夜がすぎれば朝がくる。

 太陽の光で目覚めると、トントントンと包丁をふるう音が聞こえてきた。これまで長年ずっと一人だったので、朝起きた時に誰かがいるという感覚は妙なものだった。けれども心が暖かくなるのを感じた。

「おはよう、巳雪さん」

「おはようございます、旦那様」

 台所で朝ご飯の準備をしていた巳雪さんがにっこりとあいさつをしてくれる。

 エプロン姿の彼女はどこまでも家庭的な女性にしか見えなかった。とても夜通し私のことを快楽地獄におとしこみ、さんざんに精液を搾り取ってきた女性と同一人物とは思えない。

(体がめちゃくちゃに疲れてるな)

 自分の体調を確認してそう思う。

 毎日、さんざんに搾り取られているのだ。体力の限界がおとずれても仕方のないことだろう。

(でも、だいぶ慣れてきたのかも)

 山の中で最初に出会った時には昼まで寝過ごしていたが、今ではそのようなこともなくなっていた。体が順応しているのだろう。彼女に精子を提供するために最適な体になっている……いや、そのような調教されている。それが分かった。

「いただきます」

 食卓に並んだ食事を前にして手をあわせる。

 朝からとんでもない量だった。

 焼き魚や納豆など、たんぱく質が豊富な食材が並ぶ。もともと私は小食なのだが、巳雪さんがつくってくれる食事はどれもおいしくて、全部食べることができた。昼ご飯も彼女がつくった特性の弁当。栄養豊富なご飯を食べていることも、あれだけ毎日搾り取られても私の健康が損なわれない理由なのかもしれない。

「おいしい」

 思わず声がもれる。

 それを聞いて巳雪さんが嬉しそうに笑った。

「おかわりはたくさんありますからね」

「ありがとうございます。お米もすごくふっくらして甘みがありますね」

「土鍋で炊いてみました。本当なら薪で炊いたほうがもっとおいしくなるんですが」

 確かに巳雪さんの山の中の実家で食べたお米はおいしかった。けれど目の前にあるお米だってまったく引けをとらない。私はこれまでの小食が嘘だったようにパクパクと食べていった。

「ふふっ」

 そんな私のことを巳雪さんが幸せそうに見つめていた。彼女の箸はまったく動いていなかった。それもそのはずで、巳雪さんの目の前にはほんの少しのご飯しかないのだ。

「あの、巳雪さん」

「はい」

「本当にそれだけで足りるんですか?」

 いつもながら疑問に思う。

 彼女はほんの少しの食物しか口にしなかった。私だけおいしいご飯をたくさん食べさせてもらって、なんだか申し訳ない気持ちになる。

「お気遣いありがとうございます、旦那様」

 にっこりと巳雪さんが笑って、

「けれど本当にこれで大丈夫なのです。恥ずかしながら、普通の食事では十分な栄養をとることができない体なので」

 それに、と。

 巳雪さんが自分のお腹を片手でさすりながら、

「昨日の夜、十分にお食事はいただきました。旦那様から、とってもおいしい食事を」

 ねっとりと絡みつくような甘い声色。

 彼女の視線もトロンと溶けたようになって目の前の私のことを見つめてくる。おそらく昨日の夜のことを思い出しているのだろう。甘い匂いが強くなり、明らかに発情しているのが分かった。

「そ、それなら、いいんですが」

 しどろもどろになって私は言う。

 彼女が嬉しそうに笑いながら、そんな私のことを見つめてくる。私は盛大に勃起してしまった肉棒を納めようと無駄な努力をしながら、朝ご飯を食べていく。すぐに食べ終わり、身支度を整えたら、もう出社の時間だ。

「行ってらっしゃいませ、旦那様」

 玄関。

 床で膝をつき、三つ指をついて頭を下げた巳雪さんが言う。朝の日課になった光景。そんなことしなくてもいいですといくら言っても巳雪さんは聞いてくれなかった。しかも朝の日課はこれだけではないのだ。

