会社の中。

 自分のデスクで経理の仕事に集中しようとする。

 しかし、どんなに努力しても、仕事中にもかかわらず「夜」のことを思い出してしまい、頬がゆるんでしまうのを我慢できなかった。

(わがままな巳雪さんっていうのも魅力的だな)

 嗜虐的な笑顔はとても魅力的だった。

 「相談」と称した強制射精も病みつきになりそうで怖くなる。

 けれど、ちゃんと相談するとやはり心が通じ合っていくことが分かった。なんというか、きちんと話し合いをすることで、さらに夫婦としての絆が強まった気がする。こう感じているのが自分だけでなければいいんだけれど……そんなことを思った。

「あいかわらず、尻に敷かれてるって感じだな」

 昼休み。

 ラウンジで愛妻弁当を食べながら巳雪さんのことを考えていると、郷田が軽口を言ってきた。

「別に尻に敷かれてなんていない」

「そうか? 最近のおまえ、心ここにあらずって感じだぞ」

 むしゃむしゃと菓子パンを頬張りながら郷田が言う。

「おまえも男なんだ。もっと男らしく嫁さんにはびしっと言ってやらなきゃダメだぞ」

 独身男がなんか言っている。

 無視すればいいのだろうが、どうにも郷田の言葉が頭にひっかかって仕方ない。

「男らしく、か」

 男らしく。

 たとえばセックスで巳雪さんのことを満足させられたらどんなにいいか……と考えたところで唐突にきづく。これまでの夜の生活は単純に私が搾り取られるだけで終わっている。よく考えてみれば、私は一度も巳雪さんに挿入したことすらなかった。

(考えてみれば、変だよな)

 口か手で搾り取られるだけ。

 その一つ一つがすさまじい技巧であることに違いはないが、セックスが一度もないというのはおかしな気がした。あれだけ積極的に私のことを犯してくる巳雪さんが、セックスだけはしてこないことに、何か理由があるような気がしてくる。

「郷田」

「なんだよ」

「ありがとな」

「は?」

 訳が分からなそうにしている友人を無視して、私は決意していた。相談すればいいのだ。夫婦のことはなんだって相談して解決すればいいのだった。私はさっそく、帰宅した後、巳雪さんに話しをすることにした。



 ●●●



 自宅で食事を終える。

 食卓に二人で座って、テレビを見たり、今日あった出来事について雑談をしていく。ほがらかに笑ってくれる巳雪さんがとにかく美しかった。

(そろそろ、相談してみようか)

 昼間の疑問点。

 私は緊張しながら言った。

「あの、巳雪さん」

「どうしましたか、旦那様?」

「ええとですね」

「はい」

「セックスしませんか?」

「え?」

「セックス、したいです」

 シーンと静まりかえる。

 巳雪さんの呆然とした表情が私に突き刺さってくる。ゴクンと誰かが唾を飲み込んだ。

「あの、旦那様」

 不安そうに。

 瞳をうるうるさせて巳雪さんが言う。

「ひょっとして、ご満足いただけていませんでしたか?」

「え?」

「これまでのわたしじゃ、満足してもらえてなかったんでしょうか」

 これまで。

 フェラや手で搾り取られてきた毎日のことが思いだされる。満足なんてするにきまっていた。けれどそれとこれとは話しが別だった。

(男をみせないと)

 私は言った。

「一つになりたいんです」

「え?」

「巳雪さんと、一つになりたい」

 かああっと、巳雪さんの頬が赤くなる。

 それ以上に私の顔も真っ赤になっているはずだ。目の前の巳雪さんが、ぽろぽろと泣き出した。

「……嬉しい」

 泣いて手で涙をぬぐいながら、巳雪さんが、

「でも、怖いんです」

「怖い?」

「はい。すごく……怖い」

 どういうことだろう?

