目を覚ますとそこは保健室だった。
ベットの上で横たわっている。
体がすごく重かった。
保健室はシーンと静まりかえっていて誰もいないことを教えてくれた。
どうやら優しい誰かが僕のことをここまで運んでくれたらしい。
女子たちがそんなことをしてくれるはずがないし、心あたりもなかったが、僕はその人に感謝をして起きあがった。
時計を見てみると、すでに放課後になっていた。
4時間目の道徳の時間から、かれこれ数時間が経過している。それまで、僕はずっと意識を失ったままだったのだ。そのことを思うと、玖留美ちゃんにされたことの衝撃が体によみがえってきた。
体力がすごく消耗していた。
とくに首まわりがさきほどからすごく重かった。僕はベットから出て、鏡で自分の首を確認してみた。
「うわ、ひどいな」
一人ごとがでるほど鏡に映った自分の姿はひどい有様だった。
まるで大きくて黒い大蛇が、自分の首まわりに巻き付いているようだった。内出血のアザ。それが僕の首まわりに深く刻印されていた。
玖留美ちゃんの腕の痕だ。
それが刻印されている。そのことを自覚すると、僕は今もなお、玖留美ちゃんに巻き付かれて食べられているような錯覚に陥ってしまった。どういうわけか、心臓がドクンドクンと脈打っている。
「あら、起きたのね」
大人の女性の声がして振り向くと、保健室の先生が部屋に入ってくるところだった。
白衣をきた女性の先生だ。僕らのクラスは生傷が耐えなかったので、この人にはいつも大変お世話になっている。
「クラスの子が給食のパンと牛乳を持ってきてくれたから、それを受け取って帰りなさい」
先生が冷蔵庫を指さして言う。
中をあけると、そこには先生の言葉どおりパンと牛乳があった。
「あ、ありがとうございます。でも、誰が持ってきてくれたんですか?」
「名前は忘れちゃったな。誰だっけ。あの大きな女の子・・・・・・って、この学校の女子はみんな大きいから特定しようがないわね」
「じょ、女子が?」
信じられなかった。
食欲旺盛な女の子たちが僕の分の給食を残しておくとは思えなかったし、それをわざわざ保健室に持ってきてくれるなんて信じられなかった。
「そうよ。これ食べて早く大きくなってもらいたいとか言ってたわよ。ふふっ、まあ、素直じゃないお年頃ってところかしら」
そう言って笑う先生だった。
僕はとにかくパンと牛乳を受け取って、先生にお礼を言って保健室を出た。そのまま帰宅することにした。
*
帰宅途中も首まわりが重かった。
周囲から変に見られるのも嫌だったので、タオルをマフラーみたいにつけてアザを隠した。これから先、こんなふうにして首のアザをタオルで隠して生活することになるのだろう。
どういうわけか、そのアザをほかの人に見られるのは嫌だった。それはなぜか玖留美ちゃんに対する裏切りみたいに思えたのだ。
なんでそんなことを考えたのかは分からない。
というか、自分がなぜ、玖留美ちゃんに敗北宣言をしないのかも分からなかった。
こんな目に毎日あわせられるくらいなら、いっそのこと早く敗北宣言をして、玖留美ちゃんの下僕になってしまえばいいのだ。
それなのに、僕は強情にもそれを拒んで、毎日のように彼女に食べられてしまっている。
「なんなんだろう、いったい」
自分でも自分の気持ちが分からず、僕は何度目になるか分からないため息をついた。
こんな日にはあそこに寄っていくに限る。
僕のただ一つの休息の場所。
ちょうど給食のパンもあることだし、わざわざコンビニでパンを買っていく必要もないのだ。このもやもやした気持ちを少しでも紛らわせるためにも、ちょっと寄っていこう。そう思った僕は、若干ではあるが軽くなった足取りで川のほうへ向かった。
*
そこは誰にも打ち明けていない秘密の場所だった。
少しだけ町外れにある小さな川だ。
川といっても流れがあるようなところではなく、どこにも繋がっていないような場所だった。水深だって浅く、こどもの僕が入っても問題ないくらいの小さな川だった。
本来ならこんなところが安息の地になるわけがない。現に、僕の目的も川を見ることではなかった。そこにいる存在に心を許しているだけだ。
「お、今日もいるな」
みすぼらしい川のさらに隅にある水たまり。
