一



 バトルファック部に所属する女の子が、文芸部に入部することになった。

 どうしてそんなことになったのか。

 疑問が顔に出ていたのだろう。バトルファック部顧問の体育教師が、いかつい顔で言った。

「本人たっての希望なんだ。よろしく頼む」

「よ、よろしくって言っても」

「文芸部は人数不足で廃部寸前なんだろ? ならよかったじゃないか。かけもちとはいっても、文芸部に部員が入ってくるんだから」

 確かにそれはありがたい。

 4月に新入部員が誰も入部してくれず、文芸部の部員は3年である自分だけだった。なんとかしなくてはいけないと思っていたんだけれど、ボッチ界の住人である僕ではどうしようもなかった。しかし、だ。

「あの、バトルファック部とのかけもちって、どういうことですか?」

 それが疑問だった。

 うちの学校のバトルファック部はそこまで強くないけれど、体育会系であることに違いはない。普通、かけもちなんて許さないだろう。

「そ、それは事情があるんだ。まあ、今は多様性の時代だからな。部活のかけもちくらい、問題ないだろう」

 歯切れが悪くなる体育教師。

 けっきょく押し切られてしまった。

 もともと僕に拒否権なんてものはないのだ。

 翌日、その子が文芸部の部室にやってきた。



 二



「大森桃花です。よ、よろしくお願いします」

 小さな声でその子は言った。

 声も小さいが身長も小さかった。

 150センチには間違いなく達していない。なんだか小動物みたいな少女だと思った。制服を着ていなかったら、高等部の女の子には見えないだろう。けれど、

(で、でででで)

 でかい。

 胸が。

 めちゃくちゃでかかった。

(な、なんだこれ)

 制服のブレザーは最初からボタンが閉められていなかった。閉めることができないのだ。薄っぺらいシャツだけではその爆乳を抑えることはできず、彼女の胸部にはエレベスト級の山脈が隆起している。その頂上では雪が積もり極寒の大地で登山者が何人も遭難するのではないか。そんな妄想をしてしまうほど、そのおっぱいは大きくて、迫力満点で、圧倒的だった。

(それに、めちゃくちゃいい匂いがする)

 ぼわわんと頭が麻痺するような香り。

 もともと僕は常に鼻がつまっているので、匂いには敏感ではない。そんな僕でも感じられる甘い匂いに、なぜか下半身がうづく気がした。

「あ、あの」

 その声にハっと我にかえる。

 僕はさきほどからずっと彼女のおっぱいを見つめていたのだ。

「ご、ごめん」

 僕はなんとかそのおっぱいから視線をあげることに成功した。

 目の前で、小動物じみた挙動をしている女の子が、驚いたような顔をしている。

「あ、あの、大丈夫なんですか?」

「な、なにがかな」

「いえ……大丈夫ならいいんですけど、すごいですね」

「?」

 なんだかよく分からないことで感心されている。

 僕はなんとか大森さんのおっぱいを見ないようにしながら言った。

「これからよろしくね、大森さん」

 恥ずかしいけれど、右手を差し出す。

 やはり驚いた顔を浮かべた大森さんは、慌てたように僕の手を握ってくれた。

「よ、よろしくお願いします」

 緊張した小さな声。

 それでも誠意みたいなものが感じられた。

 なんとかやっていけそうだ。僕はそう思った。



 三



 大森さんは熱心に文芸部の活動に精を出していた。

 活動といっても、我が文芸部は同人誌の制作もやっていないので、ただ部室で本を読むだけの毎日だった。本棚が置かれているせいで若干手狭な部室。大森さんは放課後になると必ず部室にやってきて、本棚にある文学書(今は谷崎潤一郎全集)を読んでいた。

(姿勢がいいな)

 大森さんはパイプ椅子に座りながらも、背筋をピンと伸ばしていた。育ちの良さを感じさせる、そんな姿勢だった。けれど、

(お、おっぱいがデカい)

 背筋を伸ばしているせいで、おっぱいの大きさが強調されている。

 これは衣服に対する拷問だ。制服のシャツがエレベスト山脈によって破けそうになるほど引き伸ばされている。不自然なほどに隆起し、シャツに深い森の中みたいな陰影をつくっている豊かな山並み。その圧倒的強者感のあるおっぱいをぼんやりと眺め、部室にただよう甘い匂いで頭が麻痺していく。

