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 英雄は明日香と向かい合って座っていた。

 お互いに正座。

 目の前。

 そこにはニコニコ笑う明日香の姿があった。

 こうして座っているだけで、体の圧がすさまじかった。道着の胸元はひらけていて、その大きなおっぱいの谷間が強調されている。丈を短くした下半身の道着からはムチムチの太ももが自己主張をして、英雄としても目のやり場に困った。

「大きくなったね、明日香」

「はい。成長しました」

「しかし、3年でここまで大きくなるなんて、すごいよ」

「ふふっ、師匠と別れてから、ぐんぐん身長が伸びて、体も大人になったんです。この前の身体測定では186センチだったので、今はもっと高くなっていると思います」

「そ、そうか」

 具体的な身長の数字を知ると英雄も戸惑った。

 自分よりも30センチ近く身長が違うことになる。

 あの小さかった妹弟子に身長を抜かされている―――それを実感すると、英雄は、悔しさと劣等感が入り混じった複雑な感情が自分の中に生まれるのを感じた。

(しかも、明日香はまだ初等部なんだよな)

 成長期。

 まだまだこれから大きくなる。

 自分との差はますます広がってしまうだろう。そう思うと屈辱感がさらに増すようだった。

「師匠にまた会えて、明日香、本当に嬉しいです」

 素直な言葉。

 純粋そうな声と表情。

 それは英雄が知っている明日香そのものだった。

 この純粋無垢そうな少女と、さきほど成人男性の首を締めて吊し上げ容赦なく気絶させた残酷な女性とが同一人物とは思えないくらいだ。

「鍛錬を欠かさなかったみたいだね」

「はい。師匠に言われたとおり練習してたら、強くなれました。今、この道場では、明日香が一番強いんですよ」

「そ、そうなのか」

「はいっ」

 ニコニコと笑顔で言う明日香。

 英雄に再会できたことが本当に嬉しいということを全身で表現しているような少女に、英雄としても悪い気はしなかった。劣等感のようなものが、自然と消えていく。

「そうだっ、師匠にも明日香がどれだけ強くなったのか見てもらいたいです」

 明日香が立ち上がった。

 座った状態から見上げると、その体の大きさは威圧的の一言だった。かわいらしい幼い顔立ちなのに、体だけはもう大人のものだ。そのギャップに英雄もクラクラした。

「スパーリングするので見ていてください」



 *



 そうして明日香の締め落としが始まった。

 彼女の強さは明らかに異質だった

 立ち上がった男女が向き合う。

 男の顔は、はやくも怯えと緊張でこわばっていた。

「いきますよ~」

 明日香は終始笑顔だ。

 ニコニコしながら男に襲いかかった。

「えい」

 速い。

 英雄は目で追うのがやっとだった。

 瞬間、明日香の長い足がバっとひろがった。

 まるで女郎蜘蛛がその長い足で獲物に襲いかかったかのような俊敏さ。彼女は両太ももの間に男の胴体をがっちりと挟み込むと、そのまま仰向けの体勢で男を地面に引きずり込んだ。

「ふふっ、つかまえた」

 ニコニコと笑顔の明日香。

 対照的に絶望で眉を下げている男。

 明日香は地面に仰向けで寝転がっている。

 まるで自分の部屋でリラックスしているような格好。

 しかし、その屈強な太ももの間には男の胴体が挟み込まれていた。ムチムチの筋肉質な足が容赦なく男の胴体に食い込んでいる。男の背中で明日香の足は四の字に組まれてがっちりとホールドされていた。もはや脱出する可能性が0であることは一目瞭然だった。

「見ててくれましたか、師匠」

 その体勢のまま明日香が言う。

 目の前の男から視線をはずし、ニコニコとした笑顔を英雄に向けながら、

「あっという間に寝技に持ち込めました」

「あ、ああ。すごいよ」

「ありがとうございますっ! こうやって明日香が太ももで挟み込むと、もう男の人は抵抗もできないんですよ。見ていてください」

 ニッコリとした笑顔。

 そのまま、明日香が太ももで男の胴体を潰した。



 ぎゅううううううッ!



