1



 ブラック企業に勤めて3年、心と体が壊れた。

 最初の半年は毎日泣いていた。

 夜、何もしていないのに自然と涙が流れた。よく分からない怒りが頭を支配して、自分の体のどこかをつねるのが癖になった。

 半年をすぎると涙はでなくなった。

 それでも、心の中では誰かが泣いていた。怒りはいつの間にかなくなっていた。自分の体のどこかをつねる癖だけが残った。

 1年をすぎると何も感じなくなった。

 そして3年が過ぎた。

 ある朝起きると体が動かなかった。それでも会社に行かなければならない。行かないとダメなんだ。冷や汗と動悸がひどかったけれどなんとかスーツに着替えた。しかし、家の玄関で立ちすくみ、それ以上前に進めなかった。いつもあけていたドアがとんでもなく高い壁に見えた。ドアノブにすら手を触れることができず、そのまま動けなくなった。そして、自分の心と体がとうの昔に壊れていたことに気づいたのだ。



 *



 病院に行った。

 あたり前のように鬱病と診断されて、会社を退職した。

 どうやって退職していいかも分からなかったし、会社に電話をしようと思っただけで冷や汗と動悸がひどくなったので、ネットで退職代行を依頼した。委任状を送って、弁護士から言われた資料をメールで送るだけで後はすべてやってくれた。成功報酬だけでやってくれるということで、とても助かった。ずっと残業代も出ず安月給で働いてきたから貯金なんてほとんどなかったのだ。

「これで楽になれる」

 部屋から出るのは深夜に最低限の買い物をする時だけ。

 病院から処方された薬を飲んで、眠ろうとするだけの毎日。

 じっと部屋の天井を見上げては、自分の体のどこかをつねっていた。



 *



 ある日、自分の通帳に大金が入金されていた。

 年収の3倍近いお金。最初、桁を間違えたかと思ったけれど、見間違いではなかった。振り込んできた相手は弁護士事務所だった。僕は久しぶりに携帯電話で電話をかけた。

「綾部さん、それはあなたのお金ですよ」

 電話に出た弁護士が言った。

「どういうことですか?」

「あなたのこれまでの残業代と、パワハラを受けていた精神的慰謝料もろもろの合計金額です。メールを送りましたが、見ていないんですか?」

 メール?

 パソコンなんてここ数ヶ月起動すらしていない。

「でも、こんな大金……」

「あなたのお金ですよ。正真正銘のね」

「べ、弁護士費用とかは」

「もちろんいただいています。契約書どおり得られた利益の30パーセントは差し引かせてもらっています。だから、今回入金したお金はあなたのものです」

 嘘みたいな話しだった。

 ただでさえ穴だらけの僕の頭は混乱した。

 目の前の通帳に入金されたお金。

 それがどうしても汚いお金に見えてきて仕方なかった。

「い、いらないです、こんなお金」

「綾部さん?」

「あんな会社が出したお金なんて、もっていたくない。先生、僕はどうでもいいので、このお金、先生の報酬として全額受け取ってください」

 受話器ごしに沈黙がかえってきた。

 数秒間が過ぎ、電話口からため息が聞こえた。

「綾部さん、それはあなたのお金です」

「で、でも」

「あなたが稼いできたあなたのお金なんです。それを受け取ることによって、会社があなたにしてきたことが正当化されるとか、許されるとか、そういうことにはならないんですよ」