「……旦那様」

 立ち上がった巳雪さんが憂いを帯びた瞳で私のことを見下ろしてくる。

 情念に満ちた情熱的な視線。夫を亡くしたばかりの未亡人だって浮かべることができないほどのねっとりとした憂いを帯びた表情で見つめられるだけで、私は身動きすらとれなくなる。巳雪さんが近づいてくる。そのまま、ぎゅううっと、抱きしめられた。

(や、やわらかいいい)

 何度抱きしめられても慣れることはない。

 身長差から、ちょうど私の顔のあたりにある巳雪さんの爆乳。色白でありながら野性味にあふれた乳肉の暴力が、容赦なく私の理性をブン殴ってくる。力強い抱擁。しかも、それだけではない。

「旦那様、んんッ」

 巳雪さんが自分の体をぐりぐりと動かす。

 その極上の女体を私の体にすりつけてくるのだ。おっぱいだけではなく、彼女のお腹やムチムチの太もも、ひきしまったふくらはぎが私の体におしつけられる。さらに激しく、巳雪さんの長い足が私の股の間に押し入ってきて、絡めとられてしまった。まるで白蛇に捕まってとぐろをまかれてしまった獲物のよう。完全密着のまま、執拗に、執拗に、巳雪さんが体をすりつけてくる。

「あひん……ひいん……」

 こうなってはもうダメだ。

 私は巳雪さんの匂いとフェロモンで喘ぐだけになる。おっぱいに顔を生き埋めにされながら全身を愛撫される。これが朝の日課のマーキングだった。自分の匂いを私につけてほかの雌が寄りつかないように警告しているのだ。私が一人で外出する時には、彼女は常にこうして執拗にマーキングした。こんなことをしなくても私のことを狙う女性なんているわけがないのに、巳雪さんは容赦をしなかった。朝、出勤前になるとひたすら私のことを抱きしめ、自分の匂いとフェロモンをすりつけてくる。こうされると一日中巳雪さんに抱きしめられているみたいに感じられて、ずっと発情したままになってしまう。それは困ると言っても巳雪さんは聞いてくれない。温厚で従順な良妻賢母の巳雪さんではあったが、私のことを独占するということにかけては、一切の妥協をしてくれなかった。

「旦那様」

 私の顔面がようやく乳肉生き埋め天国から解放される。

 おっぱいの谷間に首をすっぽり生き埋めにされながらも、顔面だけが外に出される。久しぶりの新鮮な空気。さきほどまで吸っていた甘い媚薬じみた巳雪さんの体臭の余韻を感じながら、私はハアハアと息を荒くするしかない。

「好きです」

 しっとりと艶やかな色気をふりまいて、巳雪さんの顔が近づいてくる。

 私の視界に彼女のぷっくらとふくらんだ唇が迫る。

 彼女がしようとしていることに気づいて慌てた。それはダメだ。朝からそんなことをされてタダですむわけがない。体をじたばた暴れさせて逃げようとする。けれどもビクともしないのだ。彼女の大きな体に絡め取られて、情熱的に抱きしめられ、首をおっぱいの間で挟まれてしまっては、逃げることなんてできるわけがないのだった。

「あ、だ、だめ」

 生娘みたいな声をあげる。

 それには無頓着に巳雪さんが大きく口をあけた。その中で蠢いている長く肉厚な舌が見えた瞬間、私の唇が捕食された。

「あひいいいいッ!」

 思わず声が漏れ、体が快感で痙攣する。

 巳雪さんの唇が私の唇に押しつけられる。そのぷっくらとした感触だけでもダメなのに、すぐに彼女の長い舌が蹂躙を始める。巳雪さんの舌が繊細に動いて私のきもちのよいところを重点的に刺激する。すでに私の口内のことは巳雪さんのほうが詳しい。すぐに体がビクンビクンと痙攣するだけになり、私の口からは「あひん、あひん」と喘ぎ声があがった。逃げようとする意識すら捕食されてしまい、私の体はダランと脱力して、白蛇に抱きしめ潰され、永遠とベロチューで犯されるだけになる。