流れらしい流れもない川の本流からさらにはずれたところに、水がたまっているだけの池みたいになっているところがあった。そこでお目当ての存在が今日も泳いでいるのが見えた。
「おーい、きたよー」
言葉なんて伝わるはずがないのに、僕はいつも声をかけていた。
それに対して気のせいとは思うけど、まるでこちらの声かけに答えるようにそいつも泳ぎを早くしたように感じられた。
川の中には小さな鯉がいた。
停滞した水の中に取り残されるような形で、一匹だけ鯉が泳いでいるのだ。それは小さな鯉だった。鑑賞用の派手な色のやつではなく、川の色に同化しているようなみすぼらしい鈍い色をした魚。
いつも一人ぼっちでその鯉はそこにいた。
それはいつ来ても変わらない光景だった。
その鯉はいつも一匹だけなのだ。
もしかしたら、本当にその水たまりみたいになっているところに取り残されて、本流に戻れないのかもしれない。そう思うほどに、その鯉は常に同じ場所で泳いでいた。
そのみすぼらしい一人ぼっちの境遇にシンパシーを感じてしまい、僕はヒマがあったらここに寄っていた。
その鯉にむかって話しかけると、なぜか心が安らいだ。つらい毎日も乗り切れる気がした。だから僕は足繁く、誰もよりつかないようなこの場所に通っているのだった。
「今日はパンがあるんだよ。ちょっと待ってね」
カバンからパンが入った袋を取り出す。
パンを千切ってやってから、それを川の中に落とした。するとすぐに鯉がパクついた。警戒心なんてみじんもなかった。やっぱり、お腹をすかしていたようだ。僕は「よしよし」なんて言いながら、給食のパンを千切っては川に落とし、その鯉に食べさせてやっていった。
「ほんとうに腹すかせてるんだな。いつもなに食べてるんだろう」
ひょっとすると僕が与えるパンしか食べるものがないかもしれない。
このみすぼらしい川ではエサになるものも少ないだろう。
そもそも、僕は鯉が何を食べるのかすら知らなかった。たまたまこの鯉と出会った時にもっていたのが給食で残したパンだったので、それをあげてみたのだ。そうすると、鯉は最初戸惑ったようにパンの切れ端のそばで泳ぎまわった後、おずおずとそれを口にした。それから少しづつ、鯉はパンを躊躇なく食べるようになっていっていた。
給食でパンがでるときには少し残して、ここで残りをやっていた。家のご飯がパンのときも同じだった。
そのせいか、最初に会ったときよりも、鯉は少しだけ大きくなってくれたように見えた。
それがなんだかうれしかった。
その鯉との心のつながりが強くなるのを感じた。
僕らは一人ぼっち同士でつながっているのだ。そんな気持ちになると僕は自分だけが一人じゃないと思えて、連帯感みたいのものを感じることができた。それは他の人間に感じたことがない気持ちだった。
「僕の分も食べていいからね」
もっていたパンをひたすら千切って川の中に落としていった。
給食を抜いていたけど空腹はなかった。元々小食なのだ。そのせいで体がちっとも大きくならないのかもしれない。
でも、今はそれも好都合だった。
食いしん坊だったらこの鯉にパンを分けてやることもできなかっただろう。両親は厳しくお小遣いも1ヶ月に500円しかもらえていなかった。だからパンを買って与えようと思ったら1ヶ月に1度やれるかやれなかったかだろう。
きっと僕が玖留美ちゃんだったら、空腹に耐えかねてパンをぜんぶ食べてしまっていたと思う。
彼女だったらこの鯉にパンを分け与えることなんてできなかっただろうなと、そんなことを思った。
あの女の子は本当によくご飯を食べる。それは見ているだけでお腹がいっぱいになるほどだ。僕は普段の給食で豪快にご飯を食べていく彼女の姿を思い出して、いつの間にか笑っていた。
「もうなくなっちゃった」
パンはあっという間になくなってしまった。
僕はそのことを説明しようと鯉にむかって手の平を見せた。
もう残っていないことを示すようにすると、鯉が水面近くまであがってきて、そのままどこかに泳いでいった。それがまるで僕にお別れのあいさつをしているみたいに感じられて、僕はやはり、その鯉にシンパシーを感じることになった。
*
鯉にパンをあげる時間だけがリラックスできる時だった。
心安らぐ瞬間といったらその時間くらいしかなかったのだ。