「…………」

「それでも持っていたくないなら、少し休んで外出できるようになった時、ぱあっと使ってしまいなさい」

「ぱああっと?」

「そうです。旅行なんていいんじゃないですか? 確かに今回のお金は大金ですからね。高級ホテルに連泊しない限りすぐに使うのは無理でしょうけど」



 *



 何ヶ月かが過ぎた。

 ようやく外出できるようになった僕は、弁護士のアドバイスどおりに行動することにした。

 東京から離れた場所にあるという条件だけでホテルを選んだ。S県のA市。人生で初めての旅行だった。

「これが高級ホテルか」

 駅からタクシーに乗ってようやくたどりついたホテルを前にして僕はつぶやいていた。

 目の前。

 そこには、大きな西洋風のホテルが立っていた。

 高級ホテルなんだから駅の近くにあると思ったのだけれど、そのホテルはぐねぐねとした山道をひたすらのぼった先にあった。周囲には豪華な一軒家が何軒か立っている。なんでこんな山の上にわざわざと最初思ったけれど、たぶん津波対策なのだろう。何かの映画で神戸の富裕層は平地になんか住まないと言っていたのを思い出した。ここもきっとそうなのだろう。

「いらっしゃいませ」

 ホテルの中に入りその豪華さに震えていると、ホテルの従業員が出迎えてくれた。

 従業員一人一人に品があるように見える。こんなところに、ジーパンとTシャツで来たことが場違いに思えてきた。

「6泊でご予約の綾部様ですね?」

「は、はい。そうです」

「お部屋は402号室になります。ご案内いたしますね」

 従業員が僕の荷物を手にとる。

 自分で運びますと言うヒマもなかった。ハンサムな従業員がにっこりと笑って旅行カバンをかついで歩いていく。僕はビクビクしながらその後をついていった。

「こちらが、綾部様のお部屋になります」

 案内された部屋は驚嘆の一言だった。

 広い。

 僕の家がウサギ小屋みたいに感じる。

 大きなツインベット。その近くには、七面鳥だって焼けそうなオーブンを備えつけたキッチンがある。部屋の中央にはソファーとテーブルが置かれていて、壁ぞいに設置されているテレビは冗談のように大きかった。

「ベランダにも出られます。夏ですから虫が入ってこないようにお気をつけください」

 圧巻なのは外の眺めだ。

 あれだけ山をのぼってきただけあって、高いところから見下ろす景色は絶景だった。観光客であふれる海が遠くに見える。山並みの緑がどこまでも印象的だった。その景色を独り占めできるように、オシャレなウッドデッキが備えつけられている。そこにもテーブルが置かれていて、寝そべることができるイスが対面で二つ置かれていた。

「そしてこちらが当館自慢の温泉になります」

 部屋の一番左にスライド式のドアがあって、それをひらくと奥に風呂場があった。

 ベランダからも入れるようになっている風呂場の外にはさきほどの絶景がある。浴槽につかりながらこの景色を見れるなら最高だろう。浴槽もかなり大きい。常に温泉が流れっぱなしになっていて、湯気をたてたお湯が浴槽におちていき、すでに満杯になっていた。この風呂場ですら自分の家より広いかもしれない。

「源泉掛け流しです。熱い場合は水をいれて調整してください」

 僕はあっけにとられて従業員の説明を聞いていった。

 広いベランダも、自室に備えつけられた温泉も自分の人生にはこれまで縁遠いものだった。従業員の説明が右から左に流れていく。僕は「はい」「わかりました」とオウムのようにとなえるだけだった。

「お食事は6時からです。それまでごゆっくりおくつろぎください」

 従業員が去っていった。

 部屋の中に一人で残される。

 広すぎる部屋は落ち着かなかった。うろうろと部屋の中をうろついてはその豪華さにビクビクした。

「さすがは、1泊の料金が、僕の家の1ヶ月分の家賃以上のことはある」

 一人ごとをつぶやく。

 ソファーに座ってぼおっと時間が経過していく。

 まったく落ち着かない。

 いつものように僕の右手が僕の左腕をつねる。

「ま、窓でもあけよう」

 一人でつぶやく。

 全面ガラス張りになっているスライド式の窓だ。それをあけると、さああっと、夏の熱気を感じさせない心地よい風が入ってきた。カナカナとひぐらしが鳴いている。そこではじめて、ああ、今は夏なんだと思い出した。

