「あ」

 気づいた時には遅かった。

 彼女の顔が近づいてきて、いきなり唇を奪われる。

「んっむううう!?」

 舌が入ってくる。

 思わず逃げようとした体が、彼女の両腕によってがっちりと捕獲される。大きな胸が私の矮小な胸板におしつけられる。ぐんにゃりとした感触だけで腰が抜ける。背中にまわされた両腕がぎゅううっと力を持ち、私の小さな体が、巳雪さんの大きな体に吸収されるみたいになった。

「じゅぱああッ! じゅるうううッ!」

 そのまま激しい口づけ。

 彼女の長い舌が私の口内で暴れ回っている。

 あまりにも激しすぎて息ができない。酸欠と快感で頭がチカチカする。目の前に砂嵐が現れてきたところで、ようやく巳雪さんが私の唇を解放してくれた。

「……旦那様、お慕いしております」

 至近距離。

 熱に浮かされた巳雪さんが、ねっとりとした視線で私のことを見下ろしている。その肉厚な唇にはまだ私の涎がついていて汚れていた。情事の痕跡。私は全身を脱力させて巳雪さんのことを見上げるしかなかった。

「旦那様、少しはやいのですが……しませんか?」

 おずおずと。

 巳雪さんが夜の誘いをしてくる。

「旦那様のことを困らせてしまったお詫びがしたいです」

「あひ……ひいん……」

「今夜もたっぷりきもちよくしてあげます。全身の力を抜いて、なんの不満もない極上の射精体験で、旦那様に満足してもらいたいです」

 ダメですか?

 ふうっと、私の耳元に吐息がふきかけられる。

 少しづつ積極的になってきた巳雪さん。夜は彼女の時間なのだ。巳雪さんに誘惑されて、断れる男なんているわけがなかった。

「お、お願いします」

 誘いを受けてしまう。

 巳雪さんが誕生日プレゼントをもらった子供みたいに純真無垢に笑う。すぐに私の顔面が彼女のおっぱいに生き埋めにされた。優しく子供をあやすみたいにして、私の後頭部と背中を撫でながら、巳雪さんが言う。

「今日も空っぽになるまで搾り取ってあげますからね」

 ねっとりと。

 妖艶に。

「空っぽになってもマッサージをして、すぐに回復させて、また搾り取ります。徹底的に旦那様のことをきもちよくしてさしあげます」

 私のことをおっぱいに生き埋めにしながら巳雪さんが立ち上がる。

 そのまま私の体が運ばれていく。夜の食事のために巣穴にひきずりこまれる獲物の気分。それでも私はどこまでも幸せで、これから始まる情事に期待して、体をビクンと震わせるのだった。



 ●●●



 朝が来て、巳雪さんの準備してくれた朝ご飯を食べる。

 出勤の時間となり、いつものように玄関でマーキングされて、彼女の匂いをたっぷり体にすりつけられてからディープキスで仕上げをされる。

「行ってらっしゃいませ、旦那様」

 巳雪さんに見送られる。

 私は電車に乗り遅れないようにするために急いだ。

(昨日の夜も激しかったな)

 電車に揺られながら昨日のことを思い出してしまう。

 巳雪さんの体力は無尽蔵に底なしで、私のことを何時間だって犯すことができた。私の体力はすぐに尽きてしまい、あとはされるがままにめちゃくちゃにされる。逃げることもできないほど消耗して、何度も何度も射精させられた。その大量に放出した精液をおいしそうにゴクンと飲み干してしまう巳雪さんの姿を思い出してしまい、電車の中で勃起してしまう。

(まずい、巳雪さんのこと想像したら、ダメだ)

 そう思っても脳裏に浮かぶのは巳雪さんの姿だけだ。

 体にすりつけられた彼女の体臭でビクンと震えてしまう。周りに乗客がいてもお構いなしだ。それは会社に到着して仕事をしている最中も同じだった。昼休みになるまで、ずっと巳雪さんのフェロモンと匂いで体を震わせては勃起してしまった。