「ずっぼおおおおッ!」

 抵抗がなくなったのをいいことに巳雪さんの暴走が終わらない。

 私の舌が勢いよく吸引され、巳雪さんの口の中に引きずりこまれてしまう。どろりと濡れた彼女の口の中。その底なし沼みたいな巳雪さんの口の中で、舌がフェラされていく。頬肉と頬肉が私の舌を左右から挟み込んでドロドロに溶かす。彼女の舌が私の舌を舐めとってクネクネと蠢く。その感触で頭がバカになり、体が完全に脱力した。ずりおちそうになる体を巳雪さんに強引に抱きしめられながら、永遠と唇を奪われる。

「……んんッ」

 名残惜しそうに。

 巳雪さんがゆっくりと唇を放した。

 私と巳雪さんの口と口に涎の橋がかかる。激しいベロチューの余韻。巳雪さんが、その大きなおっぱいで私を潰しながら、至近距離から私の惚けた顔を見下ろしている。憂いを帯びた表情がどこまでも妖艶だった。

「……旦那様」

 ねっとりと。

 私の脳髄を溶かしてしまうような甘い声で、

「はやく帰ってきてくださいね」

「ヒインッ」

「帰ってきたら、すぐに続きをしましょう」

「あひん……ひいッ……」

「今のように加減をしたキスではない、わたしの本気のディープキスで、旦那様のこと夢心地にしてさしあげます」

 最後にぎゅうううっと抱きしめられる。

 私は巳雪さんの声と体で骨抜きにされて、歩けるように回復するまで、そのままずっと彼女の大きな体に抱き潰されたままだった。



 ●●●



 会社でも巳雪さんのことだけを考えている。

 仕事途中でも関係がない。

 少しでも集中力がとぎれれば、巳雪さんの過激な責めを思い出してしまう。今朝のディープキスの感触は今も唇に残っている。かなり時間がたっているのに、ただよってくる巳雪さんの匂いによって、ずっと興奮しっぱなしだった。

(体中に……巳雪さんの匂いが……)

 どんな極上の香水だって、ここまでいい匂いはしないだろう。

 嗅ぐだけでトロンと麻痺してしまうような甘い匂い。それが私の体中に付着していて、ずっと私の理性をドロドロに溶かしていく。まるで今も巳雪さんに抱きしめられているような感覚。私は昼休みになっても消えてくれない巳雪さんのフェロモン地獄によってずっと興奮していた。

「……昼食にしよう」

 巳雪さんに準備してもらった弁当箱をひらく。

 なんというか豪勢な食事の宝石箱といった感じだ。たんぱく質が中心ではあってもきちんと栄養バランスが考えられているのが分かる。鉄分多めのほうれん草のお浸しなんて湯で加減も味つけもばっちりだ。魔法瓶にはシジミの味噌汁も入っていて、疲れた体にはありがたかった。

「おいおい、精がつくもんばかりじゃねえか」

 ダミ声の男の声がして振り向く。

 そこには同期の郷田が立っていた。

 社内にいる数少ない友人。年相応に腹が出て貫禄が出てきた男が、私の弁当箱をのぞいて感心したように笑っている。

「今でもまだ信じられねえよ。おまえが結婚しただなんてな」

 隣の席に勝手に座って郷田が言った。

 テカテカと油ぎって日焼けした肌がいまいましい。私は黙々と食事を続けながら、

「なにを今更。婚姻届けの証人欄、君に書いてもらっただろうに」

「ああ、確かにな。あの時にはついにおまえの頭がおかしくなったと思ったよ。山のぼってたら女に会ってそのまま結婚することになったとか、いったいどこの日本昔話しだってな」

