出席番号3番 飯塚幸平。

 柔道部員として毎日練習を欠かさない努力家だ。

 飯塚が毎日近所を走って足腰の鍛錬をしているのをクラスメイトたちはみんな知っていた。質実剛健。真面目一辺倒。そんな性格の男だった。

 飯塚も玲奈と仲がよかった。

 締め技を教えて欲しいなんて頼んでつきまとってくる玲奈に懇切丁寧に技を教えてやっていた。

 女子相手でも指導に手加減できない不器用な性格な飯塚は、それでも真剣に玲奈に技を伝授していたのを見たことがある。

 技の練習をする際に玲奈のおっぱいが飯塚の体にあたってぐんにゃり潰れた時、飯塚の顔が赤らむのを見て、ああこいつも性については年頃の男と同じ反応を見せるんだなと妙な安心を覚えたものだった。


「玲奈さんを助ける。必ず、絶対に」


 そう覚悟をきめて語る飯塚が印象的だった。

 柔道家の猛者。

 こいつだったら、あの敵を倒すことができるかもしれない。

 そんなふうにクラスメイト全員が信じていた存在。

 そんな男も、敵にあっけなく殺された。


 *


「ほ~ら、絞まってるよ?」


 敵が飯塚の耳元で囁いた。

 彼女は今、岩場に仰向けに寝そべって、その豊満な体に飯塚の体を乗せていた。

 大きなおっぱいが飯塚の背中でぐんにゃりと潰れているのが見える。

 それだけならば天国なのだろうが、飯塚の首にからまった屈強な腕の存在が、これが地獄であることを教えてくれた。

 裸締め。

 敵の逞しい腕が飯塚の喉仏を的確に潰していた。頸動脈ではなく喉仏を潰していく残酷な技だ。これがきまると、一瞬で落ちることもできず、永遠と苦しめられることになる。


「これ、柔道の技だよね。おまえに教えてもらったんだもんね。おまえに教えてもらうまで、柔道なんてやったことなかったんだけど」


 ニンマリ笑いながら敵が言う。

 飯塚の耳元にぐいっと近づき、それによってさらに飯塚の喉を潰しながらの言葉。

 首を絞められた飯塚の苦悶の表情はさらに増した。

 顔は鬱血して、絶望一色で情けない表情を浮かべながら、「かひゅうーーーかひゅうー」と虫の息になっている。


「あーあ。せっかく柔道で勝負してあげたのに、意味なかったなー。おまえ、弱すぎだよ」


 二人は柔道着姿だった。

 飯塚は上も下も柔道着を着用して完全武装。その黒帯がよく似合っていた。

 それに対して敵は上の柔道着を着用するだけで、下半身は惜しげもなくさらすだけだった。

 さきほどからムチムチの褐色太ももが飯塚の体に巻き付いていた。

 しかも敵は白帯だ。

 初心者であることを表すアイコン。

 今、白帯の初心者柔道家が、黒帯の有段者を圧倒しているのだった。


「このまま殺しちゃったらつまらないや。ほら、立てよ」


 完全に極まっていた裸締めをあっけなく解いて、彼女が立ち上がった。

 飯塚も身を起こし、酸欠でふらふらしながらも手を前に出して構えた。その瞳にはまだ強い意志の力がこもっている。


「さすが武道家じゃん。これなら楽しめそう」


 嬉しそうに言う敵だった。

 彼女はそのままぐいっと飯塚の柔道着の襟を掴んだ。

 お互いに有利な体勢をとるためのつばぜり合いが始まる。

 ここでも圧倒したのは敵だった。その怪力をいかして強引に飯塚の体勢を崩していく。彼女の体が力強く躍動するたびに、飯塚の体は翻弄されて、倒されないようにするのがやっとだ。


「じゃ、またおまえに教えてもらった技やろっと」


 笑顔。

 彼女はそのまま。


「ほい、一本背負い!」


 ドスウウンンッ!

 余裕の笑顔のまま、技が炸裂した。

 見えなかった。

 あっという間に飯塚の体が一回転して、そのまま岩場に叩きつけられた。受け身すらとることができず、背中を強打した飯塚が声すらあげることができずに断末魔の悲鳴をあげる。