「おいおい、大丈夫かよ、おい」

 郷田が珍しく心配そうに声をかけてくる。

 なにがだ、と邪険に扱うと、いよいよ「本当に大丈夫か」と真顔で聞いてきた。

「顔色悪いぞ」

「そうか?」

「ああ、俺の部下の長身イケメンヤリチン野郎が、二徹で乱交パーティーやったとか言いながら出社してきた時くらいには顔色が悪い」

 どうしたんだと本気で心配されて、そこでようやく自分の体調に気づく。

 確かに、眠くて仕方なかったし、妙に体がダルい。体の底に力が残っていない感じだ。思えば、最近、昼間は常にこんな感じだったかもしれない。

「ははん、アレか。嫁さんとハッスルしすぎたんだろう」

 郷田の言葉に図星をさされて、ドクンと心臓が鳴る。

「寝不足っぽい顔してるもんな。ひょっとして、毎日か?」

「あ、ああ。そうだよ。悪いか」

「お前がまさかなあ。俺がいくら風俗に誘っても首を一度として縦にふらなかったお前がねえ……嫁さんがそれだけ魅力的なんだろうな」

 まあ体調には気をつけろと言って、郷田が去っていく。

 その心配の声だけはありがたくちょうだいして、残りの昼休みは眠って体力の回復にあてることにした。眠りはすぐにおとずれてくれたのだが、けっきょく夢の中でも巳雪さんに犯された。もう身も心もぜんぶ、彼女に支配されている。そう思うと、なぜかとてつもなく興奮した。



 *



 定時になって、すぐに帰宅する。

 そのために日中、眠たい目をこすりながら必死に仕事をこなしてきたのだ。

「はやく帰らないと」

 なぜか夕方になるにつれて体調は回復してくる。

 定時になるともう絶好調で、風のように電車に乗り、すぐさま自宅へと急いだ。

「はあはあはあ」

 息を荒くして、気がつくと自宅玄関前。

 そこでゴクリと喉をならしてドアをあける。

「おかえりなさいませ、旦那様」

 巳雪さんの声を聞いただけで体が歓喜しているのが分かる。

 日中もずっと脳裏に浮かんでいた彼女の姿が目の前にある。それだけで幸せスイッチがガンガンと押されるのを感じた。頭がぼおっと麻痺する。しかも、今日の巳雪さんは特別だった。

「あ」

 膝まづいて頭を深く下げている巳雪さん。

 彼女の服装が昨日までと違っているのに気づく。

 肌色たっぷりな巳雪さんの体が目の前に飛び込んできた。

(か、肩だしセーターだ)

 それを着用した巳雪さんは表現することも不可能なほど魅力的だった。体のラインにぴったりとはりついたセーター。巳雪さんの大きなおっぱいがこんもりと隆起していて巨大な影ができている。そのおっぱいの大きさだけで意識がもっていかれそうになった。

「いかがでしょうか、旦那様」

 巳雪さんが恥ずかしそうに問いかけてくる。

「昨日、旦那様がテレビで見ていた女性と同じ服装にしてみました。旦那様がわたしに似合いそうと言ってくれたので」

 巳雪さんが立ち上がる。

 下半身には白色のミニのパンツ。彼女のムチムチの太ももが目に飛び込んでくる。大きなお尻が自己主張をしていて、見ているだけで射精しそうになった。我慢できず盛大に勃起してしまう。

「ふふっ、気に入ってもらえたみたいですね」

 ねっとりとした視線で勃起した下半身を見つめられる。

 今にも舌なめずりをしそうな妖艶な雰囲気。芸能人みたいな肩だしセーターとミニパンツのせいで、巳雪さんの捕食者としてのレベルが格段にあがっていた。レベル差があり過ぎる私は身動き一つとれなくなってしまう。

「旦那様」

「あひん」

 抱きしめられる。

 体にぴったり張り付くセーターのせいで巳雪さんのおっぱいの感触がダイレクトに伝わってくる。彼女の両腕が私の背中にまわされて、優しくナデナデされる。至近距離からまじまじと顔を見下ろされて、吐息がかかる。その殺人的な美貌で見下ろされ、ぐんにゃりと巳雪さんの体に生き埋めになってしまった。

