「おいっ、どこだそのデカ女ってのは」
道場に男たちが我が物顔で現れた。
20人ほどの男たち。
身長が高く、鍛えられていることが分かる屈強な男たちだ。皆がそろいの黒い服を着ている。Tシャツと長ズボン。いかつい顔つきで、どう見てもカタギには見えない、そんな男たちだった。
「先輩、あいつッスよ」
指をさしたのは聡だ。
その指先には、いつもの道着姿でじいっと男たちを見つめる明日香がいた。聡に先輩と呼ばれた男は「ほお」とニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて、明日香に近づいていく。そこに、英雄が割って入った。
「な、なんなんですか、あなたたち」
声がうわずっている。
それでも、英雄は明日香を後ろに隠すようにして、男たちに立ちはだかっていた。
(まずい。なんとかしないと)
英雄はその一念だった。
いくら明日香が強いといっても、それは道場の中だけの話しだ。目の前の男たちは明らかにカタギではない。ルールなんて関係のない荒くれ者。そんな男たちを20人も相手にすることなんて、いくら明日香といえども無理があった。
「なんだてめえは。どけよ」
男がすごむ。
ほかの男たちも迫ってきて、その圧力に英雄は屈しそうになった。
「ありがとうございます師匠。でも、大丈夫ですよ」
明日香の言葉。
彼女は、英雄の肩に手をやって、いつものニコニコした笑顔を浮かべていた。
「あ、明日香、で、でも」
「大丈夫です。ありがとうございます師匠。明日香、師匠に守られて、とってもうれしかったです。ふふっ、ドキっとしちゃいました」
明日香が英雄の前にでる。
堂々と、男たちに対峙した。
特に真剣そうな様子もなく、明日香はいつもの純粋無垢な少女として言った。
「明日香になにか用ですか?」
「おおっ? そうだよ。うちの後輩に舐めたマネしてくれたみたいだから、そのお礼にきたんだ。それにしても、おまえ、いい女だな」
ニヤニヤ。
男がイヤらしく笑う。
「たっぱも高くて、体もエロい。最高だよ。おまえの態度次第では、お礼をするのは止めにして、俺の女にしてやってもいいが?」
リーダー格の男。
ほかの男たちよりも身長が高く、いかついツートンブロックの男がニヤニヤ笑いながら言う。明日香はそんな男の視線を真正面から受け止めて返答した。
「お断りです」
「あ?」
「明日香には心に決めた人がいますから。あなたのような群れてないとなんにもできない人なんて、眼中にありません」
シーンと静まりかえる。
ふっと、男たちが笑った。
「よし、お礼だな。まあ、死なない程度には加減してやるよ。いくらでかいっていっても、女だしな」
男たちが明日香を囲む。
逃げ場はない。
それなのに、明日香はどこまでも自然体で、男たちを見つめていた。
「打撃技もOKのなんでもあり。それで戦ってもらおうか。なあに、俺たち全員を倒せばいいだけの話しだ。簡単だよなあ?」
*
20人相手の組み手。
打撃技ありというめちゃくちゃなルールだ。
明日香は教室で寝技しか学んでいない。打撃ありのルールで明日香が勝てるわけがなかった。
「明日香」
けれども、明日香は平然として男と向き合っていた。
道場の中央。
そこで明日香は一人目の男を前にして棒立ちしていた。相手は、身長はそれほどでもないが筋肉質で、ゴリラのような厚みのある体の男だった。
「相手を気絶させたほうの勝ちだ。ギブアップなし。それでいいよなあ?」
リーダー格の男が言う。
明日香と対戦相手の男がうなづいた。
「それじゃあ、開始っ」
リーダー格の男の宣言。
同時に動いたのはゴリラのような男だった。
まだ棒立ちでいる明日香にむかって腕を振り上げながら突進していく。その丸太のような腕が明日香の顔に直撃しそうに―――
「えいっ」
どっっごおおんんんッ!
