僕は勉強ばかりしていた。
体も小柄だったし運動も得意ではなかった。
だから、人よりも時間をかけて勉強をしているだけだった。そのかいもあって、クラスではいつも一番だったし、全国模試でも上位に食い込むことができた。
ほかにも趣味といったら読書くらいのものだ。
とにかく運動というものに苦手意識があった。どんなスポーツも自分にはまったくなじまなかった。だから僕はいつも一人で隠れるようにして本を読んでいた。教科書や図書室の小説を読んでは一人閉じこもるだけの毎日。
そんな根暗な僕だったから、当然、体だって弱いままだった。
身長だって高くないし、力だって弱い。
玖留美ちゃんと比べるまでもなく、僕の体力はクラスの女子の誰よりも劣っていた。
そんな自分では玖留美ちゃんに勝てないことなんて自分がよく分かっていた。それなのに、僕は玖留美ちゃんに屈服することができなかった。
どうして玖留美ちゃんに負けを認めないのか。
自分でもよく分からなかった。
認めてしまえばいいのだ。
自分が彼女よりも劣った存在であることを認めて、玖留美ちゃんの軍門に下ってしまえばいい。
そうすれば、時々、玖留美ちゃんに食べられて虐められることはあっても、彼女に目をつけられて、毎日のように体を痛めつけられることはない。
それでもどうしても僕は玖留美ちゃんに負けを認めることはできなかった。
それがどうしてなのか全く分からなかったが、それでもぜったいに、僕の口から玖留美ちゃんに負けを認める言葉が出てくることはなかった。
「明日も玖留美ちゃんに虐められるんだろうな」
夜。
僕は自室の机にむかって勉強している中でそんなことを思った。
それと共によみがえってくるのは玖留美ちゃんの姿だ。
あの童顔っぽい顔立ちとは不釣り合いな大きな体。
体操着姿から自己主張してくる大きな胸。
それに、江藤くんのことを捕食していたムチムチの長い脚。
明日も玖留美ちゃんは男子たちを丸飲みにして食べてしまうのだろう。そして、明日も僕のことを虐めてくるのだ。
彼女のニンマリとした楽しそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。
そればかりを考えてしまって、僕は目の前の本を読むことすらできなくなってしまった。
*
勉強ばかりしている僕は教室でいつも一人だった。
そんな僕にも一人だけ友人と呼べる男子がいた。
運動するよりも本を読んだりする方が好きな大谷くん。
普段は読んでいる本の話しをしているその男の子は、いつも女子に呼び出しをくらって教室の外に連れ出されていた。
それは今日も同じだった。
ついこの間出たばかりのライトノベルの話題で話していると、大谷くんはいつものように呼び出されたのだった。
「大谷くん、ちょっといいかな」
その言葉にハっとして見上げると、そこにはクラスの委員長が立っていた。
大谷君は、そんな彼女を一瞬だけ絶望した顔で見上げ、すぐになんの感情もない人形のような表情になって立ち上がった。
「ちょっと行ってくるよ」
「う、うん」
僕はそれ以上、彼に言葉をかけることはできなかった。
委員長が上品そうに笑って、そっと大谷くんの背中に腕をまわす。
優しげな手つき。
若干、委員長の顔は赤く上気している。すでに興奮しているということが僕にでも分かるくらいだった。あんな普段は優しい女の子も、大谷君で遊んで興奮するのだ。
教室の外に連れ出されて何をされているのか分からないが、きっとひどいことだろう。
一度呼び出されたら、休み時間が終わるまで帰ってこない。下手をすると次の授業中も帰ってこないことがある。そんな時は女の子と大谷君の机だけが空席となる。しかし、そのことには誰も触れないのだ。女子たちは「おさかんね~」と笑い、男子たちはビクついて話題にもあげずに授業は進む。