「なんだかすごいことになっちゃったな」

 つぶやく。

 窓をあけっ放しにしたままソファーに座る。

 すずしい風が入ってくる。これならエアコンだっていらないだろう。東京とはえらい違いだ。

「それにしても広いな」

 いつものクセで、じっと天井を見上げるのだが、天井まで高すぎて違和感しかない。立ち上がり、部屋の左側まで歩いていってスライド式ドアをあけ、風呂場を眺めてみる。あいかわらず温泉が流れっぱなしになっていて浴槽にたまっている。源泉掛け流しといっていたから、流れっぱなしになっているアレはつまり無駄になっているということだ。なんだか申し訳なく感じてお湯を止めようとした。信じられないことに温泉が出てくる管には蛇口がついていなかった。隣の水を出す管にだけ蛇口がついている。つまり、温泉はでっぱなしということだ。なんだかとても申し訳なく思った。

「これは大変なことになった」

 また部屋をうろうろしてソファーに座る。

 あけっ放しになった窓から風が入ってくる。

 さきほどから自分が同じことを繰り返していることに気づく。もういても立ってもいられなくなった。

「す、少しはやいけど、レストランに行こう」

 僕は立ち上がった。

 ジーパンとTシャツの姿のままではあまりにも心細かったけれど、これしかないのだから仕方ない。ひょっとしたら「お客様、そのような格好では困ります」と言われるかも。追い返されるかもしれない。僕はビクビクしながらレストランにむかった。



 *



 あっという間に食べ終わった。

 出される料理をいろいろと説明してくれたけど何も思い出せない。

 緊張し過ぎて味もわからなかった。一品ごとに料理が運ばれてきて、そのたびにぺこぺこと頭を下げた。食べ終わって、その場から逃げるように立ち上がろうとした時、優雅にほほえむ給仕の女性が話しかけてきた。

「お客様、食後のデザートがありますので、ラウンジにどうぞ」

 案内されたレストラン脇の空間。

 高級感あふれる革張りのソファーに座る。窓からは夜景が楽しめるのだが、そんな余裕はない。まわりでは、食事を終えた宿泊客たちがデザートを食べながら控えめに談笑していた。

 皆、年輩の品の良さそうな男女ばかりだった。若者は一人もいない。ますます場違いに思えてきて、僕は名前も知らないデザートを黙々と口に運んだ。

 そして、彼女たちに出会った。



 *



「ご一緒してもいいですか」

 心地のよい女性の声。

 はっと顔をあげると、とんでもない美女がそこにいた。なにより身長が高かった。座っている自分から見てすごく高い位置に彼女の顔があった。

(モ、モデルさん?)

 そう思うほどに綺麗だった。

 テレビでしか見たことのない小顔。

 茶色の髪を耳が隠れるくらいにショートカットにしていて、それがすごく似合っていた。たれ目の瞳で笑っている。首が長い。上品そうな服装に身を包んでいる。そして気づく。その上品そうな格好では隠せないほど、その女性の胸は膨らんでいて、お尻が大きかった。高身長にムチムチの体。それでいてモデル顔負けの小顔。そのギャップに僕は頭がくらくらするのを感じた。

「402号室の方ですよね?」

「は、はい」

「わたしたち、隣の401号室なんです」

 わたしたち。

 それを聞いて、ようやく女性の隣に男が立っているのに気づいた。こちらも身長が高い。いかにも好青年といった爽やかな男だった。細身のベビーフェイス。男の僕から見ても「ああ、この人はもてるだろうな」と思ってしまう。

「これも何かの縁かなと思いまして。デザート、一緒に食べませんか?」

 それが彼女と彼との出会いだった。

 その出会いが、自分のことをどこに連れて行くのかなんて、この時の僕には分かっていなかった。仮に分かっていたとしても、僕は同じ道をたどったと思う。



 *



 その女性は飯島佑梨(ゆうり)と名乗った。

 都内の有名私立大学に通う女子大生。

 同じサークルの彼氏(名前を翔太と言うらしい)と一緒に旅行に来たのだそうだ。ゆっくりするつもりで、1週間ほど滞在するらしい。それは僕の滞在期間とちょうど一緒だった。それを伝えると、佑梨さんたちは驚いていた。