男の体が吹っ飛んだ。
そのまま男の体が後ろにむかって飛んでいき、壁に激突して止まる。
ぴくぴくと痙攣している男。
気絶している。周囲の人間全員が、なにがおこったか分からないまま、シーンとしていた。
「うん、久しぶりにやってみましたけど、覚えてるものですね」
明日香の声。
それに反応した全員がハっとしたように彼女を見上げた。
「正拳突きです。明日香、空手も習っていたことあるんですよ」
えい。
拳を突き出す。
その空気を切り裂くような音。
そして、男を吹っ飛ばしてしまうほどの破壊力をもった拳。それを前にして、男たちは誰も喋れなくなってしまった。
「さあさあ、次は誰ですか?」
明日香が言う。
レクリエーション。
楽しい行事を前にした子供。
彼女はニンマリと笑って、獲物たちを見下ろしていた。
「どんどんいきましょう。先は長いですから、ね?」
*
始まったのは虐殺だ。
打撃技。
これまでキックボクシングの鍛錬を積んできた男たちを、過去に空手を習ったことがあるだけの少女がボコボコにしていく。
「明日香、足技も得意なんですよ」
ニコニコ笑って、上段蹴りをかます。
その長い足が旋回し、豪快に男の体を蹴った。
「ギャアアアアッ!」
悲鳴をあげ、吹き飛ぶ。
顔が壊され、鮮血が舞った。
男は動かなくなった。
気絶したのだ。
「ありゃりゃ、弱っちいですねえ。一発で気絶しちゃいました。じゃあ、次の人、お願いしますね」
にっこりとした笑顔。
人間の体が壊されていく。
少女の残酷さによって、男たちがボコボコにされていった。
「ふふっ、今度は手加減してみました。苦しいですか?」
明日香が男の腹を重点的にねらって遊び始める。
正拳突き。
男の腹に拳がドスッドスッと何度もめりこんでいく。明日香によって襟首をつかまれているので倒れることもできず、腹に拳をめりこまされて、内蔵が入っているはずのお腹が陥没してしまう。ひとしきり遊んだ後、明日香が男の襟首を放すと、男が地面にうずくまって、じたばたと悶えた。息も吸えないようで「かひゅ――かひゅ―――」とか細い呼吸をあげ、腹をおさえて苦しんでいる。
「ほら立ってください。まだ気絶してないんですから、試合は終わってませんよ」
ニコニコ。
明日香が悶え苦しみ続ける男を強引に起きあがらせる。男の腰は完全に引け、顔はうつむいて、なんとか呼吸をしようと必死だ。
「えい」
そんな男のミゾオチめがけて、強烈な正拳突きが炸裂する。明日香の拳。それが男のお腹にめりこむ。
串刺し。
明日香の腕によって串刺しにされた獲物は、悲鳴をあげることもなくそのまま地面に倒れ込んだ。そのまま、
「うげええええッ!」
「うわ、吐いちゃいました」
どこか他人事のように語る明日香。
彼女の足下。
地べたでのたうちまわっている男の姿。
生まれたばかりの赤ん坊のように、体を丸めて呼吸をしようと「かひゅう――かひゅう―――」と喉をならしている。それなのに、息を吸うどころか胃袋の中身を吐き出してしまっていた。
「呼吸、まったくできないでしょ?」
明日香が屈伸するようにしてかがみこんだ。
ニコニコしながら、両手を両頬にあてて頬杖し、間近で悶え苦しんでいる男を観察している。
「あなた、ぜんぜん鍛えてないですもん。明日香の拳一つで、ゲボはかされて、呼吸も奪われて、苦しんじゃってます」
「オボオオオッ……カヒューー……おぼおおお」
「あはっ、もう胃液だけになっちゃいましたね。さてと、仕上げです」
明日香がニコニコ笑いながら立ち上がり、足を振りあげた。
その長く逞しい足が狙いを定めてしまう。そのまま、大きな足裏が、情け容赦なく男のミゾオチを踏み潰した。
「ぐっげええええええッ!」
断末魔の悲鳴。
そのまま男は気絶した。
自らの吐瀉物の海の中に沈み、びくんびくんと痙攣している。
「それじゃあ、次です」
明日香が言った。
「どんどんいきましょう」
*
虐殺。
少女が屈強な男たちを虐殺していく。
拳で蹴りで。男たちの体を粉砕し、壊していく。
「も、もういい。全員でやっちまえ」
リーダー格の男が叫ぶ。
リーダーと聡を除いた10人ほど。彼らが明日香に殺到し、返り討ちにされた。
「グッゲエエエエ!」
「ぎゃあああああ!」
「ひいいいいいいッ!」
「カヒュ――カヒュウ――」
「ひいい、ひいいいい」
「あ、やめて、た、たすけ、ブゲッ!」
「ひゃだあああ、ひゃだああああ」
「ぎやああああああ」
「ぐるじいいい……ひゃだひゃだああ」
「たしゅけ、たしゅけてえええ」
10人の男たちの断末魔。
ドガッ! ボゴッ!
