入院中はヒマの一言だった。

 日中はなにもすることがない。

 優子が差し入れてくれた小説を読むくらいしかなく、それも集中力が続かずになかなか全部を読むことができなかった。


「町田先輩、体調はどうですか」


 約束どおり、優子は毎日、夜、練習が終わった後に病院にきた。

 とっくに面会時間は終わっているので、こんなことができたのは、ひとえに彼女が病院経営者の娘だったからなのだろう。

 優子と同じ部屋にいると、やはり頭が麻痺したようになり、心が落ち着いた。

 そして、いつの間にか、自分の視線は優子の大きなおっぱいに釘付けになってしまっているのだった。

 歩いただけで揺れるその大きな果実。

 あくびをするときに両手を上にあげて大きく伸びをしたときに、強調された胸の大きさには、思わず口をポカンとあけて凝視してしまった。

 さすがに、ここまで凝視していれば、優子にバレてしまっているのではないか。

 そう思うのだが、優子は気づいた様子を見せずに、優しげに微笑むだけだった。

 彼女の優しさは本物で、町田は、次第に、彩華から受けた体の傷だけではなく、心の傷も癒されていくのを感じていた。

 ほんわかと優しい笑みで、こちらの体調を気遣ってくれる優子に、町田は感謝してもしきれない思いだった。


(優子さんは本当にいい子だな)


 日中はヒマなのだが、毎日、夜には優子がくる。

 部活でどんなことがあったとか、千鶴がいかに尊敬できる先輩かなど、話題は他愛もないことだったが、それを聞いている町田はすごく心が安らいだのだ。

 そして、町田は優子が来るたびに、ダメだと思っていながら、その大きな胸を凝視してしまうのだった。

 見ないよう、見ないよう意識しても、気づいたら視線が彼女の胸元に釘付けになっている。

 そんな暴力的なまでの魅力を、優子の胸はもっていた。

 そんな日々が一日、一週間、10日と続いた。

 町田は次第に悶々とした気持ちを抱えてくるようになった。

 それは、男だったらば誰しも陥る問題だった。


(オ、オナニーがしたい)


 健康な男子が病院に2週間近く入院しているのだ。

 しかも、毎日毎日、可愛らしく、成熟しきった肉体をもつ優子が、病室を訪れてくる。

 これで興奮しないほうがおかしく、町田は常に悶々とした思いを感じていた。

 それと平行して、優子の胸を妄想している時間が多くなっていることに町田は気づいていなかった。

 下手をすると、優子といない時間はほとんど、優子の優しげな笑みや、その大きな胸のことを妄想している。

 サッカー部での様子を見ているのもいけなかった。

 この優しげに微笑む彼女が、上級生の男子を、その体でひいひい言わせていたのだ。

 もしかしたら、今日も、彼女は部室で、同じことをしてから、この病室にきているのかもしれない。

 目の前の唇、手、そして胸。

 そこで永遠と男の精を搾り取ってから、ここにきているのかも。

 そう考えるだけで、町田はギンギンと自分の一物を固くさせてしまった。それに気づかれませんようにと、町田は祈りながら、優子と話しをしたものだった。


(個室だからここでもできるんだろうけど、でもなあ・・・・・)


 それは優子の好意を裏切るようで、町田にはどうしてもできなかった

 結果として、彼は、悶々としながら優子の胸ばかり妄想し続ける毎日を送っていた。

 しかし、それももうすぐ終わる。

 2週間の入院期間。

 それが明日には終わるのだ。

 そうしたら、もう家に帰ろう。

 野球部の夏季合宿は夏休み終わりまで続くけど、怪我でもなんでもしたことにして、家に帰ってしまおう。

 そして、心おきなく、オナニーをしてしまえばいい。

 町田はそう思っていた。

 そんな町田の思惑が実現することはなかった。


 *


「明日、退院の手続きをしたら、わたしの家にきてもらいますので。夜まで病院で待っていてください」


 その日、退院前日の夜も、優子は病室にやってきた。

 いつもの制服姿。

 町田は、その大きな胸をどうしても我慢できずに見てしまいながら、優子の言葉を反芻した。


「家って、優子ちゃんの家ってこと?」

「そうですよ。うちは部屋だけはありますから、町田先輩が泊まるのにぴったりなんです。まだ、野球部の夏季合宿って続いているんですよね。だったら、わたしの家に来てください」