 がははっと豪快に笑う。

 粗野な態度だが妙に憎めない。さすがは営業畑で、社内でも抜け目なく出世の道を進んでいる男だけはある。私とは大違いだ。

「なあ、夜、久しぶりに一杯どうだ?」

「なんだよ急に」

「いやなあに、部下と飲む約束だったんだが、あいつ今朝になってドタキャンしてきてな。ちょうどあいてるんだよ」

「面倒見のいいおまえが振られるなんて、珍しいこともあるじゃないか」

「まあ時代だよ。俺たちだってもうオジさんなんだ。大学卒業したての連中なんて宇宙人みたいなもんさ。今日約束してた奴だって長身でイケメンのヤリチン野郎でなあ、社内ではやくも女性社員に手を出してはヤリ捨ててるとんでもない奴なんだが、いかんせん、そういう奴のほうが仕事はできるんだよな」

「世も末だな」

「まったくだ。今日だってなあ、ヤリチン野郎はセフレが一人壊れて調達する必要があるからって、上司である俺の誘いをドタキャンしたんだぜ? 信じられるかよ、おい」

 やれやれとため息をつく郷田だった。

 それでも心の底から呆れている様子はなかった。なんだかんだで面倒見のいい奴なのだ。だからこそ、こんな人付き合いの少ない私みたいな奴とも交流が続くのだろう。

「それで、どうなんだよ、おい」

 郷田が身を乗り出して言った。

 酒の誘い。

 今日の夜。

 とたんに巳雪さんの甘い匂いが強くなった気がした。

「きょ、今日は……ダメだ」

 私はビクンと体を震わせながら言った。

「なんだよ、つれないなあ、おい」

「いや、巳雪さん……家内が、はやく帰ってきてほしいって、今朝言ってたんだよ」

 郷田が「はあ」とため息をついた。

「あーあ、おまえも嫁さんの尻に敷かれちまったってことか」

「ち、違うよ。そんなんじゃ」

「まあいいや。また今度飲もうぜ」

 じゃあな。

 そう言って郷田は去っていった。

 私はなおも強くただよってくる巳雪さんの匂いにビクンと体を震わせ、彼女につくってもらった昼食をひたすら食べていった。



 *



 定時になる。

 すぐに帰宅した。

 何かに追われるように家路を走る。ハアハアと息が荒くなっている。下半身が熱くなって仕方なかった。頭の中には巳雪さんだけが浮かんで消えてくれない。

『はやく帰ってきてくださいね』

 巳雪さんの声が脳裏でよみがえる。

『はやく続きをしましょう』

 体が彼女を求めてしまう。

 欲求不満で手が震える。

 はやく帰りたい。電車のノロさに苛立つ。ようやくアパートのドアに到着した時には、汗だくになってしまっていた。

「はあはあ」

 息を整える。

 曲がっていたネクタイをなおす。

 鍵をあけて「ただいま」と声をかけながら家に入った。

「おかえりなさいませ、旦那様」

 巳雪さん。

 仕事中もずっと脳裏から離れなかった、私の妻だ。

 私の体につけられた匂いとは比べものにならないほどの甘い匂いで頭を殴られる。玄関の床に膝まづき、三つ指をついて頭を下げている長身の女性。かがみこんだせいで、その大きすぎるおっぱいの谷間が露骨に性的なアピールをしている。彼女を前にしただけで、私は盛大に勃起してしまった。

「ふふっ」

 巳雪さんが優しげに笑う。

 その視線が一瞬、私の股間を情熱的に見つめ、すぐに彼女が立ち上がった。

「う、ああ」

 立ち上がった彼女の迫力はすさまじかった。

 大きな体。

 彼女の肌は赤ん坊よりもきめ細かく、もちもちの極上の肉感であることが見ているだけで分かった。衣服からこぼれている大きなおっぱいで圧倒される。腰がありえないほど細くてくびれており、巨大なお尻とムチムチの長い足によってトドメをさされる。

 極上の女体。

 私の精を受けて魔性の体がさらに成長している。もやっとしたピンク色の水蒸気みたいなものが彼女の体から立ちあがっていて、巳雪さんが欲情しているのが分かった。

「はやく帰ってきてくれて嬉しいです、旦那様」

 彼女が近づいてくる。

 憂いを帯びた表情が若干和らいでいる。かわりに今の彼女にあるのはハートマークになって潤みっぱなしの瞳だ。その視線が私のことを見下ろしたまま放してくれなかった。

「う」

 声も出せない。

 巳雪さんがぐいっと私の体に密着してくる。彼女はそのまま私の背後へと手を伸ばし、内鍵をガチャンと閉めた。その音がどこまでも象徴的に響いた気がした。閉じこめられてしまった。もう逃げられない。これから私は、目の前の女性に犯されるんだ。