ドスウンンッ!
男たちの体が壊れていく音が道場中に響く。
少女の拳が炸裂するたびに、男たちの体のどこかが壊される。顔面を殴られた男の口から何本かの歯が飛び散り、ぴしゃあっと道場の壁に鮮血がこべりつく。明日香の丸太のような太ももから放たれた蹴りをくらった男は、交通事故にあったように吹っ飛び、両手両足が変な方向に曲がって動かなくなる。
屍が重なる。
あっという間に調理されていく男たち。
それを行っているのはまだ幼い少女だった。
ニコニコと余裕の表情で男たちを壊していく。その育ちきった体の優秀さを証明していくように、男たちの顔を粉砕し、血反吐を吐かせ、体中のいたるところを痛めつけていく。すぐに、10人はマットに沈んだまま、動かなくなった。
*
「ふふっ、最後はあなたたちですよ」
明日香が笑った。
それを真正面から受けたリーダーと聡はがくがくと震えた。目の前の少女は化け物だ。けっして手を出してはいけない危険人物だったのだ。
「ひ、ひでえ」
リーダーと聡が、仲間たちの末路を呆然と見つめている。彼らの視線の先には、顔がひしゃげ、原型もとどめていない屍になってしまった仲間たちの姿があった。今もピクピクと痙攣して、死ぬ一歩手前まで痛めつけられた姿を見て、リーダーも聡も足がすくんでしまった。
「ん~、どうやって痛めつけようかな」
明日香が真剣に考えている。
リーダー格の男の間近で、かわいらしく人差し指をあごにあてて考えている少女。メイクをどうしようかとか、どうやって気になる男の子をデートに誘おうかとか、そんなことを考えていそうな少女はしかし、目の前の男をどうやって痛めつけて壊そうかと考えているのだった。
「どこを壊そう」
ニコニコ。
まるで楽しいアトラクションを前にした子供のように、明日香がリーダー格の男を見下ろしている。鑑賞の時間が流れ、男が怯えて、少女が笑った。
「ふふっ」
明日香が片足で立った。
丸太のような太ももがどっしりと地面を踏みしめ、ふらつくこともない。そのまま明日香が、もう片方の足で、男の体を軽く蹴り始めた。
「ひ、ひいいいいい」
まだ力はこめられていない。
寸止め。
明日香の強靭な足が、男のこめかみや、肩、腕、手、腹、腰、太股、ふくらはぎへと、寸止めの蹴りを放つ。
変幻自在。
片足で立ったまま、男の上から下までをまんべんなく軽くふれる程度に蹴っていく。片足で立っているというのに、彼女の体はまったくふらつくこともなく、泰然としていた。
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
べしっ、べしっ、ぺしっ、がしっ。
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
べしっ、ばしんっ、ばしっ、べしっ。
何度も何度も。
軽くふれる程度の生殺し。
そんな遊び程度の蹴りなのに、男は顔を真っ青にして、直立不動のまま動けなかった。
動いたらどうなるか分からない。
自分が動けば、今、この軽く触れてくるだけの足が殺人兵器に変わり、自分の体は粉砕されてしまうかもしれない。
それを想像したリーダー格の男は、逃げることも、反応することもできず、いつまでも明日香の玩具にされていった。目の前で変幻自在で軌道が変わる蹴りを見せつけられながら、いつ何時やってくるか分からない本気の蹴りに怯えて、がくがくと震える。自尊心も男のプライドも奪われた男が、情けない姿をさらして怯えている。
「やっぱりここかな」
ドッスウウウン!