学校では男子は女子の玩具でしかなかったし、家の中では厳しい両親のもとで勉強勉強の毎日だった。
両親は二人とも教師で、家では寝る時間以外ほとんど勉強をしていた。さぼると容赦なく平手がとんだ。古い時代の教え方しか知らなかったのだと思う。僕は家の中でもビクビクしながら過ごしていた。
気の休まる時間はなかった。
だから僕は川で鯉にパンをやるのだけを生き甲斐にして生活をしているのだった。
*
次の日も学校では玖留美ちゃんが男子を食べていた。
「ほ~ら、おっぱいに食べられちゃったね~」
いつものように玖留美ちゃんがバカにしたようにして言った。
教室の中。彼女はいつものとおりに半袖半ズボンの体操着を着用していた。シャツの裾を半ズボンにいれることによって強調されてしまっている大きな胸。玖留美ちゃんは、その大きなおっぱいで男子の顔面を丸飲みにして、捕食しているのだった。
「いっつもチラ見してるもんね。ふふっ、うれしいでしょ」
うれしいはずがなかった。
男子の体はさきほどからビクンビクンと痙攣していた。大きなおっぱいの谷間の中に頭部が埋め込まれてしまっている。それは、おっぱいに食べられて頭部を潰された首なし死体のようにしか見えなかった。
その大きなおっぱい。
体操着を突き破ろうとするような肉の果実によって、男子の矮小な頭部が丸飲みされてしまっていた。
「むっむううううッ」
男子が苦しみ悶えていた。
その男の子はクラスのスポーツ万能の男子だった。サッカー部に所属していて、女子たちの体が大きくなるまではアイドル的な存在だった子だ。
しかし、もはやその面影はなかった。
今ではほかの男子と同じように女子の玩具になるだけ。今も体を全力で暴れさせているのに、玖留美ちゃんのおっぱいに手も足もでずに完敗して、そのままずるずると谷間の深いところまで引きずりこまれて食べられていた。
「ほら、息継ぎしろ」
玖留美ちゃんが言った。
彼女は抱き抱えていた男子の頭部を掴むと、久しぶりにその谷間の中から解放してやった。
両手でがっしりと左右から男子の頭部をつかんだままの玖留美ちゃん。
彼女はニンマリと笑いながら、自身の爆乳の目の前で男子の顔面を制止させ、見せつけている。男子の目の前には玖留美ちゃんの大きなおっぱいが威圧的に迫っていた。それを見た男子は「ひい」と悲鳴をもらした。
「きちんと見なさい。これが今からおまえを食べちゃうおっぱいだよ」
玖留美ちゃんが男子の鼻先すれすれまでおっぱいを前につきだした。
それだけで、男子はさらに悲鳴をあげた。これまでさんざんにその爆乳に丸飲みにされ、食べられてきたので、今ではその男の子は女子のおっぱいに対して恐怖心しかないようだった。
「ふふっ、いただきま~す」
「むうううううッ!」
突如として玖留美ちゃんが男子の頭部をかかえ込んで、おっぱいの谷間の中にしまいこんだ。
スリーパーホールドをかけるように、彼女の両腕が男子の後頭部を抱き抱え、ぎゅううっと押し込める。結果として、男子の顔面は玖留美ちゃんの爆乳にすり付けられ、さらに丸飲みされていき、さきほどと同じようにすっぽりとその谷間の中で食べられてしまった。
「はい、丸飲み完了。どんどん捕食しちゃうね~」
玖留美ちゃんがさらに腕に力をこめた。
ビクンと痙攣する男子の体。まるで玖留美ちゃんのおっぱいに吸収されていっているのではないかと思うほどに、男子の体が玖留美ちゃんのおっぱいに埋まっていく。
さきほどから、バギバギという音が響き始めている。
男子の顔面が潰される音だった。男子の頭部が食べられている音だ。それが大きな谷間の中からくぐもって聞こえてきた。
それはまるで、肉食獣が草食獣を骨ごと食べてしまっているような音だった。
鋭い牙で獲物にくらいつき、そのまま肉を引きちぎって、骨まで砕いてしまう。
生きたまま自分の骨が砕かれる音を聞きながら食べられていく草食動物。肉食動物はなおも貪欲に獲物の全存在を平らげようと、バギベギッと骨を砕き続けていく。
それを行っているのは、女の子のおっぱいなのだった。
本来なら柔らかそうな生命の源。そんな母性の象徴のはずのおっぱいが、今では男子の顔面を食べて命を刈り取るための凶器に変貌していた。