 私は巳雪さんが落ち着くのを待った。

「……腹上死なんです」

「え?」

「これまでの旦那様の死因は、全員、腹上死なんです。わたしとのセックスの最中に、みなさん死んでしまいました」

 ドクン、と。

 心臓が大きく鳴った。

「わたしの性器は、男性の精を搾り取るために進化しているんです。挿入すると普通では考えられない快感が生まれ、殿方に過剰な負担がかかってしまうようなんです。ずっとずっと、射精しっぱなしですから」

 彼女の下半身に視線が吸い込まれる。

 その場所。

 そこで何人もの男たちが精を搾り取られ、命まで搾り取られてしまったのだ。男の生命を吸収してしまう特別な場所。私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「わたしが腰を振ると旦那様たちはすぐに射精します。その快感は拷問を受けたみたいにひどいものらしくて、旦那様たちは泣き叫びながら果てていきました。わたしも自分をおさえられなくて、泣き叫んで命乞いをする旦那様に容赦なく腰をふるってしまって、それで絞り殺してしまうんです。ダメだと分かっていても何度も腰を振ってしまって、きづいた時には旦那様は死んでいます。まるで干物みたいに体の精気をぜんぶ搾り取ってしまって……殺してしまうんです」

 泣く。

 うるうると瞳にたまった涙がこぼれていく。

「き、嫌いになりましたか?」

 不安そうに巳雪さんが言う。

「こんな怖い女、旦那様も嫌ですよね」

「み、巳雪さん」

「旦那様のことを絞り殺してしまうかもしれないんですもの」

「…………」

「私のような化け物、やっぱり旦那様にはふさわしくない」

 さらに泣き続ける。

 けれど分かったことがあった。

 巳雪さんの自信のなさや、卑屈な態度はこれが原因だったのだ。最愛の人を絞り殺してしまったことに対する罪悪感。これがあるから、巳雪さんはいつも、どこか自信がなさそうに卑屈な態度になっていたのだろう。

(優しい人だ)

 私はそう思った。

 だから、

「大丈夫です」

 なんの根拠もなく、

 笑顔で言った。

「絶対に死にませんから」

「旦那様」

「だからセックスしましょう」

 驚いたように巳雪さんの瞳が見ひらかれる。

 そして、トロンとした瞳で嬉しそうに、コクンと頷いてくれた。



 *



 布団が敷かれる。

 私も巳雪さんも生まれたままの姿になって、体を重ねた。彼女のむきだしのおっぱいによって私の胴体がぐんにゃりと潰され、それだけで頭がおかしくなりそう。

「んむう……じゅるう…ジュパアッ!」

 優しく、丁寧に、それでいて執拗に巳雪さんが私の唇を奪っていく。

 彼女の長い舌が私の口内で暴れている。その快感に耐えられなくて、私は目をぎゅっとつむって、されるがままになってしまった。

「乳首もしますね」 

 彼女が私の乳首を舐め始める。

 もう片方の乳首を人差し指でカリカリしながら、じゅるじゅるっと唾液音をたてながらひたすらに乳首だけを刺激していく。私の口から漏れる喘ぎ声が高くなる。生娘みたいな甲高い声をあげて鳴く私のことを見つめながら、献身的な巳雪さんの責めは終わってくれない。

(愛撫されてる……性感を高められていく)

 これ以上興奮できないほど執拗に、巳雪さんが私の体を責めてくる。

 ハートマークで一杯になった瞳を浮かべ、目の前の獲物に快感という名の毒を送り込むことに集中してしまっている。

(期待しているんだ、巳雪さんも)

 それが分かる。

 彼女もまた、この後のセックスに期待して、発情して、我を忘れている。だからこそ、獲物が逃げないようにねちっこく前座を繰り返す。快感で何も考えられないようになるまで獲物を追い込むのだ。

「旦那様、本当にいいんですか?」

 馬乗りになった巳雪さんが言う。

 発情しきった瞳に若干の心配の感情が浮かんでいる。それでも期待していることは明らかだった。はやく目の前の肉棒を丸飲みしたいと、彼女の全身が訴えかけてきている。

「も、もちろんです」

「でも……」

「巳雪さん、私は絶対に死にません。だから安心してください」

 自信をもって言い切る。

 巳雪さんが顔を真っ赤にして完全に発情モードに入る。彼女の秘部が私の肉棒の先端にあてがわれた。仰向けに倒れた私の下半身にまたがって、「ふうふう」と息を荒くして興奮している捕食者。そんな彼女がなけなしの理性でもって言った。