明日香が唐突に男の顔面を蹴った。
悲鳴もあげられずに吹っ飛ぶ男。
地面に倒れ、「うっぎゃあああ」と遅れて悲鳴をもらして、じたばたと地べたで暴れている。口からは大量の血液をまきちらし、蹴りが炸裂した右頬は赤く腫れて顔の体積が二倍になっていた。
「手加減したからまだ気絶してないですよね」
明日香が無慈悲に言う。
「ほら、はやくこっち来て、明日香の前で直立不動で立ちなさい。またさっきのやりますからね」
「……ゆるじでええ……お願い……」
「はやくしないと、手加減してあげませんよ?」
「ひいいいいッ!」
男が立ち上がった。
顔を腫らし、涙をぽろぽろ流しながらも勢いよく明日香の前で直立不動になる。ぴんと腕を伸ばしたきょうつけをする男は、どこまでも惨めだった。
「よろしい。じゃあ、やりますね」
「や、やめて」
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
べしっ、ばしっ、ばしんっ、ぺしっ。
「ひいいいいい」
「ど・こ・に・し・よ・う・か・な」
ばしんっ、ばしっ、ばしっ、べしんっ。
「ひゃだあああ、た、たすけてええ」
続いていく。
明日香の遊びが続いていく。
きらきらした瞳で男の体に寸止めの蹴りを放ち、その一撃一撃で男を怯えさせていく。
もはや勝負はついていた。
けれど、これは気絶するまで終わらないのだ。明日香の遊びが簡単に終わるわけがなかった。
*
「ほーら、見て聡くん。リーダーさん、すごい顔になっちゃったよ」
ニコニコ。
笑いながら、明日香が男の髪の毛を片手でつかんで宙づりにして、その顔面を聡に見せつけた。
彼女によって持ち上げられている男は、もはや人間の顔をしていなかった。顔は真っ赤で、ぱんぱんに腫れあがってしまっている。そのせいで瞳がふさがってしまい、目がなくなっていた。
全裸。
服をはぎとられて、その体中を痛めつけられ、どす黒い内出血の痕跡がそこら中に残っている。無事である体はどこにも残されていなかった。
「ひ、ひい」
そんな頼りになるはずだった男の末路を間近で見せられて、小柄な聡は悲鳴を漏らすしかなかった。
さきほどからガクガクと体が震え、顔が戦々恐々として真っ青になっている。
「明日香に復讐しにきたんだよね? それなのに、頼みの先輩たちはみ~んな、明日香にボコボコにされちゃった」
「ゆ、ゆるして」
「ふふっ、仕上げするね」
がしっ。
明日香の両手が背後から男の首をわしづかみにする。
足を折り曲げてかがんで、首を締めている男の顔面を聡の顔の高さに調整。聡の目の前で、明日香がリーダーの首を締め始めた。
「ぐっげええええええッ!」
悶え苦しみ始める。
ピクピク痙攣するだけだったリーダーが、体を暴れさせて必死の抵抗を始める。
「ほ~ら、どんどん締まるよ~」
そんな男の抵抗なんてまったく気にするそぶりもなく、明日香は怯える聡だけを見下ろしていた。
その大きな両手が、がっちりと男の首をわしづかみにして、締め上げている。その様子を見せつけられて、聡はさらにガクガクと体を震わせていった。
「墜とすね」
ぎゅううううッ!
「グッゲエエエエエッ!」
ぱたん。
暴れていた体が終わる。
ぶらんと脱力した体。
気絶したのだ。
無様な面をさらして、あれだけ偉そうにしていた男が失神した。
「あはっ、よわっ」
吐き捨てるように言う明日香。
彼女は仕上げとばかりに気絶した男の顔面をさらに聡に見せつけた。
「よく見て、聡くん。これが明日香にはむかった男の姿だよ」
「や、やめ……たすけて……」
「ふふっ、聡くんも、この後こうなるんだよ?」
支配者が宣言する。
「これが聡くんの10分後の未来。明日香に殴られて、蹴られて、ボコボコにされて、最後には締め落とされちゃうの。ほら、ちゃんと見て、聡くんは、これからこの男みたいにボコボコにされるんだよ」
ぐいっ。
気絶した男を聡に押しつける。
間近。
そこに迫ったぐじゃぐじゃに壊された男と、これから始まるであろう地獄を想像してしまった聡が、限界を迎えた。
「あああああああッ!」
じょろじょろじょろっ。
悲鳴。それと同時に、黄色いおしっこが漏れ始める。
「うわっ、漏らしたよこいつ」
明日香の冷たい声。
道場が汚れていくのを見て、明日香は淡々と死刑執行を決めたようだった。
「うん、じゃあ、やろっか」
リーダー格の男を投げ捨てる。
今も放尿して、いやいやをするように顔を左右にふりながら、聡が怯えきった表情を浮かべる。その目の前には、仁王立ちになった明日香の姿があった。
矮小な体躯と大きくて強靭な肉体。
圧倒的な体格差。
同い年のはずなのに、そこには越えられない生物としての格差が存在していた。
「ふふっ。最後はこれにしよう」
明日香が右足を大きくあげた。
自分の顔よりも高く、その足を振りあげる。その逞しい足。むっちりとして、筋肉質な太もも。そこからさらに伸びるカモシカのようなふくらはぎ。それが大迫力で大上段に振り上げられた。男の命を刈り取るギロチン。聡はそれを呆然と見上げるしかなかった。
「かかと落とし」
えいっ。
どっすうううん!