当然、担任教師から注意がされることもなかった。
普通だったら、前の授業まで教室にいた生徒がいなくなっていたら事情を聞くだろう。具合が悪くなったのかどうか確認し、さぼっているのなら授業を一時中断しても生徒を探しにいくのが普通だ。
しかし、僕らの担任教師がそんなことできるはずがなかった。
担任教師ですら玖留美ちゃんたちの餌食になっていたからだ。
*
「やめてくださいいいッ。お願いですううッ」
成人男性の泣き叫ぶ悲鳴。
大人の男性がこんなにも情けない声で命乞いをしている姿はとてもみっともなかった。
僕ら男子は、そんな担任教師の姿に落胆して、この教室では男が救われる可能性がまったくないことを教え込まれるのだ。
道徳の授業中。
そこで、玖留美ちゃんたちが、担任教師の男を虐めていた。
「ほ~ら、足裏に食べられちゃってますね~」
ふざけたように言って、玖留美ちゃんが担任教師の顔を足裏に挟んで潰していた。
玖留美ちゃんの右脚と左脚の足裏が、それぞれ担任教師の側頭部にあてがわれて、潰す。
玖留美ちゃんは椅子に座りながらも、まるであぐらをかくように開脚して、足裏で担任教師の顔を左右から挟んでしまっているのだった。
普通なら力なんてそんなにこめられない格好。足裏で目的物をとらえることも難しいはずだった。
しかし、玖留美ちゃんの足裏は大鷲が獲物を脚でがっちりとつかむかのように、担任教師の顔をつかんではなさい。
彼女の大きな足裏は担任教師の顔を覆い隠すようだった。
靴下も脱いで生足の状態。
彼女の脚の指が担任教師の顔に食い込んでいる様子が僕のところからも見えた。
「きゃははっ、まじ受けるんですけど」
「先生、教え子に虐められて、今どんな気分ですか」
「情けないな~。ほら、がんばってよ先生」
そしてその場で担任教師を虐めているのは玖留美ちゃんだけではなかった。
合計5人の女子が円を描くようにして椅子に座っている。その間に担任教師が正座で座っており、さきほどから玖留美ちゃんに虐められているのだった。
ほかの女子たちも体格は圧倒的だった。
少なくとも担任教師が子供に見えるほどには彼女たちの身長は高く、発達した体をしている。むちむちの太ももや鍛え上げられたふくらはぎが、ミニスカートやホットパンツから伸びている。そんな彼女たちの間に正座させられて、担任教師は生きた心地がしないだろう。
「ゆるしてええ・・・・・ゆるしてくださいいい」
担任教師がぽろぽろと涙を流して懇願し始めた。
顔を情けなく歪ませて教え子である少女たちに命乞いを始めてしまう。
それほどまでに玖留美ちゃんの足裏は強烈なのだろう。
さきほどから、ミシミシという頭蓋骨が軋む音が教室中に響いている。少女の足裏に潰される。その恐怖が担任教師のかすかに残ったプライドを木っ端みじんにしてしまったのだ。
「よし、じゃあ許してやろう」
玖留美ちゃんが担任教師の心が折れたことを確認すると、担任教師の顔を解放してやった。
ひさしぶりに頭蓋骨が軋む恐怖から解放された男が教室の床に座り込んで悶えている。そんな担任教師の口元にむかって、玖留美ちゃんが脚を伸ばした。
「舐めろ」
ニンマリとして言う。
嗜虐的な瞳で担任教師を見下ろし命令する。
担任教師は「ひっぐ」と呻き声をもらして玖留美ちゃんを見上げた。なんとかこの場から逃れられないかと、自分のことを囲っているほかの少女たちをすがるように見上げた。
「ほら、はやくしてよ先生」
「玖留美ちゃんの次はうちらの番だからね」
「早く舐めろよ。マゾ豚」
しかし、ほかの少女たちもどこまでも残酷だった。
彼女たちはその生足で地べたに正座している男を踏み始めた。
4人の少女たちの8本の脚が、正座している担任教師を踏む。男の頭の上、肩の上、胴体、太ももの上、ふくらはぎ、足裏。