「限界だったら、すぐに言ってくださいね」

「は、はい」

「絶対ですよ? 無理はしないでください」

 発情しっぱなしの瞳をウルウル潤ませながら言う。

 そんなふうに私のことを心配してくれる女性が、今では全裸でがに股をひらきながら私の亀頭をくわえこもうとしているのだ。そのギャップに、私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「いきます」

 ゆっくりと。

 巳雪さんが腰をおろしていく。

 最初に亀頭が飲み込まれた。

 それだけで「あ、絞られる」という感想が脳裏に走る。

(巳雪さんの……性器……)

 目の前。

 そこには使い込まれていながらも、初々しくもみずみずしい密壷があった。控えめな茂みの中に鎮座しているその場所は、うねうねと蠢きながら獲物を引きずこもうと虎視眈々狙っているように見えた。そんな場所に、私の肉棒が丸飲みされていく。

「ンンッ」

 ゆっくりと巳雪さんが腰を落としていく。

 いきなり腰を深くおとしたりしない。

 おそらく手加減をしてくれているのだろう。少しづつ丸飲みすることで、快感に慣れさせようとしているのだ。じっくり、じっとりと、目の前で私の肉棒が丸飲みされていく。

(食べられていく……私の肉棒が巳雪さんに食べられて……)

 目の前の光景から目がはなせない。

 巳雪さんの秘所がゆっくりと肉棒を丸飲みしていく。蛇が獲物を生きたまま捕食して、獲物の体全体を吸収してしまうような光景に目がくぎ付けになる。亀頭が完全に食べられる。竿の中央付近までじっくりと食べられ、それでも丸飲みは終わらない。ハアハアと興奮した荒い声が漏れる。興奮のドーパミンが砕け散った後、肉棒の異変にはじめて気づいた。

(な、なにこれええええッ!)

 私の肉棒に伝わってくる感触。

 巳雪さんの体内。

 そこは信じられないほど熱く、そしてぐねぐねと蠢いていた。ゆっくりと腰をおとされていくだけなのに、密壷の中ではイソギンチャクみたいな軟体生物が縦横無尽に私の肉棒をレイプしていくのが分かる。それは明らかに男の精液を搾り取るためだけに進化した場所だった。

「ひいいいいいッ!」

 声が漏れてしまう。

 体がガクガクと震える。

 布団のシーツをがっちりとつかんで、なんとか快感を逃そうとする。しかしこの快感をどこかに逃がすなんて不可能だった。私ははやくも後悔し始めた。

(こんなの耐えられるわけない)

 男なら誰だって無理だ。

 我慢するとかしないとか、そういうレベルの話ではない。彼女の密壷の中に挿入されてしまえば、男はただただ巳雪さんに精液を提供するだけのエサに変えられてしまう。そこに意志の強さなんてまるっきし関係なかった。強制的に精液を搾り取られてしまう。そんな格上の存在。私は自分の浅はかさに後悔していた。

「ふう――フウウッ―――」

 私の体の上で一匹の獣が興奮した声をあげている。

 巳雪さんが理性をなくした様子で悶えていた。体をプルプルふるわせながら、恍惚とした表情を浮かべているのだ。その表情を見ただけでどんな男でも発情してしまうような妖艶な雰囲気。巳雪さんが私の肉棒をくわえこみながら、「アアッ」と甘い声をあげている。

「ひさしぶりの、殿方の……んんッ!」

 悶えながら巳雪さんが肉棒を丸飲みしていく。

 ぐねぐねという密壷の蠢きは、信じられないことに奥に引きずりこまれれば引きずりこまれるだけ強さを増していった。もう元に戻れない。そんなことを思いながら、情けないことに限界を思い知る。

「旦那様、すごいです。すごくたくましい」

「あひい……ひいいいッ! 中動かさないでええッ!」

「旦那様の全部が、全部がほしいです。いいですよね、旦那様?」

 待って。

 その制止の言葉は次の瞬間、彼女の桃尻が私の下腹部に勢いよく打ち付けられたことによって砕け散った。

 ぱあんっ!

「ひいいいいいいッ!」

 どっびゅううううううッ!

 びゅっびゅうううううッ!