「ひっぎいいいいいッ!」



 男の悲鳴。

 それが道場中に響き、周囲を取り囲んだほかの男たちが顔をそむけた。

 そんな中にあっても、英雄は明日香の脚に視線がくぎ付けになってしまっていた。

(す、すごい)

 その太もも。

 ムチムチの太ももの下から現れた筋肉は凶悪の一言だった。柔らかさを失っていない女性らしい筋肉が、皮下脂肪の下から出現し、強烈な自己主張をしている。

 その強靱な太ももはどん欲に男の胴体を喰らい、捕食していた。ギチギチギチッと肉が潰れ、それだけで男は抵抗一つできず、早くも若干白目をむいて悶えている。

「ね、この人、もう苦しそうです」

 またしても明日香が英雄に顔を向けて言う。

 ニコニコとした少女。

 自分の成果を憧れの人に見て自慢したいという幼児性がそこにはかいま見られた。けれどもやっていることは残酷の一言だ。英雄に話しかけながらも、そのアナコンダのような太ももはひたすらに締め付けを止めない。ベギバギッと骨が軋む音すら響き始めていく。

「こうすればあとは簡単です。見ていてくださいね、師匠」

 明日香が動く。

 英雄は圧倒された。

(は、速いっ)

 ばっと、またしても明日香の両足が花開く。

 がっちりと男の胴体をホールドしていた足が、あっという間に男の首に巻き付き、終わった。

 それは一瞬の出来事だった。

 瞬きをするその瞬間に、明日香は三角締めを極めてしまったのだ。

「はい、いっちょうあがりです」

 嬉しそうな、誇らしそうな、

 明日香のニコニコした笑顔。

 それとは対照的に、男は明日香の股の間に顔をつっこみ、まるで土下座をするみたいにして四つん這いになっていた。

 顔が鬱血している。頭部全体を明日香のムチムチかつ筋肉質な太ももに埋もれさせて、三角締めが完璧に決まっていた。男に許されたのはギブアップのタップだけだ。苦しさのあまり、男が早々に明日香の太ももをぺしぺしと叩き始める。

「師匠見ていてくれましたか」

 明日香が英雄に顔を向けて言った。

 その間も、男のタップが必死に繰り返されている。

「明日香、こんなに強くなれました」

「あ、ああ」

「これも師匠の教えのおかげです。師匠の教えどおりに練習していたら強くなれたんです」

「そ、そうだな。でも、それより明日香、もう相手はタップしているんだから、もう技をやめたほうがいいんじゃないか?」

 英雄の視線の先。

 そこでは、男が半狂乱になって暴れていた。

 勢いよくベチベチと明日香の太ももをタップしても決して解放されない恐怖。それによって男は体全体を暴れさせてなんとか逃げようとし始めた。それは体の本能。命を守ろうとする必死の行動だった。

「え、なんでですか?」

 しかし、男の必死の行動は、明日香にとってはどうでも良いものらしい。。

 キョトンとした表情を浮かべ、男が暴れてもビクともしない三角締めを継続したまま、明日香が言う。

「弱い人には分からせないとダメじゃないですか」

「わ、分からせる?」

「はい。自分の立場ってやつを分からせてあげなきゃ」

 こんなふうに。

 ぎゅうううううッ!

「ぐげえええええッ!」

 締め付け。

 明日香の太ももの体積が増した。

 それとともに男の顔面は彼女の豊満な太ももの間にすっぽりと埋まり、見えなくなってしまう。聞こえるのはウシガエルを踏みつぶしたような断末魔の悲鳴だけ。それが永遠に続き、道場中に響きわたった。

「今、気道だけ締めてます」

 ニコニコ。

 笑顔で師匠に自慢する少女。

「そうすると、本当に苦しそうに暴れるんですよね。それでも許さず締め付けていきます」

 えい。

 かわいらしい声。

 さらに締め付けの強さが増す。

 まだ手加減しているのだろう。

 全力ではない。余裕の表情で太ももに力をこめていく。「グッゲエエエエエッ!」という悲鳴が強くなる。それでも明日香はニコニコしたまま、三角締めを残酷に続けた。

「頸動脈ではなく、こめかみを締めます」

 バギベギバギッ!

 骨が軋む。

 頭蓋骨が悲鳴をあげている。

 男がジタバタと暴れ、発狂したように痙攣し始める。

「ふふっ、もう少し力こめたら潰れちゃいそうですね。このまま、明日香の太ももで、頭潰しちゃおうかな」

 にこにこ。

 笑いながら、冗談のような言葉。

 しかし、道場にいる男全員が明日香の言葉が冗談ではないことを知っていた。今も、ベギバギと頭蓋骨が軋んでいく。「グッゲエエエエッ!」という悲鳴はもはや壊れた人間があげる鬼気迫るものへと変わっていた。