担任教師の体すべてに少女たちの育ちきった脚が殺到した。男の体のすべてを覆い隠してしまうかのように少女たちの脚が担任教師を磔にする。
まだ力はこめられていない。しかし、ひとたび力がこもれば、担任教師などひとひねりしてしまう力がその少女たちの脚一本一本には備わっているのだった。
「ひ、ひい」
救いがないことをさとった担任教師は涙を流しながら玖留美ちゃんの足先をくわえこんだ。そのまま慣れた様子でぺろぺろと舐めていく。
成人した男性が、まだ年端もいかない教え子の足を舐めさせられている。強制的に暴力で支配されて。プライドも何もあったものではないその光景。
この教室の雄の中で一番強いはずの担任教師が、手も足も出ずに女子に屈服するのを見れば、ほかの男子たちは希望も何もないことを悟るのだった。
彼女たちに目をつけられないようにすることだけを目標にして生きていく。同級生のクラスメイト。本来ならば対等な彼女たちに忠誠を誓って、けっして反抗せずに従順な玩具として生きていくしかないのだ。
「ふふっ、これくらいで勘弁してあげる」
玖留美ちゃんがニンマリ笑って足を担任教師から離した。そのまま、そのムッチリとした脚を組んでから、膝まづいている担任教師にむかって言った。
「でも終わりじゃないから」
玖留美ちゃんがちらっと周囲の女子に目配せをした。それをきっかけに、待ってましたとばかりにほかの女子が口を開いた。
「ほら、次はこっちよ。はやく舐めろ」
「順番に舐めさせるからね先生。覚悟してください」
「少しでも下手だったらお仕置きだからね。全員満足させることができるまで、ぐるぐるまわすから」
サディストの女子たちが教師を見下ろしていた。
脱出することもできない監獄の中で少女たちに見下ろされ、担任教師は恐怖でひきつった表情を浮かべるしかないようだった。
「ふふっ、あとはみんなで楽しんでよ」
玖留美ちゃんが言った。
早くも担任教師に脚を舐めさせている女子が玖留美ちゃんのほうを向いて、
「あれ、玖留美ちゃん、もう終わりでいいの?」
「うん。そいつ食べて遊ぶのも飽きちゃったしね」
「あー、まあ、こいつ最初に調教したの玖留美ちゃんだもんね。もうすっかり従順になっちゃってるよね」
周囲の女子たちが賛同するようにいうなづいた。
「でも、さんざん虐めてやっても舐めるのはいつまでたってもうまくならないよね」
「言えてる言えてる。トイレ連れ込んだときも、こいつ下手くそでさー。ぜんぜんイけなかったよ」
「あー、大人の男なのにねー。やっぱ、今まで経験したこともないんじゃない? 大谷のほうが100倍うまいよ」
「ちょっとちょっと、大谷と比べたらかわいそうだって。こんな役立たずがアレみたいに舐められるわけないじゃない」
「そういえば、大谷の姿なくない?」
「ああ、委員長だよ。呼び出して舐めさせてる」
「おさかんだよね~。あの子、まじめそうなのにエゲつないからなー」
「大谷のやつ、よく壊れないよね」
少女たちが談笑をしている。
しかし、その少女たちの壁の中では、担任教師がぺろぺろと少女たちの脚を舐めているのだった。順番にまわされている。時計まわりで永遠に終わらないメリーゴーランド。教え子たちの許しがなければ、担任教師はそのまま、少女たちの脚を舐め続けなければならない運命だった。
「小太郎」
そんな異常な光景に目を奪われていると、自分の名前が呼ばれた。
ビクンと震えた僕は、担任教師を虐めている女子たちの近くで座る玖留美ちゃんを見上げるしかない。
「こっち来なさい」
「は、はい」
命令どおりに僕は玖留美ちゃんに近づく。
椅子に座っているのに、彼女は立っている僕よりも大きく見えた。大きなおっぱいや健康的な太ももが、圧倒的な存在感で僕の目の前に迫っていた。