 情緒もひったくれもなかった。

 彼女の腰が完全に落とされ、体重をかけて私の体に馬乗りになった瞬間、私の肉棒がたまらず射精していた。彼女の体内に強烈な射精を放ち、それがずっと続く。射精と同時に彼女の体内がさらに蠢く。私から一滴も残さず精液を搾り取ろうとしている。獲物がどうなろうが関係ない。巳雪さんの密壷が蠢き、私から精液を奪っていく。

「巳雪しゃあああんんんッ!」

 叫び、暴れる。

 強烈すぎる射精体験で頭が完全に壊されていくのが分かる。

 命の危険を感じてなんとか逃げようと私の体がジタバタと暴れようと、

 パンッ! パアンッ! パンッ!

「あっひいいいいいいいッ!」

 そんな私の抵抗を粉々にするために、巳雪さんが腰を振り始めた。

 そこに優しさやいたわりといったものはどこにもなかった。ただ暴力的に、彼女の巨尻が私の玉袋ごと押しつぶし、肉棒をレイプしていく。

「イってうるううッ! 射精してるからああああッ! 腰ふりやめてええええッ!」

 泣き叫ぶ。

 それでも巳雪さんはやめてくれない。過激で暴力的な腰振りが続く。

「ふふっ」

 笑いながらの腰振りセックス。

 その顔には明らかな愉悦が浮かんでいた。優しそうな笑顔はどこにもなかった。ニンマリとした笑顔はどこからどう見てもサディストのソレだ。

「旦那様、もっとください」

 熱に浮かされた声で巳雪さんが言う。

 いや、本当にこの女性は巳雪さんなのか?

 同じ顔をした別人に思えてならなかった。彼女の本能。理性の下に眠っていた恐ろしい本能に彼女が支配されているように見える。それほどまでに巳雪さんは豹変していた。

「もっとです。もっと」

 パンッ! パアンッ! パンッ!

「もっと……もっと……」

 バアンッ! グッジョンッ! バッチュウウッ!

「もっとよこせ」

 パンパンパンッ! パアアンッ! グッジョオンッ!

 乱暴な口調になった巳雪さんの瞳が怪しく光る。

 明らかに理性がなくなってしまっていた。

 残っているのは彼女の本能だけだ。

 その瞳が悦びに支配されていく。

 腰振りが強くなる。

 亀頭ギリギリまで持ち上げられた巳雪さんの腰が、次の瞬間には私の玉袋ごと肉棒を押し潰す。こんなにも勢いよく腰を振ったら肉棒が抜けてしまうのが普通だろうが、巳雪さんの技量の前ではどんなことでも可能だった。亀頭ギリギリまで持ち上げられて、いっきに根本まで丸飲みにされ、巨尻で潰される。まるで彼女の巨尻によって餅つきでもされているみたいだった。その大きなお尻は男の小さな体なんて簡単に制圧してしまう。信じられない速度で腰が振るわれ、私の体がぺちゃんこにされる。床に縫いつけにされたまま、毎秒ごとのピストンで肉棒をレイプされていった。

「あっひいいいいいいいッ!」

 射精が終わらない。

 射精途中でも容赦のない腰振りで、精液の爆発が終わる気配を見せなかった。これは明らかにおかしい。普通だったら空っぽになっていておかしくないのに、私の肉棒からは子種が搾り取られていく。

(命が……消えて……)

 自分の命を精液に変えられている。

 私の大切なものがすべて奪われていく。

 私の体にまたがって腰を振っていく女性にぜんぶ奪われていくのだ。中出しをして種付けをしているはずの男が、なすすべもなく絞り殺されようとしていた。

「死んじゅううううッ! たすけてえええッ!」

「ふふっ……もっと……もっと……」

「だめえええ! 死んじゃうからあああッ! もう搾り取らないでええええッ!」

「…………」

「腹上死しちゃうからあああッ! 腹上死しちゃいますからあああッ! もうやめてくださいいいいいッ!」

 泣き叫ぶ。

 もうやめてほしくて。

 殺されたくなくて。

 滑稽な命乞いで巳雪さんに懇願する。

「うるさい」

「むぐううッ!」

 けれど無駄だった。

 本能むきだしになった巳雪さんが私の顔面に覆い被さってくる。彼女の巨大な生乳が私の顔面を生き埋めにして黙らせ、腰だけを豪快に動かしていく。

「うふっ、勢いがすごくなった」

「むううううううッ!」

「このまま搾り取る」

 パンパンパンッ!