(ま、まずい。また見ちゃってる)

 後輩の女の子のおっぱいをガン見する上級生の男。

 狭い部室の中で二人っきりなのに、こんな男がいたら大森さんも安心して読書に集中できないだろう。

 僕は、詩人が句読点を整理するかのような細心の注意を払って、大森さんのおっぱいから視線をはずした。

 やれやれ。

 何度も読み込んですり切れるほどになっている村上春樹の本に集中する。本の世界に入っていると、大森さんのおっぱいのことを少しは忘れられる。僕は放課後の部室で、集中して小説を読んでいった。



 *



 そんなふうにして時間が流れた。

 僕と大森さんは次第に打ち解けて、世間話しをするようになっていった。

 彼女の母方の祖母がロシア人であることも教えてもらった。白い髪はその血が強く出ているらしい。おそらく、その規格外のおっぱいも外国の血の影響だろう。明らかに日本人離れしている爆乳の不思議が少しだけ分かった気がした。

「大森さんって、好きな作家さんいるの?」

 文芸部の部室で質問する。そうすると彼女が、

「そうですね……特定の好きな作家さんはいなくて、乱読するって感じでしょうか」

「どんな小説が好きなの?」

「うーん……時代でいうと明治初期に書かれたものが好きですけど」

「夏目漱石とか?」

「そうですね。もちろん漱石さんも好きですけど、武者小路さんも好きです」

 作家のことを「さん」付けで呼ぶのがなんだかとってもかわいいなと思った。

 彼女は本当に本が好きなようだった。

 部室にある本を次々読破してしまう。

 さらに印象深いのは、読書中の彼女のクセだった。

「~♪」

 控えめな鼻歌が響く。

 行儀よくそろえられていた両足がパタパタと動く。

 表情は明るくいかにも楽しそうといった感じ。

 大森さんが小説の世界に没入している時のクセだった。これが出ると、「お、集中してるな」と分かる。そんな大森さんの読書の熱量みたいなものにあてられて、僕も目の前の小説に集中することができた。

(だけど、なんでなんだろう)

 僕は疑問に思った。

 なぜこんなにも小説好きの女の子がバトルファック部に入部したのだろうか。バトルファック部に入部するのは学校のスクールカースト上位に所属するメイク派手めな女の子ばかりだった。こんなにも小柄で控えめな女の子がやるスポーツではない。

 僕は気になって、「大森さんってなんでバトルファックをやっているの」と質問してみた。それに対して、大森さんは、

「……親に言われたんです。進学にも就職にも有利だから、やってみろって」

「ああ、まあ確かにこれだけメジャーなスポーツだもんね。プロになったら年俸とかもすごいし」

「そうですね。でも、わたしはやっぱり、こうやって本を読んだりするほうが好きです。バトルファックは、あまり……」

 好きではない。

 その言葉が彼女の口から出ることはなかった。けれど、大森さんの気持ちは分かった。気乗りしないスポーツを親の意向で続けているのだ。これだけバトルファックがメジャーになったとはいえ、性的なことに拒否感を持つ人間はいる。控えめで小動物じみている大森さんの性格的にも、バトルファックは苦痛なのだろう。

「そうか、あの体育教師にもいいところがあるんだね。バトルファックに気乗りしない大森さんのことを思いやって、文芸部のかけもちを認めてくれたってことか」

 そう思うと、あの脳筋野郎にも見直すべき点があるように思えた。しかし、

「違います。そうじゃありません」

「え?」

「わたし、通常練習を出禁になってるんです。新入生歓迎試合の時に、ちょっとやりすぎてしまって」

 どういうことか分からない。

 大森さんが続けて言った。

「新入生歓迎試合で、部内の男子全員を気絶させてしまったんです。入部したばかりで相手の力量が分からなくて、手加減の調整がうまくできなかったんですね。先輩も先生も、本当に簡単に射精して、気絶してしまって……そのまま通常練習を出禁になってしまいました」

 淡々と語られた言葉。

 新入生歓迎試合で圧勝したことを勝ち誇るでもなく、得意に思っているわけでもないその口調は、どこか圧倒的強者を思わせる余裕となって現れていた。

(ど、どういうこと?)

