ボコボコにされて吊るされる。
明日香は男を吊るすということに変質的なこだわりをもっているようだった。
おそらくそれは、身長差を分かりやすく思い知らせるのに効果的なのだろう。
大きな自分の体と、小さな男たちの体の違いを見せつける。今日も明日香が、英雄のことを何度も絞め落としてから、最後の仕上げに吊るしていた。
「あはっ、逆さ吊りになっちゃいましたね、師匠」
心底楽しそうに明日香が言った。
彼女の言葉どおり、英雄は逆さ吊りの状態に追い込まれていた。
明日香の大きな右手が英雄の両足首をわし掴みにして、大きく持ち上げてしまったのだ。
「ひいいいいいッ!」
逆さまの視界になった英雄が悲鳴をあげていた。
自分の足首を掴んでいる明日香の大きな手。その力強さをまじまじと感じながら、自分の体が虫けらのように持ち上げられていることに恐怖する。逆さ吊り。頭が下になって宙づりにされている。しかも両手をブランと垂れ下げさせられているというのに、両手すら地面につかないのだ。それだけの圧倒的な身長差が、明日香と英雄の間にはあった。
「ふふっ、チビすぎですよ師匠」
明日香が逆さ吊りにした男を見下ろしながら言う。
「頭どころか両手すら地面につかずに、ブラブラ吊るされて宙づりにされてしまっています」
「ひいいいいいいッ」
「惨めですね~。チビって本当に悲しくなりますね~。師匠は明日香よりも身長が低いせいで、こんな目にあわされてしまっているんですよ。逆さ吊りで吊るされて、その無様な様子を鑑賞されてしまっています。それもこれも師匠がチビなのがいけないんです。育ち盛りのはずなのにちっとも背が伸びないで、年下の私に身長を抜かされてしまったのが悪いんですからね」
くすくす笑って明日香が続ける。
「こうして逆さ吊りにされたらもうおしまいです。師匠はこのまま、明日香の気がすむまでずっとこのままです」
「ゆ、ゆるじでええええッ!」
「ダメです。ほら、頭に血がのぼってきたんじゃないですか? このままずっと逆さ吊りにされたら師匠は死にます。ふふっ、人間の体って重力を考えて内臓の位置が決まっているんですが、反対方向に内臓を支える力はないんです。だから、このまま逆さ吊りされたままだと、面白いことになるんですよ」
まるで実体験のように語る。
明日香がニンマリと笑って、
「人間の口から内臓が出てくるんです。大腸とか小腸がずり落ちていって、ついには口から出てくるんですよ。お腹がべこりってへこんで、口からピンク色の内臓が吐瀉物みたいにこぼれおちてくるんです。吊るされているだけで、師匠は死ぬんです」
ふふっ。
残酷な少女が笑う。
英雄はもはや半狂乱になって暴れ始めた。
「たずげでええええッ! し、死にたくないいいいッ!」
腹筋をつかって体をバネのようにして暴れる。
それなのに英雄は明日香の体に触れることすらできなかった。完全に宙づりにされてしまって、文字通り手も足も出ないのだ。少女に両足首をつかまれ逆さ吊りにされて殺されそうになっている。
「し、師匠、バッタみたい・・・・ぷぷっ、バッタ・・・・虫・・・・ふふっ」
暴れる英雄を見て明日香が笑う。
片手だけで男の体を持ち上げた少女がさらに男の滑稽な姿を鑑賞していく。
「どんなにがんばっても師匠は宙づりにされたままですね」
「ひゃだあああああッ! ひゃめでえええッ!」
「師匠の絶叫、子宮にビンビン響いていい感じですよ? もっとお願いします」
「ゆるじでえええええッ! お願いいいいいいッ!」
「あはっ! 暴れてる暴れてる。あ~、きもち~」
堪能していく。
明日香が片手で英雄を逆さ吊りにしながら、ずっとずっと永遠に。
英雄の心が壊れていった。
(死ぬ・・・・殺される・・・・・明日香に、このまま・・・・)
嫌だと思って暴れても無駄だ。
明日香の体をよろめかすことすらできず、自分は逆さ吊りにされるだけ。
どんなに暴れても明日香に触れることすらできない。手足の長さが違いすぎるのだ。
(チビだから・・・・・俺が明日香よりチビだから・・・・このまま殺される)
それが実感として分かる。
自分よりも圧倒的に優秀で強靭な明日香の体。