 グリンッ! グリグリッ!

 腰振りだけでなく、回転まで加わる。

 射精の勢いが強くなる。

 搾り取られていく。

 命が子種に変えられて永遠に搾り取られていく。

(死ぬ……このままじゃ、本当に……)

 けれど、どうにもならない。

 心のどこかであきらめが生まれる。

 自分よりも上位の存在に捕食していただく快感が頭を支配していく。あまりにも快感の激痛がすさまじくて、この拷問みたいな搾精を正当化したくて、そんな考えが頭を支配していく。巳雪さんのような美しい生物に絞り殺される。彼女の養分となって、彼女の一部になる。それはどんなに幸せなことだろう。これ以上ないくらいの一体化。巳雪さんと一つになれるのだ。これ以上の幸せはありえないことが分かる。

(でも、それだと……)

 巳雪さんが悲しむ。

 私のことを絞り殺した後、理性を取り戻した巳雪さんがどれほど悲しむか。それが手にとるようにわかった。

(ダメだ……それだけは……ダメだ)

 約束したんだ。

 死なない。絶対に、巳雪さんを一人で残したりしない。

(巳雪さん)

 腰振りを続ける巳雪さんの背中をぎゅうっと抱きしめる。

 なんのためかはわからない。けれど愛情をこめて彼女の背中を抱きしめ、その背中を撫でた。その間もずっと腰振りは続き、私の精液が搾り取られていく。意識がなくなるまで、ずっと彼女の体を抱きしめ、絶対に死なないとそんな決意だけをもったまま、最後には意識を失った。



 *



「…………さま……」

 声が聞こえる。

 誰かが私のことを心配している。

 必死の問いかけがどこか遠くから聞こえてくる。

「旦…さま……」

 意識が戻る。

 目の前で巳雪さんが泣いていた。

「旦那様ッ!」

 大きな声で完全に覚醒する。

 体中の力が抜けていて指一本動かせない。視線だけを動かして巳雪さんのボロボロと泣きっぱなしの表情を見上げた。

「ね、大丈夫だったでしょ?」

 精一杯の強がり。

 笑おうとして、その瞬間、表情を動かすこともできないほど消耗していることに気づく。

「旦那様……生きて……」

「あたりまですよ。約束したじゃないですか。巳雪さんを一人で残したりしない。絶対に死なないって」

 ぽろぽろと巳雪さんの涙が私の顔に垂れてくる。

 罪悪感に染まったその表情。

 あやうく絞り殺しそうになってしまって、巳雪さんが自分のことを責めてしまっている。巳雪さんを不安にさせている。そのことがどうしても許せなかった。

「巳雪さん」

 今度こそニッコリ笑って、私は精一杯の虚勢をはって言った。

「すごく気持ちよかったです」

「……旦那様」

「またセックスしましょうね」

 巳雪さんの瞳からうるうると涙がこぼれる。

 それ以上言葉は必要なかった。

 謝罪の言葉とか、自分のことを責める言葉とか、そういったものをすべて飲み込んで、巳雪さんがニッコリ笑った。

「はい、旦那様」

 抱きついてくる。

 私の精液を搾り取って、ますます魅力的に力を増した巳雪さんの体。その極上の女体にぎゅううっと力強く抱きしめられて、優しいキスが唇をついばむ。

「旦那様……私の旦那様」

「巳雪さん」

「ぜったいに放しませんから。ぜったいに旦那様にふさわしい女になりますから。だから、一生、おそばにいさせてください」

 うわごとのように言う。

 疲れていたのか、巳雪さんはそのまま眠ってしまった。私も気だるげな雰囲気と全身の倦怠感に包まれたまま、再び意識を手放そうとする。

「愛しています、巳雪さん」

 だから、

「幸せになりましょう」

 私もぎゅっと巳雪さんを抱きしめる。

 二人で一つになって、私たち夫婦は一緒に眠りへと落ちていった。


つづく