 しかしやはり僕は訳が分からないままだった。

 目の前の控えめな女の子。

 身長が小さ過ぎて普通のパイプ椅子に座っているだけなのに足が地面につかないような少女が、男たちを簡単に射精させ、気絶させてしまったということがどうにも信じられなかった。

「あ、あの、先輩は本当に大丈夫なんですか?」

 唐突な質問。

 いきなり過ぎて、「な、なにが?」と答えるしかなかった。

「こんな狭い部室で……普通耐えられないと思うんですけど……今の話しを聞くのだって他の男子だったらそれだけで―――」

 不思議そうにつぶやく大森さんだった。

 彼女は、赤道の熱帯地域でオーロラでも見たかのような表情で僕のことを見つめてきた。

「先輩はすごいですね」

 会話はこれで打ち止めになってしまった。

 甘い芳香が部室の中にただよう中、僕は大森さんのおっぱいを凝視したり、意志の力で視線をはずしたりしながら、読書に集中しようと無駄な努力を続けた。



 四



 基本的に、学校での僕はボッチ街道をひた走っている。

 誰も僕に追いつくことはできない。

 ボッチがボッチをつくりだし、ボッチの空気感を強固な盾としてまとったボッチは、孤高のボッチ街道を一人歩いていくしかないのだ。さびしい。

「なあ、お前、文芸部だったよな」

 そんな僕だったので、最初、その言葉が自分に向けられたものだと気づけなかった。

 昼休みの喧騒の中―――信じられないことに、スクールカースト上位に君臨する長身イケメンが僕に声をかけていた。

「え、な、な、な、なに?」

「お前、文芸部の部長だっただろ?」

 どこか怒ったようにイケメンが言う。

 長身なので近くに立たれるとそれだけで威圧感があった。

「そ、そうだけど」

「大森が入ってるんだろ?」

「う、うん。この前、入部してきた。バトルファック部とのかけもちってことで、それで、」

「お前、大丈夫なのか?」

 なにがだ?

 あまりにもボッチ世界に浸ってうまく会話ができない僕のことをバカにしてるのか。ふざけるな。謝るから許して欲しい。

「あいつと一緒にいて、お前、なんともないのかよ」

 真剣な口調でイケメンは言った。

 けれど僕には彼がなにを言っているのかさっぱり理解できなかった。そんな僕に愛想がつきたのか、イケメンが唐突に言った。

「俺、バトルファック部に入ってるんだ」

「そ、そうなんだ」

「1ヶ月に1度、部内対抗戦があって、それが今日だ。それには、大森も参加する」

「へ、へー」

「見に来いよ。そしたら分かるぜ」

 そこでイケメンは歯ぎしりをした。明らかに余裕をなくした彼が続ける。

「……俺もやられっぱなしじゃねえ。あいつに、今度こそ勝つ……そうだ、俺は、俺は勝つんだ」

 言うだけ言ってイケメンが去っていった。後には呆然とした僕だけが残される。

(なんなんだ、いったい)

 訳が分からないまま、僕は村上春樹の本をバリアーにして読書を再開するしかなかった。

 でも、本当になんだったんだろう。

 僕には見当もつかなかった。長身イケメンは大森さんに怯えていたようにも見えた。けれど、なぜ大森さんに怯えなければならないのか、僕にはさっぱり分からなかった。大森さんには何か秘密があるのだろうか。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。僕は放課後、バトルファック部の競技場に見学に行くことにした。



 五



 競技場なんて普段は近づくこともない。

 確かここら辺にあったはずだと思いながら歩き、校舎から少し離れた場所にある競技場にたどり着く。上履きを脱いで、建物の中に入った瞬間、それは聞こえてきた。

「ひいいいいいいッ!」

 男の悲鳴。

 生命に危険を感じた生物があげるような本物の断末魔だ。

「な、なんだ?」

 訳が分からず、声がしたほうに歩いていく。

 天井からのスポットライトに照らされたリングの上―――そこで、大森さんが男子部員をボコボコにしていた。

「ひゃだああああッ!」

 男がリングにあおむけで倒れ悲鳴をあげている。

 すでに白目をむいてガクガクと痙攣して悶え苦しんでいる男。それほどまでの苦痛を与えているのは、大森さんの爆乳だった。

「…………」

 大森さんは淡々と、男の一物を爆乳の間に挟み込んで潰していた。

 文芸部の部室にいる時と同じような控え目な女の子。けれど、今の彼女はおっぱいだけで男をボコボコにしてしまっていた。

(す、すごい)