「お待ちしておりました」

 彼女の腕が私の体に絡みつく。

 大きなおっぱいが私の胴体を潰す。

 その天国みたいな柔らかさではやくも腰が抜けてしまう。ハアハアと息を荒くするしかない。その間にも、彼女の太ももがぐいっと私の股間に入ってきた。私の背中には玄関のドア。そこに押しつけられ、圧迫されながら、彼女のねっとりした声で溶かされる。

「寂しかったです、すごく」

 さわさわと巳雪さんが私の体を撫でる。

「ずっと旦那様のことを考えていました。一瞬たりとも旦那様のことを考えていない時間はありませんでした」

 片手で頭を撫でられ、もう片方の手で背中を撫でられる。その感触だけで「ふわあ」と甘い声が漏れてしまった。

「時間がたつのが遅くて、はやく旦那様が帰ってこないかなと、そんなことばかり考えていました」

 彼女の太ももが私の股間をぐいぐいと圧迫してくる。そのムチムチの太ももによって私の体が下から持ち上げられ、足が地面につかなくなってしまった。

「だから、旦那様がはやく帰ってきてくれて、わたし、本当にうれしいんです」

 彼女の顔が迫ってくる。

 同じ視線の高さになった巳雪さんから見つめられる。

「つづき、しましょうね」

 ねっとりとした声。

 それだけで体がビクンと震えた。

「朝、約束しましたよね。続きは本気のベロチューです」

「あ、あひ」

「朝にやってしまうと旦那様が会社に行けなくなってしまう本気のベロチュー……ふふっ、ぜったい旦那様のことを満足させてみせます」

 いきますね?

 彼女が口をあけ、見せつけてくる。

 舌。

 彼女の長くて、肉厚な舌が目の前に迫ってくる。その迫力にごくりと生唾をのむ。これから自分はこの舌で犯されるんだ。そう思い知らされ、体が逃げようとするのだが、全身をみっちりと抱きしめられているので身動き一つとれない。

「んふっ」

 ゆっくりと近づいてくる。

 彼女の長い舌が、まるで蛇が獲物を前にして舌をクネクネさせるみたいに動く。そんな光景に見入っていると、勢いよく唇が奪われた。

「じゅるうッ! ジュバアアアッ! じゅるううッ!」

 暴れている。

 さきほど見せつけられたあの舌が、私の口の中で蠢き、私のことを快楽地獄に叩きおとしていく。

(た、食べられちゃってるうううう)

 捕食されている。

 私の中の大事なものが巳雪さんに食べられているのが分かる。巳雪さんが私の口から涎を奪い取ってゴクンゴクンと飲んでいく。私の唾なんかを飲んでいるのに、目の前の巳雪さんはすごく幸せそうな表情を浮かべている。潤みきった瞳で私の痴態を逃さず観察している彼女の姿に心を奪われ、ひたすらに唇を奪われていく。