「偶然ってあるんですね」

 佑梨さんが嬉しそうに笑って言った。

 彼女は僕の目の前でソファーに座っていた。

 そうすると彼女の視線は僕と同じくらいの高さになった。それはつまり、彼女の足がとんでもなく長いということを意味している。

(す、すごい)

 僕はチラチラと佑梨さんの足を見つめてしまった。

 その長い足。

 内股に控えめに閉じられたその足はロングスカートでも隠しきれないほど魅力的だった。グラスを手にとってお酒を飲む姿も優雅だ。

「綾部さんは休暇ですか?」

 佑梨さんが言う。

「は、はい。体調がすぐれなくて……それで、ここに来たんです」

「そうなんですか。もう大丈夫なんですか?」

「え、ええ。少しはよくなったので。といっても、こんな高級ホテルだと、逆に落ち着かないかもしれないですけど」

 僕の言葉に佑梨さんが笑った。

 おそらく冗談だと思ったのだろう。1週間もこのホテルに滞在する人間が、逆に落ち着かないなんてそんなことありえない。

「面白い人ですね、綾部さん」

 にっこりと笑う。

 その笑顔はとても上品で、見る者を安心させるものだった。たれ目の瞳がさらに垂れて優しげになる。

「そうだ、綾部さん、明日からの予定って何かありますか?」

 人なつっこい猫みたいに笑って佑梨さんが言った。

「いや、特に予定はないです。この先の人生の予定も何もないです」

「ふふっ。それなら明日から、私たちと一緒に遊びませんか?」

「え?」

「明日は市内を見て回ろうって思ってたんです。綾部さんもご一緒にどうですか?」

「で、でも…………」

 僕はちらっと佑梨さんの隣を見た。

 そこでニコニコしながら話しを聞いていた若い男性。佑梨さんと翔太さんはカップルで旅行に来ているのだ。そこに赤の他人の自分が入ってもいいのかどうか。僕の視線に気づいたのか、佑梨さんが、

「翔太くんもいいでしょ?」

「もちろんだよ。一緒に遊んでくれるなら嬉しいです」

 爽やかな笑顔。

 裏表なんて感じさせない、心底そう思っていることが伝わってくる笑顔だった。さすがは超絶美人の佑梨さんを射止めただけはある。長身のイケメンは性格も良いらしい。

「それじゃあ、ご一緒させてもらっていいですか?」

 僕の言葉に佑梨さんも翔太さんもとても喜んでくれた。明日の朝、10時にロビーで待ち合わせという約束をする。連絡先も交換して、その場はお開きとなった。

「あ、そうだ」

 部屋に戻るために佑梨さんたちが立ち上がった。その体の大きさと、ボンッキュッボンッという体のラインに圧倒されていると、佑梨さんが言った。

「夜、うるさくしちゃうかもしれませんので、先に謝っておきますね」

「え? あ、ああ別にそんな……気にしないでください」

「ふふっ、それじゃあ、また明日。おやすみなさい」

 佑梨さんが翔太さんの腕をとって抱きしめ、片手を可愛らしく振ってあいさつをしてくれた。その仕草や可愛さに頭がぼおっとなってしまった僕は、しばらくの間立ち上がることもできなかった。



 2



「ふう」

 落ち着かない部屋に戻ってソファーに座る。

 窓をあけっ放しにしているので風が気持ちよかった。

 僕は自然と佑梨さんのことを思い出していた。

(めちゃくちゃかわいかった)

 働き始めてから、誰かを可愛いと思ったことなんてなかった。テレビの中の女性を見てもそれは変わらなかった。けれど、佑梨さんに会って、あきらかに自分の心が動いたのを感じた。