「ほかにも、たくさん買ってきましたからね」

「ひいん……ひい……」

「旦那様が好きそうな服を大量に購入してきました。毎日、旦那様のために家の中で着てあげますから、楽しみにしていてください」

 愛撫が強くなる。

 巳雪さんの体臭が私の理性をドロドロに溶かしてしまう。目の前のオシャレな巳雪さんの魅力に完全にやられてしまい、言葉一つ喋れなくなってしまった。

「ふふっ、旦那様、すごく興奮していますね」

「あ、あああ」

「とてもうれしいです。これなら、テレビの中のほかの女に目がうつることもないですよね」

 ねっとりとした声色で囁かれる。

 嫉妬。どろどろとした情念のこもった声。それが耳元で愛を囁くのだ。甘い匂いで頭もバカにさせられてされるがままになってしまう。

「一度、抜いておきましょう」

「ひい、ひいいい」

「旦那様が私に発情してくれるのは嬉しいですが、このままではご飯も食べれないですからね。これは旦那様のためなのです」

 誰かに言い訳するみたいに巳雪さんが言う。

 まるで手品みたいに彼女が私の衣服を剥ぎとっていく。ニンマリと巳雪さんが笑った。

「いただきますね?」

 膝まづいた巳雪さんが立ったままの私の腰を抱きしめて拘束する。

 そのまま大きな口をあけて勢いよく私の肉棒を丸飲みしてしまった。

「あひいいんんんッ!」

 私は立ったままで巳雪さんからのご奉仕を受ける。巳雪さんが私の肉棒を喉奥深くまで引きずりこんで、徹底的にレイプを始めてしまった。

「ガボオオオッ! グッッボッ!」

 顔を上下に激しく動かして行う献身的なご奉仕。

 普通だったらえづいて苦しむであろう行為を、巳雪さんはニッコリとした余裕の笑顔で簡単に行ってしまう。彼女の頬肉で肉棒がめちゃくちゃにされる。さらにはグネグネと彼女の長い舌が絡みついてきて、はやく射精しろと追いつめてきた。

「巳雪しゃああんッ! 手加減してえええッ!」

「ガッボオッ! グッボッボオッ!」

「激しすぎるからあああッ! お願いいいいッ!」

「グボッゴッキュッ! ゴッキュウウッ!」

「すぐイっちゃううううッ!」

 私が泣き叫んで、巳雪さんの瞳が弓なりになった。

 手加減なんてするつもりがないことは明らかだった。普段のねっとりと、時間をかけた愛撫ではない。それは搾り取るために最適化されたフェラチオだった。私の気持ちなんて無視して、ただ射精に追い込むための暴力的なフェラチオ。そんな動きをされて男が我慢できるわけがない。

「いっきゅううううッ!」

 どっびゅうううッ!

 びゅっびゅうううッ!

 30秒もかからなかった。

 すぐに私は射精した。

 巳雪さんに丸飲みされながら、彼女の喉奥で盛大に子種を放出する。その射精の脈動にあわせて巳雪さんが顔を振る。バキュームしながら精液を搾り取るために一番効率の良い動きで子種を奪っていく。大量の精液が簡単に奪い取られてしまった。

「うふっ、ごちそうさまでした」

 ようやく肉棒を解放してくれた巳雪さんが言う。

 食べ物を食べた後にするように片手で口元を隠しながらの言葉。ゴクンといとも簡単に喉をならして子種を飲み込んでしまった美しい女性が、地面に倒れて「アヒアヒ」悶えるだけになった私にむかって優しく言った。

「晩ご飯の準備をしてきますね」

「あひん……ひいん……」

「旦那様はゆっくりとお休みください」

 献身的な優しい聖母に戻った巳雪さんが言う。

 さきほどまで淫らに私の肉棒を丸飲みしていた時とのギャップと、肩だしセーターの魅力の前に、ますます巳雪さんにはまっていく自分を発見する。

(巳雪さん、すごい)

 腰が抜けたまま、玄関でハアハアと息を荒くする。

 そんな私のことを巳雪さんがうっとりとした表情で見下ろし堪能していくのだった。



 *



 いつもの栄養満点の食事を食べて元気が回復する。

 その間もずっと巳雪さんはニコニコして甲斐甲斐しく私の世話をしてくれた。いつものようにテレビはつけっぱなしになっている。けれど、私の視線は一度としてテレビのほうには向かわず、ぼおっと巳雪さんのことを見つめていた。

(かわいすぎる)

 熱に浮かされてそればかりを考える。

 ご飯の前に着替えをした巳雪さんは、今ではフリフリのついたブラウスを着ていた。童貞殺しの体のラインがぴったりと出るタイプのブラウス。下半身には黒の腰高ロングスカートが着用されているせいで、巳雪さんの細い腰が浮き彫りとなり、大きなおっぱいがますます強調されていた。