「いかがでしたか、旦那様」

 長い時間が経過して、ようやく巳雪さんが解放してくれた。鼻息すら感じられるほどの至近距離から、彼女にまじまじと見下ろされる。

「わたしの本気、満足していただけましたか?」

 不安そうな巳雪さんの表情。

 私はなんとか口をひらいた。

「は、はひ……す、すごい……すごかったです」

「本当ですか?」

「ほ、本当に……き、気持ちよすぎて、こ、腰抜けちゃいました」

 巳雪さんの大きな体に抱きしめられ、宙づりにされながら、こちらを見下ろしてくる彼女にむかって率直な言葉を口にする。

「うれしい」

 感極まったように。

 巳雪さんがポロポロと涙を流しながら言う。

「そんなこと言われたの初めてです」

 ぎゅうううっと抱きしめられた。

 絶対に逃がさない。そう宣言されているみたいな熱い抱擁。

「旦那様がよろしければ、このまま1時間だって2時間だって、続けましょう」

「あひんッ!」

「わたしの本気のベロチューで旦那様の理性をドロドロに溶かしてさしあげます」

 じいいいっと、巳雪さんの視線が私に突き刺さる。

 その視線に耐えられない。私はまるで生娘みたいに、ぎゅっと目をつむって、唇を突き出した。

「だ、旦那様」

 巳雪さんの吐息がハアハアと荒くなった。

 熱い抱擁の力も増してすぐに唇を奪われる。

「んっむううううッ!」

 ぶちゅううううッ!

 暴力的に口内がレイプされる。

 悶え苦しむ。

 口の中が犯されていくのが分かる。

 朝とは比べものにならないほどの激しさ。歯茎や喉の奥までまんべんなく舐められ、愛撫され、荒々しくレイプされていく。

(息が…………)

 激しすぎて息ができない。

 苦しい。

 苦しいのにきもちい。

 その二重苦で新しい快感が体に刻まれていく。巳雪さんの舌が荒々しく動く。私の股間に差し込まれた彼女の太ももがグリグリと肉棒を刺激していく。彼女の魔性の手が、私の体という体のすべてを撫でまわし、性感を高めていった。

(だ、だめ……これ、無理)

 限界が近づく。

 体がビクンビクンと痙攣する。

 白目をむいて黒目がグリングリンと動きまわる。

 酸欠で頭がぼおっとして、

 なにも、

 考えることも、

 できないまま、

 キスだけで、

 射、

「ダメですよ旦那様」

「あひん」

 あと一瞬でもキスされていたら射精した。

 その絶妙のタイミングで巳雪さんが唇を放した。

 射精のタイミングを完全に把握されてしまっている。私の体のことは巳雪さんのほうがよく分かっているのだ。支配されていると感じて私はビクンと震えた。

「お射精する時は、わたしの体にお願いします」

「あ、あひい……ひいん……」

「旦那様には常に極上の射精体験をしていただきたいんです。身も心も溶けてなくなってしまうほどの快感で、旦那様のことを骨抜きにしてさしあげます」

 巳雪さんが私の体を撫でながら囁く。

 もうすでに骨抜きにされている。私は巳雪さんの大きな体に抱きしめられ、その豊満な女体に埋もれながらアヒアヒ悶えるだけの猿になってしまっていた。

「ふふ、服脱がしちゃいますね」

 巳雪さんが笑って、私の衣服を剥ぎとり始める。

 明らかに慣れている。

 男の衣服を脱がすことに熟練しているのが分かる動く。抱きしめられ、宙づりにされながら、あっという間に上着を脱がされ、ズボンのベルトもはずされて、全裸に剥かれてしまった。

「旦那様、立てますか?」

「ひい……あひい……こ、腰抜けて」

「立てませんか?」

「ご、ごめんなさい」

 ガクガク体が震えて力が入らない。

 全身が脱力してしまって巳雪さんの体に身を任せるだけの情けない状況。それなのに、巳雪さんは優しく笑ってくれた。

「大丈夫ですよ。わたしに任せてください」

「み、巳雪さん」

「わたしが支えてあげますからね。旦那様は快感に身をゆだねてください」

 すべてを許してくれるような慈愛に満ちた表情で心が暖かくなる。ガクガク震える体で情けなくコクンとうなずく。巳雪さんが聖母みたいな笑顔で答えてくれて、次の瞬間に悪魔になった。

「ひいいいいいッ」

 蛇が獲物に襲いかかるみたいに。

 巳雪さんがかがんで膝立ちになったかと思うと、そのままがっちりと私の腰をかかえて強引に支えてきた。巳雪さんに抱きしめられた私はプルプル震えるだけになる。怯えながら下を向くと、そこには私の肉棒を目の前にして発情している大蛇がいた。