 彼氏である翔太さんよりも高い身長。

 あんなモデルみたいな小顔なのに、胸も大きくて、お尻も大きい。首が長くて手足も長い。そのすべてが魅力的で、極めつけはあの上品そうな笑顔だ。たれ目の瞳で笑った佑梨さんを思い出すだけで心が暖かくなる気がした。こんなことは、ここ数年なかったことだ。しかも、明日もまた佑梨さんと会える。一緒に遊べる。そう思うととても楽しみだった。



 *



 大きな部屋でぼおっとする。

 一度、部屋備え付けの温泉にも入った。

 熱めの温泉が体に染み込んでくる。陶器でつくられた浴槽はやはり広くて足を伸ばしても余裕があった。風呂場の窓がひらいていて、そこから涼しい風が入ってくる。外の景色は暗闇に染まっていたけれど、窓があいているおかげで露天風呂の開放感を味わえた。

「いい湯だった」

 体も洗ってすっきりして、ソファーに座って「ふう」と息を吐く。

 時間は深夜に近づいて、夜も深まってくる。

 もうそろそろ寝ようか。

 そう思ったときだった。



 アアン……んんっ―――。



 くぐもった音。

 最初それがなんなのか気づかなかった。

 けれど、その音は次第に大きくなった。

 外から聞こえているように思える。

 なんだろう。

 僕はあけっ放しの窓に近づいた。

 部屋の一番右側の窓はあけっぱなしになっている。

 耳をすました。

 その時、



 あああんンンンッ―――。



 甘い声。

 甲高い声。

 あえぎ声だ。

 それに気づくと、僕は心臓がどくどくと響いた。



 アハン―――ンンンッ……あっ…………。



 声が響く。

 それが近くから聞こえてくる。

 それだけではない。



 パンッ! パンッパンッ! パンパンッ!



 肉が肉を殴打する音。

 それにあわせて声も大きくなる。

 セックスの音だ。

 隣の部屋でカップルがセックスしてる。

 女の子が犯されて、喘ぎ声をあげているのだ。

(隣の部屋?)

 そこで思い当たる。

 隣の部屋。

 そこにいるのは誰なのか。

 ドクンと心臓が鳴った。

(佑梨さんと翔太さんがセックスしてるんだ)



 あん……ンフウッ……ああん―――。



 喘ぎ声。

 佑梨さんの喘ぎ声。

 その甘い、高い声に股間が熱くなる。

 あの上品そうな笑顔。

 それと今あげている喘ぎ声とのギャップで心臓がバカみたいに鳴った。

(でも、なんでこんなにちゃんと聞こえるんだ?)

 ここは防音がしっかりした高級ホテルだ。

 隣の部屋の喘ぎ声なんてふつう聞こえない。

 こちらの窓をあけていたって、そんなの向こうが窓を閉めていたら……そこで唐突にひらめく。

(風呂場だ。風呂場でセックスしてる)

 部屋の左側に風呂場がある。

 僕と同じ部屋のつくりだとすれば、佑梨さんたちの部屋も左側に風呂場があるはずだ。さきほど風呂に入ったから分かる。あそこの窓はあいている。だから声が聞こえるんだ。あの二人が、風呂場でセックスしている。



 パンンッ! パンパンパンッ!

 アヒイッ……ああんんッ……ヒイイッ!



 激しい腰振り。

 それにあわせて佑梨さんの喘ぎ声も高くなる。

 すごい。

 あのイケメン彼氏が佑梨さんの秘所に肉棒を突き入れて犯しているのだ。脳裏に光景が思い浮かぶ。翔太さんが佑梨さんをバックで犯している。なぜかバックの気がした。風呂場の壁に両手をついて前のめりなって立った佑梨さん。その後ろから、あの長身イケメンが腰をふっている。

(佑梨さんが……喘いでる)

 勃起した自分の肉棒が痛い。

 久しぶりにやばいくらいに興奮している。

 僕はゆっくりと床に座った。窓の外に片耳を出して、耳をすませる。

(すごい激しい)

 パンパンパンッ!

 音が聞こえる。

 男が女を犯している音。

 佑梨さんが犯されている音だ。

 激しい腰振り。

 喘ぎ声がさらに大きくなる。

 さきほどから佑梨さんは我慢できずに声をもらし続けたままだった。

(でもなんで翔太さんの声が聞こえないんだ?)