「どうしました、旦那様」

 巳雪さんが不思議そうに言う。

 私の口からただただ正直な言葉がこぼれた。

「巳雪さんの服、とても似合ってますね」

「そうですか?」

「ええ。なんというか綺麗すぎて私ごときが見ていいものなのかと、気後れしてしまいそうです」

 劣等感だ。こんなにもスタイル抜群で美しい生物を、私なんかが視界に入れることすらおこがましいと思ってしまう。

「見てくれないと、ダメです」

 巳雪さんが断固として言う。

「これは旦那様のために買ってきたんです。旦那様だけに見てもらうために購入したんですから、じっくり見ていただかないと困ります」

 にっこりとすべてを受容してくれる笑顔でそう言ってくれる。その言葉に甘えてまじまじと巳雪さんのことを見つめてしまい、その魅力の前で頭をぼおっと麻痺させてしまった。

(高そうな服だよな)

 じっくり見つめていると、その衣服の素材の良さが目につくようになる。

 出迎えてくれたときの肩だしセーターもブランドものの高そうな服だった。さきほど見せてくれたほかの衣服も同じだ。

(お金はどうしたんだろう)

 それが気になってくる。

 結婚をした後、私の全財産が入った預金通帳は巳雪さんに渡していて、自由に使ってくださいと伝えている。けれど、安月給で働いてきたのでそこまでの蓄えがあるわけではなかった。ここまでの衣服を準備するだけの蓄えはなかったはずだ。長年経理として働いてきたので、お金のことはきちんとしておきたかった。言いにくいことだったが、私は満を持して、

「あの、巳雪さん」

「はい」

「その、服を買うお金は足りましたか?」

「え?」

「すごく高そうな服だったので、私の少ない貯金で買えたのかな、と」

 なんだか言っていて自分で悲しくなってくる。自分の甲斐性なしを自覚して恥ずかしくなった。

「あ、ええとですね」

「はい」

「……これはわたしの貯金を使いました」

「巳雪さんの?」

「はい。私の……これまでの遺産、ですね」

 悪い予感がした。

「あ、あの、遺産って?」

「そ、それは……」

「ひょっとして」

「……はい。死に別れた3人の旦那様が残してくれた遺産、です」

 その言葉を聞いて、頭を殴られた気がした。

 なぜかは分からない。

 いや、分かりたくない。

 そんなドス黒い感情が自分にあるなんて信じたくない。けれどもきちんと向き合わなければならない。逃げてはダメだと本能が訴えてくる。

(嫉妬してるんだ。巳雪さんの今までの旦那さんに)

 死に別れたという3人の男性。

 遺産、というからにはかなりの金額だったのだろう。おそらく私とは比べものにならないほどに資産をもっていたはずだ。間違っても、巳雪さんに自分の貯金からお金を出させて服を買わせるなんて、そんな事態にはならなかっただろう。

「巳雪さん」

「は、はい」

 ふうと息を吐く。

 怯えている巳雪さんを見て、自分が嫌になった。

「ごめんなさい」

「え?」

「私に甲斐性がなくて……すみません」

 謝る。

 息をのむ声がして、巳雪さんがさらに泣きそうになった。

「すみません巳雪さん」

「そ、そんな、旦那様が謝る必要なんてありません」

「でも……」

 恥ずかしくて顔が熱くなる。

 下をむいて、つぶやくように、

「私の給与じゃあ、巳雪さんのことを満足させられていないんですよね。それが本当に申し訳ないんです」

 言ってしまった。

 こんなこと言うつもりもなかったのに、ついつい巳雪さんを責めるような言葉を吐いてしまった。自己嫌悪で頭に血がのぼってくる。消えてなくなりたいと思っていると、どこからか「ひ」と悲鳴みたいなものが聞こえた。顔をあげると、そこには顔面を蒼白させて絶望の表情を浮かべている巳雪さんがいた。

「そ、そんなことありませんッ!」

 その大声にあっけにとられた。

「満足させてもらってないなんて、そんなことないですッ! 旦那様はわたしに全てを与えてくださっています」

「み、巳雪さん」

「だからお願いです。そんなこと言わないでください。ふ、服が気に入らないのなら今すぐに捨ててきます。だから、そんなこと、そんなこと言わないでください」

 ぽろぽろと泣き出してしまった。

 幼い少女みたいに顔をグシャグシャにして泣いている。私は罪悪感でいっぱいになった。なにを言ってもとりつくろうことにしかならないことが分かった私は、ぎゅっと、巳雪さんの体を抱きしめた。