 白色の競技用水着を着用した彼女の胸の迫力はすさまじいものがあった。

 スポットライトを浴びてテカテカと輝いている健康そうなおっぱい。その大きさは生命力の塊みたいに思えて、僕の意識は完全に大森さんの爆乳に吸い込まれてしまう。男の顔よりも大きな乳房が二つ実っていて、その凶器みたいなおっぱいが、男の小さな一物を挟み潰しているのだった。

「……大丈夫ですか?」

 相手を心配している大森さんの声が響く。

 それに対して、男は「アヒアヒ」と悶えるだけだった。

「ギブアップするなら今のうちですよ」

「あひいいいいッ! ひいいいいッ!」

「もうこうなったら貴方に勝ち目はありません。はやく負けを認めてください」

 その言葉に男は反応しない。

 いや、反応できないのだ。あまりの快感で言葉一つ喋れなくなってしまっている。

 そのことに大森さんは気づいていないようだった。彼女が覚悟をきめたように言った。

「それでは、射精させますね」

 ぐっちゃああああッ!

 始まったのは、おっぱいによる虐殺だった。

 パイズリ。

 男の象徴よりも何倍も大きな女の乳房が躍動していく。乳肉が男の肉体を殴打していく音が響き、すぐに終わった。

「ひゃあああああああッ!」

 どっびゅうううううッ!

 びゅっびゅうううううッ!

 簡単に男が射精した。

 体をビクンビクンッと痙攣させながら自分の子種を搾り取られていく。

 大森さんの規格外の爆乳は男の精子を一匹残らず乳内に捕獲してしまっているようだった。男の子種が一匹たりともおっぱいの中から脱出できずに、おっぱいで殺されていく。

「ぎゃあああああッ!」

 終わらない。

 乳内への射精も続いていく。

 パンッパンッパンッ! 肉が肉を殴打していく音が響く。普通ならセックスの音だ。男が女を犯す音。しかし目の前では、おっぱいが男の腰に叩きつけられ、精子が強制的に奪いとられていった。大迫力のパイズリが続いていく。

「ひ…………」

 ついに男が気絶した。

 痙攣していた体が脱力して、動かない人形になる。それでも射精は終わらないらしく、断続的に下半身をビクンビクン痙攣させては、大森さんの乳内に射精を繰り返していった。

「ん」

 大森さんがようやく男の気絶に気づいた。

 それ以上追い打ちをかけることなく、大森さんがゆっくりと立ち上がる。かかえていたおっぱいを無造作に解放すると、その豊かすぎる谷間からねっちょりと大量の精液がこぼれ落ちていった。ドロリドロリと濃縮された子種がリングの上に落ちていく様子は、あまりにも妖艶だった。