「力比べするわよ」
「う、うん」
「今日は耐久テスト。さっきこいつでやってたのに耐えきれるかどうかやりましょう」
そう言って玖留美ちゃんが担任教師を見下ろす。
傍らでは、今も一心不乱に教え子たちの脚をぺろぺろ舐めている担任教師がいた。教えられた動きで舌を動かし、上目遣いで教え子たちを見上げている男。最初の頃の爽やかなスポーツマンといった様子はどこにもなくなって、そこにいるのは一回り以上年下の教え子たちに奴隷に墜とされたマゾ男がいるだけだった。
「あー、玖留美ちゃんってば、このために調教はやく切り上げたんだー」
担任教師に脚を舐めさせている少女がこちらを向いて言った。
「ほんっと、玖留美ちゃんってば、そいつのことお気に入りだよねー」
「毎日だもんね。よく飽きないね」
「そいつ虐めても悲鳴あげないんだもん。泣きじゃくって命乞いしてくるのがそそるのにさ。それなのに毎日毎日、よくやるよねー」
「やっぱりお気に入りだからだよ。こいつのこと見る目が違うもん。ときどき、女のわたしから見てもエロい目で見てるもんね」
「それを言うならこいつもじゃん。玖留美ちゃんが男子食べて遊んでいるとき、こいつ、いつも食い入るように凝視してるよねー」
「ほかの男子は怖くて目をそらしてるのに、露骨だよねー。今もこれから虐められるっていうのに、どこか期待しちゃってるもん」
「おさかん~」
そんな声が姦しく聞こえてくる。
玖留美ちゃんが思わずキっと彼女たちをにらみつけた。
「違うって。なに言ってるのよ。わたしはこいつを屈服させて今日こそめちゃくちゃにしてやろうって思ってるだけだもん。変な言いがかりやめてよね」
顔を真っ赤にして言う玖留美ちゃんだった。
彼女はそのいらだちを僕にぶつけることにしたらしく、目力だけで人を殺せるような視線で僕のことを睨みつけてきた。
「決めた。さっきのよりひどくする。久しぶりに、チョークスリーパーで吊してやる」
玖留美ちゃんが勢いよく立ち上がる。
強調される身長差。
体の大きな生物と小さな生物とでは最初から格が違うのだ。
僕は獲物で、彼女は捕食者。強い瞳が怯える僕のことを見下ろす。「ひい」と悲鳴を漏らした瞬間にすべてが終わっていた。
あっという間に僕の背後にまわった玖留美ちゃんが、そのまま太い腕を僕の首に巻き付けてきた。
「ほ~ら、宙づり~」
そのまま、持ち上げられる。
ジェットコースターにのってるときみたいな浮遊感がしたかと思うと、あっという間に僕の体は宙づりにされてしまった。
スリーパーホールド。
玖留美ちゃんの逞しい腕がぎっちりと僕の喉仏を潰して、首のまわりに密着している。脱出の見込みなんて1ミリもなかった。お腹をすかした大蛇のように、玖留美ちゃんのプニプニした腕が僕の首に巻き付いて丸飲みにしていた。
「ぐっげえええええッ」
僕の口から胴体を潰されたカエルみたいな声が漏れる。
頸動脈はしめられていない。気道だけがねらい打ちにされてぐにゅうっと潰されていた。
喉の通路が通行止めになっているのが分かる。
喉奥に伝わる玖留美ちゃんの腕の異物感から、さきほどから胃の中身が逆流しそうになっている。
しかし、それすらも玖留美ちゃんの大蛇のような腕にせきとめられてしまっていた。僕は玖留美ちゃんの腕に丸飲みにされ、食べられてしまっているのだ。
「あははっ、食べられちゃったね~。かわいそうだね~」
玖留美ちゃんが背後から僕の耳元で囁く。
「この腕に食べられちゃったらもう終わりだよ。この腕は~、ゆっくりと獲物を食べていくんだ。ぜったいに気絶させない。ずっと意識を保たせたままで、絞め続ける。泣いても喚いても体を暴れさせても許さない。敗北宣言して命乞いするまで、ずっと絞め続けるからね」
こんなふうに。
ぎゅうううううッ!