「ほら、立て」


 飯塚の襟を掴んで強引に立たせる。

 まるで荷物みたいに持ち上げられてしまった飯塚の目に、怯えがまじっているのが見て取れた。それを見下ろした敵がニンマリと笑った。


「信じられないって顔してるね、おまえ」

「ひ、ひいいいい」

「技の精度が重要な柔道で自分が負けるわけがないって思ってたんだよね? 経験で勝る自分が素人の女に負けるわけないって、そう思ってたんだろ?」


 勝ち誇ってニンマリ笑った敵。

 そんな彼女に襟をつかまれて持ち上げられている飯塚はどこまでも滑稽に怯え続けていた。


「でも残念でした。素人柔道家の私は、おまえの何倍も強いんだよ。おまえに教えてもらった技をおまえの何倍もうまく再現できるの」


 それを証明してあげる。

 そう言った彼女が飯塚に技をかけるように命令した。

 一本背負いではない技をかけるようにと笑顔で命令する。

 怯えきった飯塚は命令どおりにするしかなかった。彼はなんとか自分で立ち、敵の襟を掴んで背負い投げをしようとした。敵に背を向けて全身全霊をこめて女を背負おうとしている。


「あはっ、よわ」


 けれども敵はビクともしなかった。

 その丸太のような太ももはビクともせずに、どっしりと地面に根をはやしたままだ。全力の背負い投げがまるで相手にされていない。


「でも覚えたよ。こうでしょ」


 えい。

 かわいらしい声。

 それと共に放たれた敵の背負い投げ。飯塚の襟を掴んだかと思うと、そのまま大迫力で獲物を背負い、そのまま地面へとたたき落とした。


「がはっ!」


 またしても受け身をとることもできずに地面にたたき落とされた飯塚。

 息もできないようで、地面に仰向けのままのたうちまわっている。


「ほ~ら、おまえの技、覚えちゃった」


 飯塚を見下ろしながら敵が言う。


「おまえの技は大したことないけど、わたしの背負い投げはすごいっしょ? おまえが何年もかけて練習してきた技も、わたしにかかったらこのとおり、一瞬でコピーできちゃうの。オリジナルであるおまえよりも強くね」


 その絶望。

 目の前の女性には絶対に勝てない。

 そう感じたに違いない飯塚が浮かべたこの世の終わりを間近で見たような絶望の表情は、目の前の悪魔にとって何よりのご馳走だった。


「ほら、立てよ。次の技やるからな」

「ゆ、ゆるして、も、もう無理」

「だ~め。おら、次の技かけてこいよ。完全コピーして、おまえにかけかえしてやるからさ」


 そこから始まったのは男のプライドをぐじゃぐじゃにする虐殺だった。

 飯塚が技をかけていく。

 内股、大外刈り、足払い、体落とし、肩車。

 その全ては敵を微動だにすることもできず、逆に放たれた敵の技によって飯塚は何度も地面に叩きつけられていった。

 ぼろ雑巾のようにされる飯塚。

 投げられまくり、地面で背中を強打して、ボコボコにされていく。

 泣きじゃくり、もう止めてくださいと泣いて懇願しても許されることはない。

 無駄と分かっていながら新しい技を目の前の勝わない存在にかけるしかない。それを笑顔でいなされ、自分の技をコピーされて投げられる。その屈辱と絶望はあまりにも強烈だった。