「ごめんなさい。一応、手加減はしたんですが」

 大森さんが気絶している男子部員にむかって言う。

「まさか、こんなにはやく気絶してしまうとは思いませんでした。ごめんなさい。次はもっと手加減しますので」

 本当に申し訳なく思って謝罪をしている大森さん。

 そんな小柄な少女の大きすぎる爆乳からは、今もドロリと男の敗北の証が垂れ落ちていっている。

 彼女の足下で気絶して倒れている男の一物からは、ドビュドビュと精液が漏れ続けていた。

 勝者と敗者。

 強者と弱者。

 そんな二人の関係性が、一目瞭然に分かる光景だった。

「つ、次は俺だ」

 リングの下で声があがった。

 同じクラスの長身イケメンだ。

 若干青ざめた顔をした男がリングにあがる。気絶した男子部員が他の部員に抱えられて助けられている中、長身イケメンが大森さんに向かい合った。

「い、いい気になるなよ。新入生歓迎試合の後、俺は猛特訓したんだ。お前みたいな胸がデカいだけの女に、俺は負け……負け……な……い…………」

 言葉が尻すぼみになる。

 イケメンは見てしまったのだ。

 大森さんの爆乳。

 男の返り血じみた精液で汚れた胸をタオルで処理し終わり、あらわになった二つの果実。長身イケメンはそれを見てしまい、すぐに勃起した。

「…………」

 大森さんが無言で、視覚情報だけで敗北した男の股間をじっと見つめる。

 はやくも足をよろめかせてしまった長身イケメンにむかって、大森さんが事務的に言った。

「よろしくお願いします」



 *



 試合は一瞬にして終わってしまった。

 大森さんは、その小柄な体をいかして俊敏に動いた。

 長身イケメンの責めをいなして、その下半身にぎゅうっと抱きつく。身長の低い大森さんのおっぱいの位置は、ちょうどイケメンの腰の高さにあった。

「ひ」

 迫力満点の爆乳がイケメンの腰に炸裂する。それだけでイケメンは腰を抜かしてしまい、膝をリングについてしまった。

「や、やめ」

 イケメンの体が倒れていく。それにあわせて、大森さんの爆乳がさらに男の体にすりつけられていった。腰から腹へ。腹から胸へ。そして、胸から首―――。暴力的なおっぱいの肉が、男のみすぼらしい体を浸食してしていく。試合開始前にはあれだけあった身長差がなくなってしまった。男の目の前には、大森さんの爆乳が肌色たっぷりに鎮座していた。

「ぱふぱふ、いきます」

 ぐんっにゃあああああッ!

 捕食行為。

 おっぱいが男の顔面を食べてしまった。

 そのようにしか見えなかった。男の頭部よりもデカい乳房が二つ、大きな口を開けて獲物を食らいつくし、そのまま丸飲みにしてしまったのだ。マイクロビキニをまとった爆乳は、その豊かすぎる谷間の中にすっぽりと男の頭部を埋もれさせてしまっていた。そこから脱出することは不可能であることが一目で分かる。勝負はあっという間についてしまったのだ。

「ギブアップは、早めにしてくださいね」

 大森さんが言う。

 彼女は本当に普段どおりだ。文芸部の部室にいる時と同じ控えめな様子で男に話しかけている。しかし、やっていることは控えめさとはかけ離れていた。その規格外の爆乳で男の頭部ごと丸飲みして、肉の監獄の中に閉じこめてしまう。彼女の小さな手が、かろうじて露出している男の後頭部にあてがわれて、ぎゅうぎゅうっと抱きしめを継続していた。

「むうううううッ!」

 男の体がビクンッと痙攣した。

 リングの上で膝立ちとなり脱力してしまった男。はやくも抵抗すらできなくなって、両腕をぶらんと垂れ下げてしまっている。その首から上は完全に凶悪おっぱいの谷間の中に隠されているので、まるで首なし死体がそこにあるみたいだった。

「むう……むむむ……」

 うめき声が小さくなる。

 体が断続的に痙攣している。

 そして、

 あっけなく、それが始まった。

 どっびゅうううッ!

 びゅっびゅうううううッ!

 男の股間から白い液体が漏れてきた。

 最初、僕はそれが射精だと気づかなかった。大森さんは長身イケメンの一物に触れてさえいない。おっぱいで男の顔面を拘束しているだけなのに、なぜかイケメンは射精してしまったのだ。

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 大森さんもイケメンの射精に気づいたらしく、慌てて男を解放してやった。

 大きなおっぱいの谷間から男の頭部をスポンと引き抜いてやる。むわあっという湯気でも立ちそうな水蒸気がたちのぼって、男の顔がさらされた。

「あひ…あひい……」

 現れたのはトロケきった男の顔だった。

 焦点を結んでいない視線で完全に脱力している。口は半開きになって涎がだらだらと垂れていた。違法薬物をきめてトんでしまっているみたいだ。長身イケメンは後輩女子のぱふぱふ一発で射精に追い込まれてしまったのだった。

「ごめんなさい。まさか、ぱふぱふだけで射精してしまうなんて思ってなくて」

 申し訳なさそうな大森さんの言葉。

 相手を自然と下に見ていなければ出てこない言葉が、容赦なく彼女の口から発せられる。

「素人ならまだしても、バトルファックをやってる男の人が、わたしのフェロモンだけで射精するなんて想像できませんでした。ごめんなさい。恥をかかせてしまって」

「あひん……あひ……」

「完全に意識がトんでしまってますね。どうしますか? まだ続けましょうか」

 そこで大森さんが、ぐいっとおっぱいを前に突き出した。

 それはなんでもない動きのはずだった。まだ試合は続いていて、男の回答次第では次の技をかけなければならないのだから、当然の準備動作といえた。しかし、男にとってはその視覚情報だけでオーバーキルだった。

「ひゃああああああッ!」

 どっびゅうううッ!

