卒業試験当日。

 その日をむかえた斎藤は、やはりそれなり緊張していた。

 中等部卒業をかけたテスト。

 それに合格できなければ高等部に進学することができない。

 高等部に進学できなかったものがどのような結果になるのかは誰にも分らない。

 卒業試験に不合格になった者についての情報は、いくら調べても知ることができないものだった。

 それが一抹の不安を呼び寄せ、卒業試験に不合格になった者の情報が知れないということは全員が卒業試験に合格できるものなのではないかという少しだけの希望をもたらすのだった。


「ふふ、まあ、斎藤君なら大丈夫だよ」


 斎藤が月村に卒業試験に合格できなかった場合のことを確認したとき、彼女はそのように言ったのだった。

 そのことに希望を持ちながら、斎藤は勉学をおそろかにせず、月村の熱烈な調教を前にしてもがんばってきた。


(なんとかなるはずだ。がんばろう)


 そのような決意と共に斎藤は卒業試験をむかえ、テストをこなしていった。

 筆記試験は、滞りなく終了した。

 マーク式のテスト。

 手応えたとしては十分なものだった。

 女子生徒たちに勝てるわけがないことは分かっていたが、男子の中であればかなりの高得点が期待できるとそう感じた。

 マーク式のテストなので、すぐさま集計結果がでることになっている。

 最後の数学のテストが終了した後、1時間後にはもう卒業試験の結果が出るとのことだった。

 それまで、教室の中で待機する決まりだった。


「おい、どうだったよ」

「なんとかなったんじゃないか? たぶん」

「そうだよな。そこまで難しくなかったしな。はは」


 教室は喧噪にまぎれていた。

 周囲の男子たちは皆、落ち着かない様子でテストの結果を待っている。

 女子生徒は、受かっていて当然なので、特に慌てた様子も見られなかった。

 それよりも、彼女たちは一カ所で集まって、男子たちを見つめてニヤニヤと笑いながら何か話しをしていた。

 そんな教室の喧噪とは打ってかわって、斉藤の周りには誰も寄りつかない。

 月村から教室で調教を受けるようになってからのその状況に斉藤はすっかり慣れていた。

 テスト結果を待ちながら、ふと、何度目になるか分からない疑問を思った。

 卒業試験に合格できなかった人はどうなるんだろう。

 高等部に進学できなかった者には、いったい、どんな進路が待っているんだろう。

 一人きりで時間を持て余していた斎藤は、そんなことばかりを考えていた。

 そんな斉藤の疑問の答えは、すぐに与えられることになった。


 *


「はい、結果が出たみたいだから、みんな座ってね」


 月村が届けられた紙片を手に、教壇に立って言った。

 クラス委員長である月村が、合格を発表するようだった。

 クラス全員が席に座り、男子生徒は固唾を飲んで結果を待った。


「それじゃあ、発表するね」


 月村が続けた。


「筆記試験は全員合格だよ♪」


 満面の笑みだった。

 男子生徒たちが歓声をあげた。

 ほっとしたように、近くの男子生徒たちと顔を合わせて、肩をたたいたりしている。


「じゃあ、次は卒業試験の結果発表だね」


 月村が言った。

 その言葉に、歓声をあげていた男子生徒たちの動きがぴたっと止まった。

 皆が皆、動きを止めて、怪訝そうな表情でもって教壇の月村を見据えている。

 その疑問は斉藤も同じだった。

 筆記試験は全員合格なのに、卒業試験の結果発表があるのか?

 その意味を男たちは月村の言葉で知ることになる。
 
 月村は、えへへと笑って、種明かしをすることに喜びを感じながら言った。


「言ってなかったけど、卒業試験は、女の子にたいしてきちんと忠誠を誓えているかどうかで合格不合格が決まります」


 その言葉が教室中に響いた。

 女子生徒たちが男子の惚けた様子を見て、クスクスと笑っている。


「合否はクラスメイトの女の子で決めるの。女の子のうち一人でも合格の判断をしたら、その男の子は合格。でも、女の子の誰にも合格って言ってもらえなかった男子は不合格になります」