その巨体を前にしてはチビな自分が何をして無駄なのだ。
英雄はそれを受け入れてしまった。
「はい、また心が折れましたね、師匠」
明日香がお見通しとばかりに言った。
彼女の目の前。今だ逆さ吊りになっている男は両手をブランと垂れ下げ、脱力して、ぴくりとも動かなくなってしまった。
「チビでザコであることを認めてしまいました。身長の高い明日香に勝てないって理解しちゃった。自分はチビだから何をしても無駄だって、分からされちゃいましたね」
勝ち誇って明日香が言う。
その罵倒の前にも英雄の体は動かない。死刑を執行されて絞首台で揺れる罪人のように、分からされた男の死体が垂れ下がっていた。
「とどめ、いきますね?」
明日香が笑った。
彼女はぐいっと英雄の体を持ち上げ、宙高く放り投げた。
空中でくるりと回転した英雄の上半身が明日香の頭上にくる。その瞬間に、獰猛な明日香の両手が、英雄の小さな首を丸飲みした。
「じゃ~ん、首絞め吊るし上げの開始で~す」
「かぎゅううううッ! ぐげええええッ!」
「師匠の小さなよわっちい首~、明日香の強い両手がわし掴みにしちゃいました~。そのまま持ち上げられて師匠の足は地面につかずにブラブラしちゃっています。こうなったらもう師匠に逃げ場はありません。このまま師匠は吊るされて首を絞められて、殺されてしまいます」
ぎゅうううううッ!
さらに締め付ける。
英雄の体がビクンと痙攣した。
「殺されたくないですか? 師匠」
明日香の言葉に英雄がコクンコクンと頷く。
「なら、命乞いしてください。両手の力緩めてあげますから、がんばって命乞いするんです」
「かぎゅううううッ!」
「ほら、やれ」
命令。
自分よりもはるか年下の少女に命乞いを強要される。
(だめだ・・・・・・そんなこと、ダメ・・・・・)
今さらながら、なけなしのプライドが明日香の命令を拒否する。
かすかに残った師匠としての意地。この少女を正しい道に導かなければならないという気持ちが、明日香から命令された命乞いを躊躇させる。しかし、
「や・れ」
ぎゅうううううッ!
一瞬。
明日香の力に全力の力がこもった。
まるで首を丸ごと潰された。そんな気持ちにさせられるほど明日香の締め付けの力は強烈だった。喉の肉だけでなく、声帯や骨ごとぺちゃんこにされ、肉片にされてしまったのではないかと錯覚するほどの力強さ。明日香の手と手があわさってしまうほどの強烈な締め付けによって、英雄のプライドは絞め潰された。
「殺さないでえええええッ!」
命乞いが始まる。
かつての教え子に首を絞められながら宙づりにされて、
足が地面につかなくなるほど吊るされて、
殺されたくなくて、必死に命乞いを始める。
「ゆるじでくださいいいいッ! もうひゃめでええええッ!」
「もっと」
「殺さないでえええッ! 殺しちゃいやあああああッ!」
「もっとです」
「たずげでえええッ! たずげでえええええッ!」
英雄は必死に絶叫した。
体を暴れさせ、明日香の恐ろしい両手から逃れようと必死に抵抗する。
しかし、まったくの無駄だった。明日香の両手は貪欲に英雄の首を丸飲みして締め上げている。
英雄がいくら暴れても、どっしりと立つ明日香のよろめかすことすらできない。
巨体の少女と、チビな男。
その両極端な対比は、吊るし上げによってますます強調されていた。
「ふふっ、力こめますね」
「あ、だ、ダメええええ」
「少しづつ、力をこめる」
「ゆるじ・・・グゲ・・・・ひゃめオボオッ」
英雄の言葉が奪われていく。
首を絞められ、声帯を潰されて、英雄が少しづつ、えづいていった。
「ほらほら、力がゆっくりこもっていきますよ~」
悶え苦しむ英雄を見つめながら明日香が言う。
「明日香の両手が師匠の首をぺちゃんこにしていきます。そうなったら命乞いもできません。言葉も奪われて命乞いもできなくなった師匠は、そのまま明日香に殺されてしまうんです」
ニンマリと笑って、
「それが嫌ならがんばって命乞いしてください。言葉を奪われる前に、ほら、がんばれ」
「ゆるじオッボオオオッ! グゲエエッ! ひゃめ、オボオッ!」