 射精した。

 ぱふぱふすらかけられていない。

 目の前におっぱいが威圧的に迫っただけで、男は射精してしまったのだった。大森さんの足下に、男の敗北の証がびゅっびゅっと巻き散っていく。

「…………」

 それを大森さんは驚いたように見下ろしていた。

 技をかけていないのに射精してしまった先輩男子のことを、じいっと見つめている。その間も、凶悪おっぱいは男の顔面近くで威圧的に鎮座していて、視覚情報だけで男をさらなる射精に追い込んでいった。

「もうやめろ。勝負はついた」

 顧問の体育教師がリングに割ってはいった。

「大森、今日はこれまでだ。あとは見学していろ」

「……はい」

 大森さんは意気消沈して敗者のようにリングから降りた。

 しかし、彼女は圧倒的勝者だった。

 まだ戦っていない他の男子も彼女の試合を見ただけで敗北し、勃起してしまっていた。大森さんの大迫力のおっぱいを見て、みんな興奮しているのだ。それは僕も同じだった。

(す、すごい)

 固く勃起した下半身をさらしながら、僕は大森さんを凝視してしまっていた。

 リング下の長イスにちょこんと座った小動物じみた女の子。僕は彼女のことを見つめてハアハアと息を荒くし、いつまでも興奮していた。



 六



 翌日。

 文芸部で本を読んでいると、大森さんが普段どおりにやってきた。

 彼女の姿を見ると、自然と僕の心臓はドクンと脈打ってしまった。

(この女の子が、昨日、男たちを射精させて、気絶させまくってたんだ)

 制服ごしでも分かる大きすぎるおっぱい。

 それで男子たちを搾り取っていた。

 そんな女の子が目の前にいると思うと、どうしたって興奮してしまう。部室内の甘い芳香とあいまって、僕は思わず勃起してしまった。

「先輩」

 そのタイミングで大森さんが喋りかけてきた。

 僕はビクンと震えて「な、なにかな」と返答するのがやっとだった。

「あの、大丈夫ですか?」

「な、なにが?」

「……昨日、バトルファック部の練習、見学してましたよね」

 心臓が脈打つ。

 バレていたのだ。僕の顔が真っ赤になる。

「ご、ごめん。どうしても気になって」

「いえ、別に構わないんです。バトルファック部の練習は公開されてますから。わたしが心配しているのは、先輩のことなんです」

 どうも要領を得ない。

 大森さんは読んでいた本をパタンと閉じると、僕のほうに体を向けて言った。

「わたしが他の男の人をおっぱいで射精させるところ見て、先輩はまだ平気ですか?」

「え?」

「わたしのフェロモン。さすがに効いてきてしまったんじゃないでしょうか」

 いつもの控えめな口調。

 しかし、それは何かを確信しているような有無を言わせないものだった。

「フェ、フェロモンって?」

「わたしのその……体臭です。おっぱいに溜まりやすくて、それを嗅いでしまった男の人は発情して頭がバカになってしまうんです。昨日も見てましたよね? わたしのおっぱいに顔を埋もれさせた男の人が、頭トロトロになって、そのまま射精してしまったところ」

 フェロモン。

 そんなもの、本当にあるのか?

 女性のフェロモンなんて聞いたことがないし、ましてやそれで男を射精に追い込んでしまうなんて不可能に思える。そんなふうに僕が考え込んでいると、大森さんが淡々と言った。

「あの、体験してみますか?」

「え?」

「手加減はしてあげますから、わたしのぱふぱふ、体験してみませんか? そうすればフェロモンのことも分かると思います」

 それに、

「先輩がこんな狭い部屋でわたしと一緒にいるのに壊れないでいる理由も、それで分かるかもしれません」



 *



 大森さんの問いかけに僕はコクンと頷いていた。

 なぜ頷いてしまったのか自分でも分からない。

 気づいたら頷いていたのだ。これから僕は大森さんのおっぱいに食べられてしまう。

「それじゃあ、やりましょうか」

 大森さんが立ち上がって僕の近くにくる。

 甘い匂いがさらに増した。なんとも表現しにくい魅力的な匂い。それは明らかに大森さんのおっぱいからたちのぼってきていた。

(で、デカい!)