明日香のかかとが、そのまま聡の脳天に直撃した。
大迫力で振り上げられたギロチンが、容赦なく罪人の首を刈り取る。聡はそのまま顔面から地面に叩きつけられ、気絶してしまった。
「あはっ、ちょろ~い」
ぐりぐりと聡の後頭部を踏み潰しながら明日香が言った。
かかと落としで聡の頭部を潰し、そのまま地面に叩きつけて、体がバウンドすることも許さない。右足で聡の顔面をマットに押さえつけて踏み潰していく。
「おそうじおそうじ、らんらんら~ん」
明日香が陽気に歌って、そのまま聡の髪の毛を足の指でつかんだ。
右足の指だけで聡の後ろ髪をわしづかみにして、持ち上げる。始まったのは、男の体を雑巾にした、道場の掃除だった。
「まずは、漏らしたおしっこを掃除しま~す」
ごしごし。
聡の体を持ち上げ、モップがけを始める。
マットにたまった黄色い液体が、聡の衣服に吸収され、みるみるうちになくなっていく。
「うんうん、ザコだけど、雑巾としては優秀かもね」
ふふっ。
笑った明日香が、さらに掃除を続ける。
ほかの男がはいた吐瀉物も。
ほかの男の鮮血まみれになった場所も。
聡の体を雑巾に使って掃除して、ピカピカになるまで綺麗にしてしまった。
「さてと、じゃあ、続きをしますね」
笑っている。
真性のサディスト。彼女がこれくらいで満足するはずがなかったのだ。
「さあさあ、みなさん起きてください。第2ラウンドのはじまりですよ」
新しい玩具を手に入れた子供。
明日香はその残酷さを遺憾なく発揮して、男たちを気絶という安息の地から呼び戻し、さらに痛めつけていく。それは、明日香が満足するまで続いた。
*
英雄はその光景を呆然と眺めていた。
少女が男たちをボコボコにしていく。
彼女がいつも道場で見せていた残虐性が子供騙しに思えるほどの凄惨な拷問現場。
明日香の腕や足が躍動するたびに、男たちの体は壊され、鮮血が舞って、吹っ飛んでいく。打撃技で満足しなくなった彼女が見せる締め技の数々で、男たちは何度も何度も締め落とされていった。
男たちの悲鳴。
泣き叫び。
命乞い。
それを無視して明日香が続ける。
ニコニコしながら、
楽しそうに、
一人の少女が20人ほどの男たちをボコボコにしていく。彼女が満足するまでには5時間が必要だった。
「ゆるじでくだじゃい……おねがいしまふ……たしゅけてくだじゃい……」
聞いていて情けなくなってくる声色。
必死に命乞いしているのはリーダー格の男だった。
もはやぼろ雑巾。体中を痛めつけられ、何度も締め落とされた結果、意識が朦朧とし、人格さえ壊されて、人間としての尊厳も奪われてしまった男。
そんな男を筆頭に、20人の男たちが全裸で正座をしていた。
横一列。彼らの目の前には、ニコニコと笑った明日香がいた。
「土・下・座」
「ひいいいいいッ!」
明日香の端的な命令に、男たちは勢いよく従った。
額を地面に打ち付けて自殺でも試みているような勢いで、土下座をする。自分の額や顔面をマットにおしつけ、これ以上ないくらいに頭を下げた男たち。
「ふふっ、どうしようっかな~」
明日香は男たちの土下座を点検することにしたらしい。男たち一人一人の前に立って、その土下座を点検し始める。
「ん~?」
「ひ、ひいいい」
明日香が立ち止まり、声をかけられただけで、男は戦々恐々として体をガクガクと震わせた。
土下座をしているので、男から明日香の顔は見えない。視界に入ってくるのは彼女の大きな足だけ。その迫力を前に、彼女に目をつけられた男は怯え狂ってガクガクと震えるしかなかった。
「ふふっ」
震える男たちが面白かったのだろう。彼女は片足を振り上げて、男たちの後頭部を軽く踏み始めた。
力はこもっていない。
軽く触れる程度。
高身長の高みから、大きな足を振り上げ、その足裏で男たちの矮小な後頭部に軽く足裏を乗せていく。
「ひ、ひいいいいい」
「ゆ、ゆるしてくださいいい」
「たすけて、たすけて、たすけて」
「ひゃだあああああ」