「おいしそう」

「ひいいいッ! ひいいいいッ!」

「いただきますね?」

 巳雪さんが大きく口をあけた。獲物を丸飲みする白い大蛇。獲物である私はそのまま丸飲みにされた。

「ジュッボオオオオッ!」

「ああああああああッ!」

 根本まで勢いよく食べられてしまった。

 ぐじょぐじょと涎たっぷりな口内で肉棒が愛撫される。舌が蠢きまわって私の弱点を重点的に責めなぶってくる。目の前がチカチカして、快感のあまりずり落ちてしまいそうになるのだが、巳雪さんに下半身を熱烈に抱きしめられているせいでそれも許されなかった。

「あひいいんンッ!」

 私は立っていて、巳雪さんは膝まづいている。

 本来ならば私のほうが立場が上で麗しき女性に性のご奉仕を強要しているような格好。けれども逆だった。立っている私が、膝まづいている女性に食べられている。責められ、犯されている。それを嫌でも分からされた。

「ぐぼおっ……じゅるうぐっぼ……」

「あひん……ひいん……」

 巳雪さんの凶悪なお口が躍動する。

 頬をすぼめて、私の肉棒を頬肉と頬肉でサンドイッチにしながらピストンを開始する。根本まで丸飲みされて、私の肉棒のすべてが巳雪さんの口と喉の中に吸い込まれる。根本どころか私の下半身ごと丸飲みするような勢い―――次の瞬間にはズルズルと巳雪さんの顔が持ち上がっていき、亀頭だけが唇に頬張られてグリグリされる。彼女のぷっくりとした肉厚な唇によって亀頭全体が愛撫されて悶絶してしまう。それが終わるとまたしても根本までピストンされて―――それが繰り返される。

「ひいん……あひん……」

 卓越したフェラチオ。

 喉奥深くまで肉棒を飲み込んで行われる献身的なご奉仕。本来ならば雄としての優越感で興奮する場面だろう。しかし巳雪さんの底なし沼みたいな喉奥に引きずり込まれる恐怖と、強すぎる快感によって、捕食されて食べられているという感覚しかなかった。

「ジュボオオッ……じゅるっじゅっぼ……」

 ピストンがゆっくりと続けられる。 

 勢いよく乱暴な感じではない。

 一瞬で射精させないように注意していることが分かる優しいフェラチオ。私が簡単に射精しないように手心が加えられているのだ。こんなにも凄まじいフェラチオなのにまだ巳雪さんは手加減をしている。そのことが脳髄に響くような快感をもたらした。

「んふっ」

 巳雪さんが笑いながら私のことを見上げてくる。

 喉奥まで私の肉棒をくわえこんでいるのに苦しそうな様子をまったく見せないまま、余裕の笑顔でフェラチオを続けている。私が「あひあひ」悶えている姿を上目づかいで見上げ、堪能しながら、底なし沼みたいなフェラチオを繰り返してくる。

(おがじぐなるううッ! おがじくなっちゃうううッ!)

 手加減をされているので射精できない。

 それなのに肉棒には限界ぎりぎりの快感がずっと続いている。体がなんとかこの快楽地獄から逃げようと暴れるのだが、巳雪さんの両腕が私の腰を力強く抱きしめているせいで逃げることも許されない。生きたまま丸飲みされて食べられていく。少しづつ体が捕食され、消化されていくのだ。私は発狂しそうになった。