さらに玖留美ちゃんの腕に力がこもった。僕の首が完全に玖留美ちゃんの腕の中にすっぽりはまってすり潰されていく。僕は「グッゲエエエッ!」と悲鳴をもらし、バタバタと体を暴れさせた。命の危険。それが分かった。だから僕は全身を全力でバタつかせてなんとかこの拘束から逃れようと必死の抵抗を試みる。
「あはっ、よわすぎ」
そんな命をかけた抵抗を玖留美ちゃんは余裕そうに封殺していた。
まったくビクともしていない。暴れる僕の首を抱き抱えて絞め潰しながら、仁王立ちで立っているだけ。僕の抵抗は、まったく玖留美ちゃんの相手になっていなかった。
「あんたの力じゃ無駄だって」
玖留美ちゃんがねっとりと囁いた。
「あんたは足も地面につかないで、ぶらぶら宙づりにされて、わたしの腕に首を食べられちゃって、ゆっくり消化されていくんだよ。じっくり、蛇が丸飲みにした獲物を消化していくみたいに、時間をかけて絞める」
「グッグエエエエッ!」
「あはっ。道徳の時間が終わるまであと30分。それまでずっとこのまま。敗北宣言しない限り、丸飲みしたまま絞め続けるからね。わかった?」
僕は悲鳴を返すしかできなかった。
視界が暗闇に墜ちていく。酸素が足りない。丸飲みにされて息が吸えないから当然だ。もう少しで気絶する。その瞬間に首に巻き付いた大蛇が少しだけ力をゆるめる。か細い空気がほんのちょっと肺を満たす。「かひゅうーーーかひゅううーーー」という呼吸が少しだけ許され、次の瞬間には再び玖留美ちゃんの腕が僕の首に巻き付き、潰した。これが永遠に繰り返される。
「うわー、玖留美ちゃんのチョークスリーパーはいつみてもエゲつないわー」
玖留美ちゃんと僕のことを見上げて、担任教師を虐めている女子たちが感想をもらした。
「足地面につかないで宙づりにされて、永遠に絞め続けられるってどんな気分なんだろうねー」
「地獄じゃない? これに耐えられたのって、こいつしかいないもんね」
「愛だね愛。それしかないよ」
好き勝手に会話をしている。
そんな女子たちの声が今の玖留美ちゃんには届かないみたいで、彼女の注意がすべて、僕に向けられているのが分かる。
今の僕からは玖留美ちゃんの顔を見ることはできなかったが、彼女が今、ニンマリとした嗜虐的な笑顔を浮かべていることは間違いないだろう。
「ねえ、うちらも先生でやろっか」
「あ、そうだね。絞め落とし勝負しよう」
「気絶させるまでの時間競うやつね。いいね。やろっか」
どうやら玖留美ちゃんの行為に触発されたようだった。首を食べられている僕の目の前で少女たちが残酷に話し始めた。
「でも、先生ったら墜ち癖ついてるからなー。勝負にならないんじゃない? たぶん、みんな1秒で墜とせると思うよ」
「そしたら勝負はドローだからもう一回だよね」
「あ、それ面白そう。勝負がつくまでやるのね」
「先生は解放されたかったら1秒より長く意識を保つこと。そうすれば勝負はつくから解放されるよ」
「よーし、ぜったい1秒で落とす。ぶくぶく口から泡ふかせて絞め墜とす」
「わたしハンデつけてあげるよ。三角でやるね」
「それ、ハンデになってないじゃ~ん」
きゃははっと笑う少女たち。
そんな談笑を前にして担任教師が絶望の顔を浮かべている。男からしてみれば地獄だろう。今から自分がどうなってしまうのかを教え子たちに教えられているのだ。早くも命乞いを始めているが、少女たちはそれを無視して、担任教師で行う絞め墜とし勝負のルールを話し合っている。
「他人のこと気にする余裕があるなんて生意気ね」
そんな僕にむかって玖留美ちゃんが言った。
「今日は徹底的にやるから。命乞いするなら今のうちよ。言葉なんてすぐ喋れなくしてやるからね」
笑っている。
僕から見えないけど玖留美ちゃんが壮絶に笑っているのが分かる。
「はやく敗北宣言して、わたしの下僕になりなさい」
*
その後、玖留美ちゃんは宣言どおりにした。
道徳の時間、その逞しい腕でずっと僕の首を丸飲みにし続けた玖留美ちゃん。けっして解放せず、ぜったいに気絶させずに、彼女は僕の首を絞めあげ続けた。
それでも、僕はぜったいに敗北宣言をしなかった。死んだほうがマシな苦しみに悶えながらも、僕は必死に耐えた。
「ほんっと、小太郎は強情ね」
玖留美ちゃんが言った。
僕は地面に倒れ込んで虫の息だった。
それでも僕は敗北宣言をしなかった。
「担任のやつはもうぼろ雑巾みたいになって、最初っから命乞いしっぱなしなのに。あんたはよく耐えられるわね」
玖留美ちゃんの声がどこか遠くから聞こえる。
彼女の姿もぼんやりとして見えなかった。
「うわっ、首にすごいアザついてる。これはなかなか消えないだろうな~」
そう言って彼女の手が僕の頭を撫でた気がした。
そんなことはあり得なかったので、おそらくこれは夢の中のことなのだろう。
僕の願望かもしれなかった。
僕は玖留美ちゃんに頭を撫でられる感触に陶酔しながら、名残おしくも意識を手放した。
つづく