男たちはそれだけで滑稽に怯えた。
大きな足裏が後頭部に乗る。
ただそれだけで、男たちは怯え狂い、中にはそのまま失禁してしまう者もいた。
「うん。だいぶ分からせることができましたね」
にっこり笑った明日香が言う。
「あなたたちは明日香と比べて弱くて弱くてザコすぎるっていうことを、ちゃんと分からせることができたみたいです。教育の成果ですね」
ふふっ。
笑った明日香が土下座したリーダー格の背中を踏み潰す。片足だけで、ぐりぐりと。それは、勝者と敗者が一目瞭然に分かる光景だった。
「今後、明日香の命令には絶対服従。わかりましたか?」
「は、はひいいいいいいッ」
「よろしい。それでは、あなたたちが所属していたキックボクシングジムは今日で解散です。あなたたちは今から、この道場に入門してもらいます」
男たちの境遇をあっさりと決めてしまう。
敗者をどのように扱おうが、それは勝者の自由だった。
「ふふっ、あなたたちは今日から、明日香のサンドバックになるんですよ」
ぐりぐりぐりっ!
土下座したリーダー格の男の背中をさらに力強く踏み潰す。明日香の顔が次第に赤らみ、興奮していくのが分かった。
「明日香、ふだんはちゃんと手加減してるんです。でも、あなたたちには手加減の必要もない。明日香の全力でボコボコにできる。ふふっ、あ~、たのしみだな~」
残酷な宣言。
そんな言葉に、男たちはさらにガクガクと震えるのだった。
「師匠、この人たち入門させてもいいですよね?」
明日香が妖艶な瞳を英雄に向けながら言った。
そんな明日香の逞しい体と、残酷性を前にして、英雄が断れるわけがなかった。
「あ、ああ。い、いいんじゃないか?」
「ありがとうございます。こいつら数だけは多いですから、しばらく師匠のことボコボコにしなくても、明日香、我慢できそうです」
「そ、そうか」
「はい。まあでも、こいつらもって1ヶ月くらいですかね。よわっちいですから、明日香が本気でストレス解消の道具にしたら、1ヶ月以内に全員壊れてしまうと思います。まあ、サンドバックがいくら壊れても、どうでもいいですけどね」
ニコニコ。
笑った明日香が、
「師範、椅子」
「は、はいいいい」
英雄と同じく呆然と拷問現場を見つめていた師範が、明日香の足下に飛んでいって四つん這いになった。
「ん」
どっすんんんッ!
明日香が四つん這いになった師範の背中に全体重をかけて腰かける。
そのムチムチの巨尻が師範の背中全体を覆い隠すようにして潰していた。師範は苦悶の表情を浮かべながらもなんとか耐え、人間椅子の職責を果たそうと努力し始める。
「それじゃあ、みなさん、手始めに舐めてください」
明日香が師範にねぎらいの声をかけることもなく、その背中をイスにして座り、足を前に差し出した。
長く、逞しい足が、死刑宣告をするように投げ出される。その先には、ボコボコになった男たちがいた。
「かわりばんこで舐めなさい」
「あ、ああああ」
「下手だったら、また最初からヤりますからね」
悲鳴をあげた男たちが明日香の足に殺到した。
恥も外聞もなく、ぺろぺろと明日香の生足を舐め始めた男たち。自分たちよりもはるか年下の少女の足下に這いつくばって、その足を自分の舌で舐め清めていく。
それはまるで、動物園の猿山の光景だった。飼育員である明日香と、彼女からエサをもらうために群がる無数の猿たち。明日香がニンマリと笑いながら男たちに足を舐めさせていく。
「あ、明日香」
英雄はただ呆然とそれを見つめ続けた。
道場の支配者。
絶対の存在として君臨する妹弟子。
彼女はこの道場の中で誰よりも強く、傍若無人に振る舞うことが許された支配者だった。そんな彼女がサディストぶりを遺憾なく発揮し、年上の男をイスにし、さらには無数の男たちに足を舐めさせていく。
「あ、ああああ」
声が漏れる。
ゴクリと誰かが生唾を飲み込んだ。
その光景を食い入るように見つめた英雄の股間は、これ以上ないほど勃起していた。
つづく