 目の前。

 イスに座っている僕の視線の高さに鎮座するエレベスト級の山脈。制服が限界ギリギリまで隆起している大迫力な光景を前にして、僕の意識のすべては大森さんのおっぱいに奪われてしまっていた。

「いきます」

「ま、待っ、むぐうううッ!」

 有無を言わさず、大森さんが僕の後頭部に腕をまわした。

 そのまま強引に僕の顔面をおっぱいに押し込める。

 僕の頭部が大森さんのおっぱいに埋まった。

(き、きもちいいいい)

 ぐんにゃりと潰された僕の顔。

 顔面だけではなく、両頬まであふれてくる乳肉の感触に体がガクガクと震える。制服ごしなので谷間の奥まではいけない。昨日の長身イケメンのように頭部をすっぽりと谷間に埋もれさせているわけではないのに、とんでもない威力だった。

(きもちいけど……でもフェロモンってなんだろう)

 驚きの一瞬が過ぎる。

 硬直していた体が弛緩していく。

 突然の衝撃で呼吸を忘れていたことに遅れて気づき、

 僕は鼻から息を吸ってしまった。

「!!!!?????」

 声にならない驚きが口からもれる。

 匂い。

 部室にただよっていた甘い芳香。

 それが圧縮された毒素となって僕の鼻から脳髄に染み渡った。頭がぼおっとしてなにも考えられない。体がビクンビクンと痙攣していた。

「すううはあああッ!」

 息を吸う。

 存在感たっぷりな乳肉の中に捕らえられたまま、僕は壊れた掃除機みたいに鼻から息を吸っていった。密着されているので「ずぼぼぼぼッ!」という間抜けな音が鳴っているのが聞こえる。息を吸えば吸うほど体の力が抜けてしまう。今では大森さんの体にもたれかかるようにして、かろうじてイスに座っているだけになっていた。

「はい、終わりです」

「あ」

 大森さんが僕の顔面をおっぱいから引き抜いた。

 まだ彼女は僕の後頭部に両腕をまわしてぎゅっと抱きしめている。僕の顎から下には大きなおっぱいがあり、それがクッションになっていた。そんな状態で僕のことを抱きしめながら、至近距離で、大森さんが僕に話しかけてくる。

「どうでしたか、先輩」

「あ、あ、あ、あ」

「言葉が喋れなくなってしまいましたね。お顔もトロトロです。どうでしょう。わたしのフェロモン、分かってくれましたか?」

 僕はコクンコクンと頷いた。

 完全に分からされた。

 今も僕の首まわりをぐんにゃりと潰しているおっぱいの感触と、そこから立ち上ってくるフェロモンに頭をバカにさせられている。

「すごい。まだ意識あるんですね」

 僕を抱きかかえたまま、大森さんが驚きの声をあげる。

「普通だったら意識がもうろうとなって、操り人形みたいになってしまうんですけど、先輩はまだ意識がしっかりしています」

「あへ? しょ、しょんなことないよ。頭ぼおっとひて、なんかしゅごいきもひい」

「普通だったらそんなふうに喋れないんですよ。すごいですね。やっぱり、先輩はわたしのフェロモンに耐性があるみたいです」

 彼女の視線が暖かく僕のことを見下ろしていた。

 僕の頭部を抱きかかえている彼女の腕が、少しだけぎゅうっと力を増し、僕の首まわりをさらにおっぱいに埋めていく。ぐんにゃりと柔らかく潰れた乳肉クッションの感触に、僕の口から「あひん」と声がもれた。

「ん……先輩つらいですよね」

「あへえ?」

「一回、抜いておきましょう。大丈夫。すぐですから」

 ぐんにゃああああッ!

