さらに月日が流れて夏休み前になった。
玖留美ちゃんは今日も教室で男子を食べていた。
「まな板の上で暴れちゃってるみたいね」
放課後の時間。すでにホームルームも終わり、後は帰宅するだけという時間帯の中、玖留美ちゃんが男子虐めで遊んでいた。
玖留美ちゃんは仰向けで寝転がっていた。
背中を地面につけて、大きな体を横たえている。その体の上に男子が同じく仰向けにされて乗せられていた。そして、その首にはみっしりと玖留美ちゃんの両腕が巻き付いてしまっている。
「ひ、っぎいいいいいッ!」
男子はまったく呼吸をすることができない様子だった。
玖留美ちゃんの大きな体の上に乗せられて拘束されてしまっている。
彼の背中には規格外の大きさのおっぱいがあたっていた。そのおっぱいは男子を侵略しにかかっているようだった。
あまりにも玖留美ちゃんの胸が大きいせいで、男子の胴体がそれに押し上げられる形になっていた。まるで玖留美ちゃんの体の上でブリッジでもするかのようにのけぞっている。
玖留美ちゃんの腕で首を締められ、玖留美ちゃんのおっぱいで肺が潰されている。
その二重苦によって、男子の顔は真っ赤に変色し、絶望と恐怖で滑稽にゆがんでいた。
「もっとお魚さんにしてあげる」
ぎゅううううッ。
玖留美ちゃんがさらに力をこめた。
彼女の腕が男子の矮小な首に食い込む。柔らかそうな玖留美ちゃんの腕がぐんにゃりと男子の首にめりこんで、すべての意識を刈り取りにかかった。
「グッゲエエエエッ」
盛大な悲鳴が教室中に響いた。
ほかの男子たちはさらに顔をそむけてビクビク震えている。僕はその光景をまじまじと凝視して、玖留美ちゃんの笑顔に胸をときめかせた。
「ほら、お魚さんになっちゃった」
言葉どおり。
玖留美ちゃんの体の上で暴れる男子の体は、陸あげされた魚みたいだった。全身をつかってバタバタと跳びはね、なんとか地獄から解放されようと必死に抵抗している。
しかし、そんな小さな劣った存在である男子の抵抗なんて、玖留美ちゃんにとってみれば、陸あげされた魚が飛び跳ねている程度の抵抗にすぎなかった。彼女はさらに腕を巻きつかせて、トドメをさしにかかった。
まな板の上の魚の頭部を包丁で切り落とすみたいに、力を入れて最後の処刑をする。
玖留美ちゃんの包丁が男子の喉の骨に食い込み、ゴキンとそれが断ち切られるような音がして、男子の抵抗は終わった。
「はい。締められちゃったね。お魚さん、死んじゃった~」
うれしそうに笑う玖留美ちゃんだった。
彼女の体の上ではビクンビクンと痙攣している男子がいるだけだった。
白目をむいて口からぶくぶく泡をふいている。さきほどまで必死に飛び跳ねていたというのに、今では脊髄反射の痙攣をするだけになっている男子。それはまるで、神経締めをされて殺されてからも、なおもピクピクと動く死んだ魚みたいだった。
(玖留美ちゃん、すごすぎる)
僕はハアハアと息を荒げて興奮していた。
それと同時になんだか不安な気持ちになっていた。
その不安がどこからくるのか分からなかった。それでも、彼女が魚をさばいて処刑してしまった光景をみると、変に胸がざわつくのだった。なにか予感みたいなものがあった。それがなにか分からなかったが、とてつもなく重要なことを見落としているような、そんな気がした。
*
「小太郎」
玖留美ちゃんの声にビクンと震える。
彼女は締めたお魚男子を地面に放り投げて立ち上がったところだった。くいっくいっと手招きされたので、僕はなんとか立ち上がって彼女に近づいた。
「な、なにかな玖留美ちゃん」
「今日も行くでしょ?」
「え、ああ、うん。エサやりだよね」
そこで玖留美ちゃんが何故かニンマリと笑った。
それはいつも男子を虐めるときに浮かべる笑顔よりもなお凄惨で嗜虐的な表情だった。彼女は「そうね」とか「計画どおり」とか要領の得ない言葉を繰り返して、
「ちょっとわたし準備があって遅れるからさ。あそこで待っててくれる?」
「そ、それはいいけど。準備って、僕も手伝おうか?」
「わたし一人で平気。けっこう大きな道具だから、小太郎じゃもてないと思うし」
「そう?」
「うん。それじゃあ、また後でね」
玖留美ちゃんが教室から出て行った。
後にはポツンと佇む僕と、ほかの女子が男子で虐めている喧噪だけが残された。
つづく