 圧倒的な太ももの存在感。

 その間にすっぽりと埋まり、四つん這いの格好で頭を強制的に下げさせられて死への痙攣を踊っていく男。もはや限界。その瞬間、明日香の締め付けが終わった。

「墜ちろ」

 くいっ。

 太ももの内側の筋肉が蠢く。

 的確に男の頸動脈だけを締め付けたかと思うと、次の瞬間には男は盛大なイビキをかき始めた。

 気絶したのだ。

 男の体は脱力し、ビクンビクンと痙攣している。

 グボオオオオッというイビキが響き始め、気絶した。

「ほら師匠、見てくださいよこいつの顔」

 起きあがった明日香が言う。

 彼女は気絶したまま動かない男の髪の毛をつかむと、そのまま持ち上げてしまった。

 髪の毛を掴んで宙づりにしながら、まるで戦利品のようにして英雄に展示する。

「う、あ」

 英雄の目の前。

 そこには、白目をむき、顔を鬱血させ、涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃにされた男の顔があった。人間の尊厳なんて1ミリも残っていない情けない姿。成人男性が、初等部の少女に手も足も出ずにボコボコにされてしまった姿だった。

「おもしろい顔ですよね~。まさにザコって感じです」

「あ、明日香」

「こんな弱い人は吊してあげないといけません」

 明日香の瞳がキラリと光った。

 英雄が止めるヒマもなく彼女は男の胸ぐらをつかむと、そのまま宙づりにさせた。吊している。身長差から男の足は地面につかず、ぶらぶらと男の死体が揺れているようだった。

「起きろ」

 ベッチイインンッ!

 びんた。

 強烈な往復びんたが何度も炸裂する。

 男の頭部は左右に揺れ、首がねじきれそうになっていた。

「ふは?」

 起きた。

 男の視線がきょろきょろとする。

 そして、自分が吊されていることを自覚し、明日香のニコニコした笑顔を見て、「ひい」と悲鳴をもらした。

「起きましたね、井上さん」

 ニコニコ。

 純粋無垢な少女が成人男性を吊し上げながら言う。

「井上さんは10歳以上も年下の女の子に手も足もでずに締め落とされてしまったんですよ? なさけないと思わないんですか?」

「あ、ああああッ!」

「なにか言うことはないんですか?」

 ん?

 回答の催促。

 成人男性を吊しながらの言葉。

 吊されている男に選択の余地はないようだった。

「ゆ、ゆるしてください明日香様アアアッ!」

 命乞い。

 吊された男が、自分よりも一回り年下の少女にむかって命乞いを始める。

「おゆるしください。弱くて申し訳ありません。たすけて、たすけてください」

 必死。

 心の底から命乞いをしている。

 それが英雄にとっては衝撃的だった。

 命のやりとりが目の前では繰り広げられている。

 スポーツとして格闘技をやっていた英雄にとって、その光景はあまりにも規格外すぎた。

「ん」

 ぎゅううううううッ!

「ぐげえええええええッ!」

 明日香が動いた。

 両手で胸ぐらを掴んでいた襟を左右に閉じる。

 右手は左へ、左手は右へ。

 襟締め

 宙づりにされた男がバタバタと暴れ始め、顔を真っ赤を通り越して紫にしていく。

「ふふっ、吊して終わりにしてあげますね、井上さん」

 にこにこ。

 必死に暴れ始めた男には微動だにせず、明日香が言う。彼女の体の逞しさが分かる光景。男がどんなに暴れても、明日香は1ミリだってよろけることなく、淡々と襟締めで男の意識を奪っていく。

「ぎっぎいいいいいッ!」

 悲鳴。

 同時に明日香の腕を何度もたたき、必死の命乞いが始まる。

 それを無視した明日香が、致命的な締め付けを男の頸動脈に与えた。

「グッボオオオオオッ!」

 墜ちた。

 明日香の腕の中で意識を失った男がイビキをあげ、ダランと脱力した。

「あらら、もう墜ちちゃいました。だいぶ墜ち癖がつきましたね。まあ、明日香がそうさせたんですが」

 くすりとした笑顔。

 男にはもう明日香の言葉は届かない。

 足が地面につかず、その物体となった体がゆらゆらと揺れている。絞首刑にされた死刑囚の体。絶対的な存在となった明日香はにこにことしながら気絶した男を見上げていた。

「どうですか、師匠」

 明日香が英雄にむかって、

「明日香、強くなれましたか?」

「う、あ、ああ」

 うなずく。

 うなずいてしまった。

 英雄の視界には、ぱああっと笑顔になる明日香の幼い顔がうつった。

「ありがとうございます。ほかの人たちも落としていくので、見ていてください」

 明日香が続けていく。

 屈強な男たちを、それよりも優れた体格の少女が蹂躙していく。英雄はただ呆然と、その締め落としの様子を見守るしかなかった。


つづく