「い、イがぜでえええッ」

 膝まづいた女性に懇願する。

「み、巳雪しゃん、も、もう無理だからああ」

「…………」

「しゃ、射精させてくだしゃいいいッ! お願いしますうう……射精させてえええ」

 必死にお願いする。

 それなのに巳雪さんはニッコリと笑顔を浮かべて、

「ガッボオオッ……じゅるごっぼおお……」

「あひいいいんんッ!」

 生殺しフェラチオを続けてしまった。

 ニッコリと慈愛に満ちた笑顔で私のことを見上げながら、男殺しの丸飲みフェラチオで、射精を許さず、獲物に致死性の快楽毒を送り込んでくる。

「イがじぇでくだじゃいいいいいッ!」

 ぽろぽろと涙が出てくる。

 それが巳雪さんの顔にぽたぽたと垂れる。

 巳雪さんがイタズラに成功した幼児のように純真無垢に笑った。

「んふっ♪」

 その瞳が「いじわるをして申し訳ありません」と語っている。

 次の瞬間、慈愛に満ちた笑顔が、悪魔娼婦のように輝いた。

「ジュボオッ! ジュブウッ!」

 暴力的なピストンが始まる。

 これまでの生殺しのフェラチオではない。

 勢いよく頬肉と頬肉で肉棒をミンチにして乱暴に続けられるフェラチオ。私の腰を殴打するみたいに巳雪さんの美しい顔が私の腰を叩きつけていく。

「ひゃあああああッ!」

 ひとたまりもなかった。

 これに耐えられる男なんているわけがない。

 巳雪さんの顔が視認できないほどの速さでピストンを続けていく。射精させてほしいなんて懇願しないほうがよかった。そう後悔するほど熱烈な責め。ガクガクと震え、すぐに限界をむかえた。

「イぎまじゅうううッ!」

 どっびゅううううううッ!

 びゅっびゅうううううッ!

 射精する。

 命を吐き出すみたいな熱烈な射精。

 巳雪さんが最後の瞬間にこれまで以上に喉奥まで肉棒をくわえこむ。彼女の喉奥で命を搾り取られてしまう。ガクガクと震えながら射精するだけ。なにも考えられない極上の射精体験。こんなのを知ってしまったらもう逃げられない。自分よりも上位の存在に丸飲みされているという被虐の快感とあいまって、いつまでも射精が終わらなかった。

「んんふっ……じゅるじゅるうッ!」

 ようやく射精が弱まると最後の仕上げが始まる。

 ゆっくりと、真綿で首を絞めるように。

 巳雪さんが私の肉棒を丸飲みしたまま、じっくりとしゃぶっていく。じゅぶじゅぶと、ナメクジが這うみたいな緩慢さで、私の肉棒を頬肉でしこり、尿道に残った精液を一滴残らず搾り取っていく。にっこりと笑った彼女が、最後に唇で亀頭だけをくわえこみ、チュウルルッと吸い始める。その間も尿道には彼女の魔性の舌が這いまわっており、刺激を加えるのを止めてくれない。尿道の中の精液一滴たりとも逃がさない。そんな執拗さで、巳雪さんが亀頭だけをバキュームして、ようやく「ジュボンッ」という音をたてて肉棒を解放してくれた。

「んふっ」

 巳雪さんが妖艶に笑った。

 彼女が口の中に溜まった私の精液をころころと舌で転がし始める。いつものように堪能しているのだ。搾り取った私の精液を味わって恍惚とした表情を浮かべている巳雪さんの姿は、どこまでも妖艶だった。

「ふふっ」

 巳雪さんが大きく口をひらいてきた。

 口の中で大量に溜まった精液が目に飛び込んでくる。ピンク色の歯茎や長い舌に絡まった子種を見て「ああ、搾り取られてしまったんだ」とガクガク震えた。

「ゴクンッ!」

 巳雪さんが私の子種を飲み込んだ。

 いつものように一飲みですべて丸飲みされてしまった。私はアヒアヒ悶えることしかできない。

「ふふっ、ごちそうさまでした」

 巳雪さんが私を見下ろしながら言う。

「旦那様の精液、とてもおいしかったです」

「あひ、あひい」

「すごい力がわいてくるんです。旦那様の子種をいただくと、力が増していくのが分かります」

 片手でお腹をさすりながらの言葉。

 そのお腹の中で今も消化されている私のDNA情報たち。吸収されてしまった私の大事な子種たちが、彼女の胃の中で栄養にされて、巳雪さんの活力に変換されているのが分かる。

「それでは、夕ご飯の準備をしてきますね」

 にっこりと巳雪さんが笑った。

「それまでお休みください」

 巳雪さんが立ち去る。

 私は完全に腰が抜けて、玄関の床の上でアヒアヒと喘ぎながら悶え続けた。




つづく