「でも、いいの。両親とか」

「大丈夫ですよ。母はわたしが小さい頃亡くなってしまったんですが、父と兄は、わたしの言うことならたいがい聞いてくれるんです」


 これ、前にも言いましたっけ。

 優子はそう言って、見るだけで心が溶けてしまいそうな笑顔を浮かべた。

 町田はまじまじと優子を見つめて、ぼおっとなってしまう。

 どうにも、優子と二人きりでいると、頭が麻痺したようになるから不思議だ。

 彼女の、おっとりとした雰囲気がそうさせるのだろうか。

 町田はすぐにその答えを知ることになる。


「う、うん。それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「よかったです。準備しておきますね」


 優子が全てを受容するような微笑みを浮かべて言った。

 彼女は、時計を見て、もうこんな時間ですかと呟いてから言った。


「それでは、また明日来ますから。それまで安静にしていてください」


 優子が立ち上がろうと腰をあげた。

 そのとき、優子の足下に彼女が置いたバックがあった。

 つまづき、優子の脚がよろけて、バランスが崩れる。

 あ、と驚いた声をあげた優子。

 彼女はそのまま前のめりに転倒し、町田のベットに倒れ込んでしまった。


「いたた、町田先輩、大丈夫ですか?」

「むううう! むうううう!」


 優子の胸の下から、町田のうめき声が響く。

 町田は、優子に上から覆い被さられていた。

 そして、その大きな胸に、すっぽりと顔面を埋めているのだった。

 その大きな、大きな胸。

 町田の頭よりも大きな乳房が二つ、まるで、町田を捕食するかのごとく、むっちりと町田を拘束している。

 制服ごしにも、ぐんにゃりと変形したその柔らかさが如実に感じ取れる。

 信じられないほどの柔らかで、町田は顔面が溶けてなくなっているかのような感触を得ていた。

 そして、なによりも匂いだ

 その心落ち着く芳香。

 一呼吸するだけで、頭が真っ白に麻痺して、なにも考えられなくなってしまう。

 脳裏にあるのは、目の前の優子の爆乳のことだけ。

 その柔らかさに、町田は身も心も奪われてしまっていた。


「あ、ごめんなさい! 先輩」


 優子がベットに手をついて上体を起こし、町田の顔面を胸からはなす。

 まるで、ベットの上に女の子を押し倒しているかのように、優子は町田を下にして、上から町田を見下ろした。

 優子の顔には、心底、町田のことを案じている表情があった。


「怪我はないですか、町田先輩」


 憂いを帯びた声。

 しかし、町田は彼女の声を認識できていない。

 彼は、トロンとした瞳で、それを見ていた。


(で、でかい!)


 優子の爆乳。

 四つん這いのような格好で、自分に覆い被さってきている優子。

 その胸元は大きくはだけ、そこから膨らむ大きな乳房をより強調する結果となった。

 町田は、もはや理性をなくして、その大きな胸を見つめていた。


(ダメなのにいい! ぜったいダメなのにいいい!)