 僕の回答を待たずに、大森さんが再び、僕の顔面をおっぱいに押し込めた。

 僕の後頭部にまわされた大森さんの腕が、力強く僕の頭部をおっぱいに引き寄せていく。乳肉が顔面を覆い、さらに奥へと引きずりこまれた。

「はい、だいぶ深くにきました」

 言葉どおり。

 僕の頭部は大森さんのおっぱいの谷間に若干埋もれる形になっていた。制服ごしなのにそれを可能にするほどの豊かな渓谷。僕の頭部は彼女の大きなおっぱいの中で生き埋めになり、捕食されてしまったのだ。

「わたしのおっぱいの谷間、奥にくればくるほどフェロモンが濃くなるんです。耐性のない男子だったら一発で壊れちゃう凶悪フェロモン。たっぷり味わってください」

 言われるまでもなかった。

 僕は大森さんの匂いに夢中になってしまった。

「すうっはあああッ!」

 鼻から勢いよく息を吸う。

 頭がトんだ。

 この匂いを嗅ぐためだったら人を殺すことだっていとわないだろう。そんな魔性のフェロモン。極上の乳肉監獄で頭部を生き埋めにされ、ぐんにゃりと潰されながら、大森さんのフェロモンを力いっぱい吸う。体がビクンビクンと痙攣して、僕の体は完全に脱力してしまった。

「すごい。これでも射精しないんですね」

 驚いたような大森さんの声。

 そんな言葉は僕には届かない。

 発情した犬みたいに僕は大森さんの匂いを嗅いで頭をトばしていった。

「少し本気出しますね」

 不穏な言葉が響くと同時に、大森さんの腕がさらに力を増した。

 僕の頭をぐりぐりとおっぱいにすり付ける。限界ギリギリまで僕の顔面が大森さんの乳肉に潰され、息を吸うこともできなくなってしまった。「ズボオオオッ」という吸いきれない大きなゴミにあたった時みたいな壊れた掃除機の騒音が聞こえてくる。

「息、吸えないですよね。わたしのおっぱいで、先輩の呼吸を完全にシャットアウトしています」

 事務的な淡々とした声が響く。

 僕はあの魔性のフェロモンを吸おうと必死に鼻から呼吸をしようとするのだが、一度の呼吸も許されなかった。おっぱいに潰されて完全に呼吸を奪われてしまっている。

(ぐ、ぐるじいい)

 息ができない。

 次第に酸欠になっていく。

 酸素が吸いたい。

 おっぱいの匂いが欲しい。

 死。

 死んじゃう。

 このままじゃ、おっぱいに殺される。

「はい、息吸ってください」

 その瞬間、大森さんの腕の力が弱まる。

 かろうじて空いた隙間にたまった酸素。

 それを僕は「ずばああああッ!」と吸い込み、脳細胞を破壊された。

「むうううううううッ!」

 どっびゅううううううッ!

 びゅっびゅうううううッ!

 それと同時に射精した。

 匂いを嗅いだだけで、

 僕はあっけなくズボンの中に盛大な射精を断続的に繰り返していく。

(ダメなのに……ダメなのに……)

 これを吸ってはいけない。

 命が消えていくのが分かる。

 それが分かっていながらもどうしようもなかった。

 やはり僕はおっぱいに殺されているのだ。

 僕の本能は大森さんのおっぱいを求めて死の甘い芳香を必死に吸い続けていく。射精が終わらず、体がビクンビクンと痙攣する。3分間にも及ぶ長い射精の後―――精巣が空っぽになって、ようやくそれは終わった。

「どうでしたか、先輩」

 再び、大森さんが僕の頭部を解放する。

 僕の首から下はまだ、大森さんのおっぱいの中に生き埋めになったままだ。僕は顎を彼女のおっぱいの上に乗せた状態で「あひあひ」と悶えるだけだった。

「きもちよかったですか?」

「はひいいいッ! しゅごいいいいッ!」

「ふふっ、まだ喋れるんですね。先輩は本当にすごいです」

 大森さんの両腕が僕の背中にまわされて、ぎゅううっと抱きしめてくる。

 おっぱいに生き埋めになった僕はその感触だけで空打ちの射精をして「あひん」と悶えた。

「先輩が落ち着くまで、この体勢でいてあげますね」

 大森さんの声。

 その声はどこか嬉しそうに弾んでいる気がした。

「安心してわたしの体に身をゆだねてください」

 頭を撫でられる。

 彼女のおっぱいに首から下を生き埋めにされながら、優しく頭を撫でられ、トロンとした表情を浮かべてしまう。そんな情けない僕のことを、大森さんは優しそうな笑顔で見下ろしていた。



つづく