「すみません。間違いました」

「旦那様」

「巳雪さんのお金で買ったものなのに……嫉妬してしまったんです。それで巳雪さんを傷つけてしまって……本当にすみません」

 ぽろぽろ泣く巳雪さんを見上げる。

 力をこめて気持ちを伝えた。

「わがまま言って、いいですか?」

「……はい」

「できれば、私の給与の範囲で生活がしたい」

 顔が赤くなる。

 つまらないプライド。独占欲。巳雪さんを自分だけの女にしたいという気持ちの悪い考え。自分の心境を直視すれば直視するほど恥ずかしくて消えてなくなりたくなる。

(けど、どうしようもない)

 私にも男としてのプライドがある。

 それだけは消すことができない。

「巳雪さんのお金は大事にとっておいてください」

「旦那様」

「私ももっとがんばりますから……よろしくお願いします」

 頭を下げる。

 泣いていた巳雪さんが私の体をぎゅっと抱きしめてくれる。私も負けじと巳雪さんの体を抱く。二人で抱きしめあっていると、まるで一つになったみたいに感じられた。すべて分かりあえているという充足感で、3人の元夫のことも気にならなくなる。

「愛しています、旦那様」

 うっとりとした瞳で巳雪さんが私を見下ろす。

「もうぜったい……離れたくない」

「私も巳雪さんのこと愛しています」

「幸せです。すごく幸せ」

 ぎゅううっと抱きしめあう。

 私と巳雪さんが一つになる。

「好きです……旦那様、好き」

「み、巳雪さん」

「好き……んむうッ」

 巳雪さんの愛が止まらない。

 彼女の唇が控え目に私の唇に触れる。何度も何度も。彼女のぷっくらとした唇の感触だけで頭がぼおっとしてしまう。ついばまれるようなキスを拒否しないでいると、巳雪さんのキスが次第に過激になっていく。そしてついに力強く口を吸われ、長い舌が口の中に侵入してきた。

「じゅぱああ……じゅるるううッ!」

 激しい。

 唾液音がずっと鳴って、目がちかちかする。アヒアヒと悶えれば悶えるだけますます巳雪さんの舌使いが強くなる。愛情たっぷりのねちっこいベロチュー。熱心に、執拗に、唇を奪われる。

「旦那様、布団にいきましょう」

 久しぶりに唇を解放してくれた巳雪さんが至近距離から言った。

「いきましょう。ね、いいでしょ?」

「ひいい……ひいい……」

「布団で……したいです」

 わがままな巳雪さんが魅力的すぎる。

 こんな自分のことを求めてくれているということがすさまじい幸せに繋がる。切羽つまったような表情を浮かべた巳雪さんが、続いて、

「お願いです。旦那様のこと、かわいがらせてください」

 さわさわと彼女の手が肉棒を撫で始める。

「旦那様を困らせてしまったお詫びがしたいんです」

「ひいい……ひいい……」

「ねちっこく快感だけを与え続けます。精液絞りも我慢して旦那様にずっとずっと気持ちよくなってもらいます。旦那様の肉棒がふやけてしまうまで、この舌で舐めさせてください」

 くぱあっと大きな口があいて長い舌が飛び出てくる。

 うねうねと蠢いている妖艶なベロ。それを見せつけられて我慢なんてできなかった。

「はひいいいいッ! 布団いきますうううッ!」

 絶叫する。

 巳雪さんが笑った。

「たっぷりご奉仕させていただきます」

 辛抱たまらんと言わんばかりに巳雪さんが私の体を抱く。

 そのままお姫様抱っこされてしまった。ふわっという浮遊感と共に私の体が浮かび、そのまま運ばれてしまう。

「ごめんなさい。でも、このほうがはやいので」

「あひんッ!」

「ふふっ、一刻もはやく旦那様のことメチャクチャにしてあげますからね」

 運ばれる。

 布団に引きずりこまれて、そのまま言葉どおりにされた。

 夜通し永遠とかわいがられる。ひたすらに快感を送り込まれて頭がバカになる。巳雪さんの嬉しそうな笑顔だけが記憶に残った。その笑顔はとても魅力的だった。




つづく