「もう終わりかな?」


 敵が地面に仰向けになって泣いている飯塚を見下ろしながら言った。


「もうおまえの技、ぜんぶ出したんだよね? あはっ、素人の女に完コピされて、今、どんな気分?」


 情け容赦のない罵倒。

 それを聞いても飯塚が反抗することはなかった。

 ただ手で顔を覆い、ぼろぼろと涙を流している。

 自分の全てをかけた柔道で手も足もでず、ボロボロにされて、もはや飯塚に反抗心は残されていないようだった。


「じゃ、殺すね」


 ニンマリとした笑顔。

 彼女は仰向けに倒れた飯塚に襲いかかった。

 飯塚の右手を掴むと、それを自分の太ももの間に挟んで拘束し、自身もまた地面に仰向けになる。

 腕ひしぎ十字固め。

 完全に極まり、男の腕が一瞬にして人体の限界まで伸ばされた。


「ああああああああッ!」


 これまで聞いたこともない男の悲鳴。

 目を見開いて、眉を負け犬のように下げて、激痛に悶えている。鼓膜を響かせる絶叫が、男の命が奪われようとしていることを教えてくれた。


「痛い?」


 敵が笑いながら聞く。

 彼女の太ももの間にはまだ飯塚の腕が挟まれ、強制的に伸ばされている。

 さらに敵は飯塚の腕をがっちりとホールドしながら、それをグリグリと動かしていた。

 それによって飯塚の肘関節は完膚なきまでに壊され、靱帯がゴキュンと音をたててねじ切られ、骨がバギバギと折れていった。男の絶叫がひどくなった。


「ねえ、痛いの?」


 敵が聞く。

 もはや飯塚は答えることなどできない。

 さきほどから絶叫が止まない。聞いているだけで体が震えてくる。

 そんな悲鳴をあげながら、飯塚は自由な左手で何度も彼女の太ももを叩いていた。

 ぺしぺしという音が滑稽に響く。

 それは反撃のための動きではなかった。

 命乞い。

 どうか許してくださいという命をかけた懇願。

 そうやってギブアップしているのに、敵は飯塚の腕を伸ばすことを止めなかった。男の悲鳴をBGMにして、ニンマリと笑った少女がそこにはいた。


「よし、反対側もするね」


 敵が立ち上がった。

 仰向けで絶叫する飯塚は逃げることもできない。

 彼女はゆっくりと地面に腰をおろし、まるで見せつけるみたいに緩慢な動作で飯塚の左手を手にとった。まだ無事な左腕。壊され、あらぬ方向に折れ曲がった右腕とは違う健康な体。それを敵はニンマリと笑ってホールドし、いっきに腕ひしぎ十字固めを決めた。


「ぎゃああああああああッ!」

「あはっ、大げさだな~。そんなに痛い?」

「ゆるじでえええええッ! もう、やめっげえええええええッ!」


 首を左右にぶん回しながら飯塚が命乞いしている。

 もはや無事な腕はなく、タップしたくてもできないのだ。

 だからなんとか敵に許してもらうために、彼は首をブンブンとまわして地面を後頭部で叩いた。さらには足で地面を踏みならしている。全身をつかってギブアップ。それなのに、敵はニンマリ笑うだけだ。


「あはっ、なにやってるの? それ」

「ひ、ひいいいいいいッ! お、お許しをおおおおおおおおッ! もう許してくださいいいいッ」

「くす。ギブアップしないんだね。さっきみたいにタップしないってことはギブアップしないでがんばってるってことだもんね。偉い偉い」

「ち、違いますうううッ! 俺の負けですううううッ! 負けでいいからああああッ!」


 さらに飯塚が後頭部をバンバンと地面に叩きつけ、バタバタと地面を足で蹴っていった。

 慈悲を求めるために全身全霊をかけた命乞い。

 それなのに敵はやはりニンマリと笑ったままだった。

 どれくらいの時間が経過しただろう。

 いつの間にか飯塚の絶叫が止んでいた。あれだけ暴れていた体もシーンと静まりかえっている。どこからか、「あ、あ、あ、あ、あ」という壊れた声が漏れてきていた。


「ありゃ、さすがに壊れちゃったか」


 敵が言った。

 彼女はそのまま久しぶりに体を起こして飯塚の髪の毛をつかんで持ち上げた。

 見えたきたのは、ぼおっとした何も感じない人形になった飯塚の姿だった。「あ、あ、あ、あ、あ」と壊れた声をあげ続けている。涙をぽろぽろ流していて、口には絶叫をあげすぎたせいで涎がこべりついていた。


「脳が痛みをシャットアウトしたんだね。人形さんになっちゃった。こうなると、どんなに虐めても反応がなくてつまらないんだよな~」


 宙づりにしながらじっと飯塚を観察している。

 飯塚の腕は両方ともあらぬ方向に折れ曲がって壊れてしまっていた。

 目の前の敵がそうしたのだ。豊満な女の子らしい体つきの少女に、俺たちのクラスメイトがまた一人壊されてしまった。


「じゃあ、殺そう」


 躊躇もなかった。

 敵はまたゆっくりと仰向けに寝そべり、人形の頭部を太ももの中に挟み込んだ。壊れた右手を掴んでその太ももの中に閉じこめ、三角締めが完成した。


 ぎゅうううううううッ!


 締め上げる。

 飯塚の顔が鬱血して醜く変貌していく。

 白目になり、舌が口から出て、それでも褐色太ももの締め付けは終わらない。

 むっちむちの太ももに挟まれた飯塚の頭は矮小な存在に墜とされ、強靱な太ももの中にすっぽりと埋もれてしまっていた。


「あ、死んだ」


 淡々と敵が言った。

 彼女は反応を示さなくなった男に容赦をするつもりはないようだった。

 あっけなく殺して、さらに締め付けを継続している。ぎゅうううっという音からベギバギイイイっという音になって、あっという間に飯塚の頭部は太ももの中で潰された。鮮血が舞って、血液で敵の体が汚れる。


「うん。最後はつまらなかったな」


 血塗れになった敵が笑って、飯塚だったものの足を掴んで持ち上げた。

 立ち上がった長身がまるで壁みたいに見えた。彼女はそのまま海に死体をおとし、「おっさかなさん、エサだよ~」とおどけたように言った。


「ふう」


 俺たちに向けられた気だるげな視線。


「それじゃあ、体綺麗にしてもらおうかな」


 命令が・・・・・・。

 俺たちの視線に飛び込んでくる・・・・・・。

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・

 舌が疲れた。


「それじゃあ、また来週」



つづく