 聞こえるのは腰振りの音だけだ。

 喘ぎ声をあげるのは佑梨さんだけ。

 翔太さんは無言で腰を振っているのだろうか。

 なぜかそれがイメージと違った。

 それが正しいということが、次の瞬間分かった。

「翔太くん、喘ぎ声すごいね」

 びくんと体がふるえた。

 佑梨さんの声だ。

 快感によがっていない冷静な声色。

 さきほどラウンジで会った時のままのかわいらしい声だった。

「我慢できないんだ」

 やはり佑梨さんの声だ。

 間違いようがない。

 だったら、この甘い喘ぎ声は誰の……。

「もっと激しくしてあげる」

 パンッ! パンパンパンッ!

「あひいいいいッ!」

 声がした。

 聞き間違いのない声。

 それは翔太さんの喘ぎ声だった。

「ふふっ、すごい悲鳴」

 パンッパンッ! パンパンッ!

「もっと鳴かせてあげる」

「ひいいいいいッ!」

 佑梨さんが翔太さんを犯している。

 あの佑梨さんが。

 彼女が彼氏を犯しているのだ。

「騎乗位で犯されると、翔太くんすごい悶えるよね」

 佑梨さんが笑いながら言う。

「私の腰振り、そんなにすごい?」

 ラウンジでの佑梨さんの笑顔。

 それが頭の中で再生され、くらくらした。

「ふふっ、私の大きなお尻が、翔太くんのおち●ちんとタマタマを一緒に潰しちゃってるよ? ぐしゃあって潰れちゃってる」

「あひいい……ンフウウッ……」

「喘ぎ声も止まらないね? 可愛い彼女に騎乗位で腰振られて、言葉もしゃべれないほど悶絶しちゃってる。情けないね」

 パンパンパンッ! パンパンッ!

 腰振りが激しくなる。

 男の悲鳴がさらにあがる。

 僕はハアハアと息を荒くした。

 自然と僕の右手が股間に伸びた。

 自分の愚息をさわった瞬間、今までの人生で感じたことのない快感が全身を貫いた。

(き、きもちいいい)

 聞こえてくる肉の殴打音と喘ぎ声。

 それが何よりのオカズになって僕の右手がますます激しく動いた。

「翔太くん、もう限界みたいだね。白目むいちゃった」

 佑梨さんが言った。

「じゃあ、一発目、搾り取るね」

 パンッ! パンッ! パンンッ!

 激しい音。

 女が男を犯している音が聞こえてくる。

「イけ」

「いっぎいいいいいいッ!」

 どっびゅうううううという音さえ聞こえた気がした。それと同時に、僕も射精した。搾り取られている。佑梨さんに搾り取られている。そんな錯覚に陥ってしまった。

「ふふっ、たくさん射精したね」

 普段どおりの声で佑梨さんが言った。

「全部もらうね。ほら、こうやって、膣圧強めて、ぐりぐり回転させちゃう」

「ひいいいいいいッ!」

「そのまま上下にも動かして」

「あああああッ」

「こうすると効率的に精液も搾り取れるんだよね。ふふっ、すごいでしょ?」

 男が鳴きっぱなしになる。

 はあはあという息づかい。

 それが翔太さんのものなのか、自分のものなのか分からなくなる。

「ゆるして。佑梨ちゃん、お願い」

「ん~?」

「休ませて……もう、もう無理だから」

 男が泣き言を言っている。

 佑梨さんが「ふふっ」と笑った。

「だ~め」

 パンパンパンッ!

「あひいいいいッ!」

「二回戦だよ。まだまだ夜は長いんだから」

「だめえええ……だめえええ……」

「今日もたあっぷり搾り取ってあげるからね」

 続いていく。

 佑梨さんが翔太さんを犯していく。

 それは何時間も、夜が深まるまでずっと続いた。



つづく