ここはどこだろう。

 町田は、ぼんやりとした意識の中で疑問に思った。

 暗い部屋だった。

 電気はついておらず、カーテンの空いた窓からこぼれる月明かりだけが、部屋の様子を知らせてくれた。

 町田は痛む体を無理やりお越して、部屋の中を見通した。

 自分は今、ベットの上にいる。

 大きなベットで、安っぽいような簡易なものとは趣を異にしているベット。そこにしかれているのは純白のシーツと布団で、心地のよい太陽の匂いがした。

 その太陽の匂いにまじって、どこか消毒されたような、鼻にキンと響く薬品じみた匂いがしているのを町田は感じた。

 個室のようだ。

 自分以外には誰もいない。

 ぼんやりと、左腕に視線を落とす。

 左腕に点滴が刺ささっていた。

 町田は緩慢にベットのかたわらを見上げた。

 そこには点滴があって、その袋の中からポタポタと液体が落ち、管を通って自分の腕へと流れてきていた。

 これはなんだろうと、町田は、変にぼんやりとした意識で思う。

 ここはどこだろう。

 なんで、こんなところにいるんだろう。

 そんなことを10秒、20秒と思い、唐突に気づいた。


「あ、ああ!!」


 彩華に虐められたこと。

 彼女の脚の中で、ひたすらに首を絞めあげられ、何度も何度も意識を刈り取られたこと。

 その記憶が鮮明となって、町田はガクガクと震え始めた。

 恐ろしかった。

 また、彩華に同じことをされるのではないか。

 近くに彼女がいて、僕が意識を取り戻すのを待っているのでは?

 そして、意識が戻ったことが分かった彩華は、またその大蛇のような太股を僕の首に巻き付けてきて、

 キイイッ。

 ドアが開いた。

 町田は、ひいと悲鳴をもらして、部屋に入ってきた少女を凝視した。


「あ、町田先輩。起きたんですね」


 天使のような声。

 その姿に、町田は心底ほっとした。


「ゆ、優子先輩」


 町田が彼女の名前を言う。

 現れたのは優子だった。制服姿で、彼女は天使の笑顔を浮かべてそこにいた。


「あはは、町田先輩。もう、先輩呼びしなくても大丈夫ですよ」

「え?」

「今日からは、私が町田先輩の面倒を見ることになりましたから。もう、あんな目にあわなくても大丈夫なんです」


 彼女は事の顛末を話し始めた。

 彩華の処刑に町田は耐えきったこと。

 町田の体の状態から、念のため東條病院に2週間入院することになったこと。


「東條病院って、もしかして」

「ええ、わたしの家がやっている病院なんです。一応、総合病院ですし、自分でいうのもなんですが、大きな立派な病院なんで、安心してください」

「で、でも、こんな個室、僕、料金払えないよ」

「大丈夫ですよ。町田先輩は私のお願いで入院してもらってるんですから、お金はいりません」


 そんなことできるのだろうかと町田は思う。

 別に病院は優子が経営しているというわけではないのだ。

 治療費や入院費をタダにするなんてことが、娘に過ぎない優子にできるのだろうか。


「大丈夫ですって。わたしの父も兄も、わたしの言うことはなんでも聞いてくれるんです。そういうふうに、しつけてありますから」

「え?」

「あ、違います違います。父と兄はわたしに甘いので、なんでも言うこと聞いてくれるってことですよ」


 慌てたように言う優子。

 それ以上、追求するのも変だったので、町田は素直に優子の言うことを聞くだけだった。


「それと、町田先輩には言っておかなければなりません」


 優子があらたまったように口を開いた。


「な、なにを?」

「実は、彩華ちゃんから、先輩を快楽責めで籠絡するように言われてるんです」


 率直に語られた言葉。

 町田の心臓がドクンと脈打ち、嫌が応にも、あの日のことが思い出されてしまう。

 サッカー部の部室。

 そこで、目の前の少女が行っていたこと。

 町田はゴクンと唾を飲み込んだ。

 さらに町田は優子の言葉に驚愕することになる。


「町田先輩。サッカー部の部室での練習、見てましたよね」

「ど、どうしてそれを・・・・・・」

「あんなに凝視されたら、誰だって気づきますよ。女の子は、視線に敏感ですから」


 ふふっと笑う彼女の唇。

 町田はそこから目がはなせなくなる。

 さらに、ブレザーの制服から盛り上がる大きな、大きな胸。

 夏だから布地は薄いものを使用しており、その曲線と、服の皺から、優子の巨乳が強調されてしまっている。

 その胸に、町田は吸い寄せられるようにして、まんじりと凝視してしまう。


「でも、安心してください」


 優子の声にはっとして胸から視線をはずした。

 見上げると、彼女は天使の笑顔でそこにいた。


「わたし、無理矢理、町田先輩のことを犯すつもりはないんです」


 目の前の天使のような少女が、犯す、という言葉を口にしたことが、町田の分身を固くさせるほどの卑猥さをもっていた。


「今までの練習相手もそうなんですよ。サッカー部の先輩方も、別にわたしが襲って、嫌々付き合ってもらっているわけではないんです。だから、安心してくださいね」


 彼女は天使の笑顔で、


「もっとも、先輩がわたしの練習に付き合ってくれるというなら、話しは別ですけど」


 ドクンと町田の胸が高鳴る。

 練習。

 この胸で、永遠と精液を搾り取られる。

 ディープキスで、めろめろになるまで唇を奪われる。

 そしてお尻をイジられ、あんあんと喘ぎ声をもらされる。

 町田はゴクンと唾を飲み込み、優子の身体に、特にその大きな胸に釘付けになってしまった。


「なんて、冗談ですよ冗談」


 優子が優しげに言った。


「先輩には千鶴先輩がいますもんね。わたしだって、千鶴先輩に嫌われたくないですもん」


 ふふっと彼女が笑って、耳にかかった髪を片手で揃える。

 その仕草に町田は心が動いてしまうのを感じた。


「それでは、これから毎日、練習が終わったら病院にきますから。町田先輩はきちんと休んでくださいね」

「う、うん。なんか悪いね。いろいろと」

「いいえ。もとは、わたしがもっと早く、彩華ちゃんのことを止められていたらよかっただけですから。本当にすみませんでした」


 深々と頭を下げてくれる優子。

 しかし、町田は、前かがみとなって強調された彼女の胸にばかり視線がいってしまうのを止められなかった。


「それでは先輩、また明日です」


 優子が去っていった。

 部屋の中には、優しげな雰囲気が残された。

 彼女といると、なぜか頭がほんわかと幸せな気分になってくる。

 落ち着くというか、頭が麻痺してくるというか。

 町田は思わず、深呼吸して、優子の残り香を嗅いでしまった。

 ますます麻痺してくる頭で、町田は、幸福感を覚えながら、眠りについた。

つづく