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 衝撃的な再会の翌日以降。

 英雄はブラジリアン柔術教室が変わってしまっていることを実感していた。

 もはやこの教室は男たちのためにあるものではなかった。一人の少女。明日香のために存在しているのだ。

「馬乗りになっちゃいました。岡村さん、逃げられますか?」

 馬乗り三角締め。

 仰向けに倒れた男の顔面に座るような格好で、明日香が三角締めをしている。顔面騎乗のように見えるが、彼女の鍛え上げられたムチムチの足は男の首に絡みつき、容赦なく締め上げていた。

「ぐ、ぎいいいいいッ」

 男が必死に抵抗している。

 体を暴れさせ、なんとか逃げようとする。

 しかし、

「なにしてるんですか、岡村さん」

 男の顔面で座りながら明日香はにこにこ笑っていた。部屋で座ってくつろいでいるような余裕さ。その太ももの間で男を殺しながら、明日香は楽しそうに笑っているだけだった。

「ほら、もっとがんばってください」

「ひ、っぎっぎいいい」

「そうしないと、本気で締めますよ」

「ひっぎいいいいいッ!」

 暴れた。

 明日香の脅しに男が命をかけて暴れ始めた。

 残った片手でぽかぽかと明日香の体を叩く。両足をばたつかせてなんとか逃れようとあがいていく。明日香の尻の下でかろうじて見える男の横顔は滑稽にもゆがみ、恐怖におののきながら、必死に抵抗していた。

「はい、時間切れです」

 ぎゅううううううッ!

 締め付け。

 彼女の太ももの体積が増す。

 途端に男の体からいっさいの抵抗がなくなった。

 気絶したのだ。

「吊しますね」

 自然な流れ。

 またしても明日香が男を吊す。

 明日香が岡村の首を片手でつかんで、持ち上げた。高身長で立ち上がり、自分の頭よりも上に男を持ち上げてしまったのだ。鑑賞会の時間が流れ、満足した明日香が残ったもう片方の手で拳をつくり、男のみぞおちめがけて正拳突きを放った。

「ひいいいいいいッ!」

 木の葉のように男の体が吹っ飛ぶ。

 けれども首をわしつかみにされているので、地面に倒れ込むこともできない。男の体は無様にも宙づりにされたままだ。宙づりの状態で目をさまし、激痛に身を悶えさせた男が見たのは、自分のことをにこにこと見上げてくる明日香の幼い顔だった。

「あ、ああ、ああ」

 恐怖。

 男が眉を下げ、目の前の少女に恐怖している。それを見上げる明日香はなおもニコニコとした笑顔を浮かべたままだった。その幼い相貌は、公園の砂場でおままごとをしているような少女にしか見えなかった。

「落としますね」

「や、やめ」

「えい」

 片手だけ。

 明日香が握力だけで締め付けると、まるで手品のように男は気絶した。

 1秒もかかっていない。片手による締め付けだけで男は意識を刈り取られてしまった。

「う~ん、岡村さんも墜ち癖がひどいですね」

 他人事のように明日香が語る。

「これは気道責めで再教育してあげなければいけません。ほら、岡村さん、起きてください。とりあえず、気絶させないまま1時間は苦しめますから」

 そこで明日香はにっこりと英雄を見下ろした。

 英雄は明日香を呆然と見上げるしかなかった。

「師匠、見ててくださいね」

 無邪気な笑顔。

 英雄は何も言えなかった。

(つ、強すぎる)

 驚嘆。

 目の前の圧倒的性能をもった肉体を前にして、英雄はどこか恐怖のようなものを感じていた。

 ひょっとしたら明日香は自分より強いかもしれない。

 そんな気持ちがめばえるほど、目の前の少女は圧倒的だった。

 その高い身長。

 まだ初等部なのに、男たちの誰よりも身長が高い。しかも、ひょろひょろしているわけではなく、その体はムチムチとしていながらも筋肉の鎧に覆われているのだ。

(いや、体もそうだけど、規格外なのは精神性だ)

 無邪気な残虐さ。

 そう表現するのが一番しっくりくると英雄は思った。

 今も、気絶した岡村を覚醒させて、再び床に引きずりこんで三角締めを始めている少女。ニコニコしながら、宣言どおり気道だけを締めて、男に断末魔の悲鳴を永遠にあげさせていく。

 もし。

 もしあの加虐性が自分に向けられたら……。

 そう考えると英雄は足がすくんでしまった。

 それほどまでに、目の前の明日香は圧倒的だった。

「あ、明日香。その辺にしておいてやらないか」

 けれども、英雄は指導係だ。

 やりすぎている生徒は止めなければならない。

 英雄はなんとか明日香にむかって言った。

「岡村さんも限界みたいだから。今日はそのへんにしておこう」

「そうですか? でも、まだまだ指導が足りないような気がするんですが」

「いや、もう十分だよ。これ以上はまずい。な、明日香、やめておこう」

 キョトンとした明日香。

 その間も明日香による三角締めで、岡村が「ぐげええええ」と悲鳴をあげ、何度も何度もタップを繰り返している。そのアナコンダのような太もも。英雄はごくりと唾を飲み込んで、男に巻き付いている明日香の長い足を凝視するしかなかった。

「わかりました。師匠がそう言うなら」

 明日香が技を解いた。

 さきほどまで男を半殺しにしていた少女とは思えない純粋無垢な笑顔で立ち上がる。

「それじゃあ、次いきますね」

「え?」

「見ていてください、師匠」

 あくまでも師匠に自慢がしたい。

 自分が強くなったところを見て欲しい。

 そんなふうに考えていることが分かる純粋無垢さで、明日香は次の獲物を手早く決め、そいつを引きずってマットの上に連行する。そして、またしても凄惨な拷問を始めてしまうのだった。

「あ、明日香」

 声をかけることもできず、英雄はそれを見守るしかない。

 明日香はニコニコしながら、その日も、道場中の男たちを締め落とし、吊して、恐怖の支配者として君臨していた。


つづく