「ちょっと、小太郎、凝視しすぎじゃない?」
その言葉にハっとした。
僕の意識は男子を食べていくおっぱいに奪われてしまっていて、玖留美ちゃんがいつの間にか僕に近づいてくるのにも気づかなかった。
「さっきから見すぎよ。そんなにコレが気に入ったの?」
そう言うと、間近に迫った玖留美ちゃんがさらに男子の顔面をおっぱいで噛み砕いて捕食した。
バギベギイイッという盛大な音がして男子の顔面がますます食べられていく。
「ったく、食い入るように見ちゃってさ。せっかく、昨日やりすぎたから今日は遠慮しておこうと思ってたのに、そんな目で見られたら今日もやりたくなっちゃうじゃない」
まあさすがに今日は我慢するけどさ。
そんな言葉をおっぱいで男子を食べながら続ける玖留美ちゃんだった。僕は彼女が僕なんかに遠慮しているのが信じられなくて、怪訝そうな表情を浮かべて玖留美ちゃんのことを見上げるしかなかった。
「だから、昨日絞めすぎちゃったから、今日はお休みにしてあげるって言ってるの」
「え?」
「首まわり、すごいアザだらけじゃない。タオルで隠してるけど隠しきれてないからね、それ」
僕は思わず首もとをさわった。
首まわりにはタオルを巻いているのに、どうやらアザを完全に隠しきれていなかったらしい。玖留美ちゃんのニヤニヤした笑みが容赦なく僕の首もとに注ぎ込まれている。
「見ていて痛々しいのよ。わたしも鬼じゃないしね。今日はお休みにしてあげる」
「で、でも」
「その代わり、あんたには特等席で見ていてもらうから」
玖留美ちゃんがニンマリと笑った。
そして、僕の目の前で見せつけるように、男子の頭部をおっぱいでさらに潰した。
バギベギバギイイッ!
そんな音がおっぱいの中から聞こえてきた。玖留美ちゃんの胸が男子の顔面を噛み砕く音だった。男子の頭部はその後頭部が見えなくなるほど玖留美ちゃんの谷間の中で食べられてしまっている。そんな様子が目の前で展開されていた。
身長差から地面に足がついていない男子。
おっぱいに食べられ、宙づりにされてしまった男子が、なおも顔面をおっぱいに噛み砕かれて、捕食されていってしまう。
男子の体が暴れながらも顔面をおっぱいに埋もれさせてしまっている様子は、生きたまま踊り食いをされている哀れな獲物にしか見えなかった。
「あ、墜ちたわね」
玖留美ちゃんが言った。
他人事のような無関心さだった。
彼女の言葉のとおり、あれだけ暴れ回っていた男子の体が唐突に力を失っていた。
ダランとした弛緩した全身。
おっぱいに顔面を食べられているのはそのままだが、両腕はダランと下がり、足もピンと伸びたまま、重力に逆らうことなく脱力している。
絞首刑を執行された死刑囚のようだった。
ぶらぶらとおっぱいに食べられたまま宙づりにされている男子は、ついに命を落とし、あとはその死体を骨の随まで食べられてしまう運命だった。
「なさけないわね~。こんなあっけなく墜ちるなんて」
玖留美ちゃんが男子の顔面をさらにおっぱいに押しつけながら言った。
「ほら、見なさいよ小太郎。クラスメイトの男子がおっぱいに食べられて気絶したわよ」
見せつけてくる。
ニンマリと笑った玖留美ちゃんが、僕のことを見下ろしながら、おっぱいで食べた男子のことを見せつけてきた。
「ねえ、あんたもこうされたい?」
「え」
「そんなに食い入るように見つめてさ。物欲しげに瞳潤ませてるんだから、あんたも期待してるんでしょ?」
「そ、そんなことないよ。だ、誰が」
「ふふっ、自分じゃ気づいてないんだ」
そう言って玖留美ちゃんが笑った。
僕のなにかを確信するような笑顔だった。
「それじゃあ、再開するわね」
ニンマリと笑った玖留美ちゃんが言った。
「目の前で、クラスの男子がわたしのおっぱいで食べられていくところ、黙って見てなさい」
玖留美ちゃんが腕に力をこめる。
ベギバギイッという音が響き、男子の体がビクンッと痙攣して、また暴れ始めた。
意識を失っていた男子を簡単に覚醒させると、またしても玖留美ちゃんの腕に力がこもり、男子の顔面を潰していった。
「むっっつうううう!」
くぐもった悲鳴が断末魔みたいに響く。
じたばたと暴れ始めた男子。
それが永遠に続いた。
僕はそこから目がはなせなくなってしまった。
つづく