「がんばれ♪ がんばれ♪ 命乞いがんばれ♪」
「グッゲエエッ! ひゃオッボオッ・・・・・グッゲエ・・・・ゆる・・・・っぎいい・・・・」
次第に言葉がなくなっていく。
白目をむいてぴくぴくと痙攣し始めた哀れな男。
そんなかつての師匠のことを、妹弟子がじっくりと鑑賞していた。
「えづいてるえづいてる。あ~、きもち~」
笑う。
「明日香の両手が師匠の喉をぺちゃんこにしているせいで、吐きそうになってますね。白目むいてぴくぴく痙攣しながら、えづきっぱなしです」
嘲笑して鑑賞する。
残酷な少女が慕っていた年上の男を使って遊んでいく。
「明日香、男の人がえづいているところ見るの好きなんです。明日香の両手で喉をぺちゃんこにされて、異物感でこみあげてくる吐き気を我慢できずにえづいているところを見るととても興奮します。師匠の顔もいいですよ? とっても無様でステキです。このまま本当に、絞め殺してあげたくなっちゃいます」
ニコニコ。
純粋無垢な少女が白目をむいた男を見つめている。そんな嗜虐性の化け物みたいな少女に見つめられて、英雄は恐怖し、それと同時に興奮していた。
(勝てない・・・・・俺はもう明日香には勝てない・・・・・)
その実感が同時に快感になっている。
自分よりも強い生物に蹂躙され、鑑賞物にされる快感。
彼女の視線を受けるたびに、体が恐怖と歓喜で痙攣するのが分かる。
もはや体は屈服しているのだ。本能は明日香という絶対的支配者に気に入られようと苦痛を快感に変換してしまっている。その惨めさを理性が察知してしまい、さらに興奮する。酸欠状態の真っ白になった頭の中で、英雄は明日香のことを崇拝してしまっていた
「そうだ」
ひとしきり英雄をえづかせ、鑑賞を楽しんだ後で、明日香が声をあげた。
「師匠、明日、おでかけしましょう」
少女が男をデートに誘った。
その光景は、ほほえましい青春の1ページをかざるものになるはずだった。しかし、少女が圧倒的巨体をいかしてチビの男を吊るしてしまっているせいで、その告白シーンは凄惨な拷問現場にしか見えなかった。明日香がニコニコとした笑顔で続ける。
「実は見たい映画があるんです。でも、夜しか上映していなくて、パパもママも忙しいので明日香一人では見に行けません。だから、つきあってください」
どうですか、と明日香がさらに問いかけた。
その間も、彼女の大きな手が、矮小な英雄の首をわし掴みにして、締め上げていた。
(あ、あしゅか・・・さま・・・・・あしゅか・・・・・)
英雄は朦朧とした意識の中で昇天しかけていた。
理性が絞め殺されてしまい、本能だけしか残されていない英雄に、選択の余地はなかった。
「はひいいいいッ! デートしましゅううううッ!」
明日香の誘いに首をガクンガクンと縦に振り始めた男。
首を締められ、前頭葉の機能を阻害された彼は、今、欲望に忠実な猿になってしまっていた。
「ありがとうございます」
ぎゅううううううッ!
締め付け。
ニコニコ笑いながらの強烈で凶悪な首締め。
一瞬で英雄が締め落とされた。断末魔の悲鳴さえなく、静かに意識を刈り取られた男が、明日香に宙づりにされながらブラブラと揺れる。
「ふふっ」
興奮した女豹。
明日香は英雄を地面に投げ捨てると、仰向けに倒れた男の顔面を容赦なく踏み潰した。
白目をむき、口からブクブクと泡をふいている男の顔面を大きな足裏で覆い隠し、全体重をかけて潰している。むき出しの生足が、男の頭部をわし掴みにして支配している。それはまるで、大鷲が獲物をその鋭利な足でわし掴みにして連れ去ろうとしているかのようだった。
「師匠、はやく、明日香、師匠のこと」
うわごとのようにつぶやき、ますます男の顔面を踏み潰していく明日香。
グリグリと足を動かし、マットにすりつけて遊び始める。踏み潰すごとに彼女の興奮は増していくようで、妖艶な笑みを浮かべた明日香は、いつまでも英雄の顔面を踏み潰していった。
「んんッ」
赤らんだ顔。
さらに体重がこめられる。
彼女の太ももにくっきりと凶悪な筋肉が隆起する。
興奮した女豹が、刈り取った獲物で遊んでいく。
それは明日香が満足するまで、ずっと続いた。
つづく