 さきほどの、頭が麻痺するかのような感触。

 すごく柔らかな、安心する場所。

 それが、今、自分の目の前にある。

 優子が何かを言っている。

 しかし、町田はそれを聞き取れなかった。

 町田の視線には胸だけがある。

 禁欲は限界をむかえており、性欲の限界が近かったことも災いした。

 町田は我慢できなかった。


「ゆ、優子ちゃん!」

「え、きゃ!」


 町田が勢いよく、優子の胸に自分の頭を押しつけた。

 そのまま、ぐりぐりと、優子の胸に自分の顔面をすり付けていく。

 その度に、自分の顔面に伝わってくる優子の体温と匂いが、ますます町田を狂わせてしまった。


(すごいいい!! このおっぱい、すごすぎるうう!! なんで匂い嗅ぐだけで、こんなああ)


 その柔らかさだけではなく、町田が求めているのは優子の匂いだった。

 その匂いを嗅ぐだけで、全身から力が抜けていってしまう。

 頭は溶けてしまったかのように麻痺して、ぼんやりと全身の毛穴が開いてしまったような快感が支配する。

 町田は、薬物中毒者のように、優子の胸を追い求めて、さらに顔面を優子の胸に押しつけていった。


「先輩」


 そんな理性のはずれた猿と化した町田を、優子はそれでも優しげに見つめるだけだった。

 自分の胸に顔面をおしつけてくる上級生の男子。

 その滑稽なほど真剣に胸を求めてくる様子に、優子は気分を害することなく、優しく言った。


「町田先輩も男の子なんですね。やっぱり、大きな胸が好きなんですか」

「すうううはあああ! すううはあああ!」

「ふふっ、深呼吸して、堪能しちゃってますね」


 優子は笑うと、優しく町田の後頭部を抱え込んだ。

 そして、町田の顔面をさらに自分の胸に埋もれさせる。

 ぎゅううううっと押しつけられた爆乳の感触に、町田の頭はスパークしてしまった。

 さきほどから、彼の頭はチリチリと麻痺していた。それをもたらす彼女の匂いを感じようと、町田は深呼吸を繰り返す。

 優子の抱きしめによってさらに深い匂いを嗅ぐことになった町田は、全身の力を抜いて、優子のされるがままにされてしまった。


「そんなに匂い嗅いじゃうと、戻れなくなりますよ、町田先輩」


 優子が言った。


「わたしの匂い、ちょっと特殊みたいなんです。フェロモンが人より多いみたいで、わたしの匂いをもろに嗅いじゃった人は、みんななんにも考えられなくなってしまうみたいなんです」

「すううはあああ! すうはあああ!」

「ふふっ、練習に付き合ってもらっている男の人も、最初、これに夢中になってしまうんです。その後は、全身から力が抜けてしまうんで、練習がしやすいんですよね」


 優子が微笑んでいる。

 まるで、母乳を飲む我が子を見守る聖母のような清廉さだった。

 彼女は町田の快楽の限界が近いと冷静に観察し、言った。


「はい、今日はここまでです」


 大きな胸から、町田の顔面が引き離される。

 現れたのは、幸福絶頂の町田。
 
 その顔面は、湯気までたつように蒸気していた。


「え・・・・・・あ・・・・・・」


 一瞬。

 そして、もう一瞬。

 部屋を沈黙が満たす。

 真っ赤になった町田の瞳に、少しづつ理性が戻り始める。

 それを真正面から見て、優子が天使の笑みを浮かべて言った。


「落ち着きましたか、町田先輩」


 その言葉に、町田はサアっと背筋が凍るのを感じた。

 いったい、自分はなにをしてしまったのか。

 下級生の女の子の胸に。

 あの女子ソフト部の女の子の胸に。

 僕は、顔面をおしつけて、深呼吸を・・・・・。


「あ、ご、ごめんなさい」


 町田は謝るしかなかった。

 それを優子は裏表のない笑顔で返答した。


「いいんですよ。男の子は誰だって、胸が好きなんです。先輩は悪くありませんよ」


 言いながら、今度こそ立ち上がって、優子が言った。


「それじゃあ、また明日きますから。それまで待っていてくださいね」


 そのまま、何事もなかったかのように、立ち去ってしまう。

 後には、罪悪感と、行き場を失った性欲を抱えた町田だけが残された。 

つづく