 月村は嬉しそうだった。

 この瞬間を待ちかねたように、うずうずとしている様子が遠くからでも見て取れた。


「それじゃあ、さっそく結果発表をしちゃおうね」


 月村が言った。


「まず、私から。斉藤くんは合格。それ以外は不合格」


 はい次。

 月村が促す。

 教室の中で、女子生徒が一人づつ立ち上がって、男子生徒たちに死刑宣告をした。


「斉藤合格。ほか不合格」

「斉藤くん以外、全員不合格」

「不合格。斉藤は合格ね」

「奴隷は合格。ほかはダメ」


 クラスの5名全員の女子生徒が宣告を終えた。

 彼女たちは笑っていた。

 くすくすと、これから始まる楽しい催し物に、期待を向けて。


「はい。これで結果が出ました。斉藤くんは合格で、ほかの人たちは全員不合格です。卒業試験の合格者は斉藤くんだけだね」


 その言葉にクラスの男子たちが、ざわざわと騒ぎ出した。

 筆記試験が卒業試験だと思っていたのだ。

 それが、ふたをあけてみれば、クラスの女子生徒に気に入られているかどうかが合格の基準と言われて、納得がいくはずがないだろう。


「ふ、ふざけるなよ。なんだよそれ」


 そんな不満がとうとう爆発した。

 浅羽だ。

 彼は、顔を赤くして、唾をとばしながら、同級生の女の子たちに向かって怒鳴り始めた。


「卒業試験がそんなもんなんて、聞いてねえよ。つーか、なんで斉藤だけ合格なんだよ。おかしいだろ!」


 そうだそうだと、ほかの男子生徒たちも女子生徒たちに詰め寄る。

 教室は喧噪に包まれた。

 それでも、女子生徒たちは笑みを絶やさなかった。

 まるで、目の前の男子たちを珍しい動物でも鑑賞するみたいに、眺めている。


「なんだよ。なんとか言ったらどうなーーーー」


 浅羽の言葉がかき消された。

 それは、男の悲鳴だった。

 外からだ。
 
 校舎の外。

 ちょうど斉藤たちのいるE組の校舎の真下から、男子の悲鳴が聞こえた。

 それは調教を受けている最中の男子とも違った、命をからす絶叫だった。


「なんだよおい。どうしたんだ」


 その声の様子に、男子生徒たちは怯えた。

 皆、窓際にあつまってなにが起こっているのか状況を確認し始める。

 斉藤もほかの男子生徒にまじって、窓際でそれを見た。

 中庭。

 そこに一人の男子生徒が地面に座り込んでいた。

 彼はとても怯えていてパニックを起こしたように、首を左右に振りながら、片手を前に突き出して、目の前の存在から身を守ろうとしている。

 その男の頭部を、女子生徒が潰した。

 かかと落とし。

 スカートから伸びた美しい片脚が天高くあげられ、その男の頭部に振り下ろされたのだ。

 男の頭が地面に叩きつけられる。

 爆発をおこしたように真っ赤な液体を周囲にまき散った。

 女子生徒が念入りにぐりぐりと脚で踏みつぶし、そしてようやく男を解放した。

 そこには頭部を潰され、原型を留めていない男子生徒の姿があった。

 びくんびくんと陸にあがった魚のように痙攣して、絶命している。


「あーあ、A組ったら、教室から逃がしちゃったんだね」


 月村の声に教室中の男子が震え上がった。

 彼女のほうを見てみれば、女子生徒たちが全員、したり顔で中庭のほうを見ていた。


「A組の不合格者はあの一人らしいよ」

「へー、まあ、A組はみんな優しいからね」

「ほかのクラスも平均2、3人くらいらしいからね。ああやって逃げ出さなければ、優しく、痛みなく殺してあげてるんじゃないかな」


 口々にのぼる言葉に、斉藤を含めた男子生徒たちは凍り付いてく。

 彼女たちはなにを言っているのだろう。

 目の前で、男子生徒が殺されたのだ。

 確かに、今までの調教だってひどいものだが、それでも殺されることはなかった。

 それはタブーのはずだ。

 風紀委員でもない限り、男子生徒を殺処分することは許されていないはずなのだ。

 それなのに。

 なぜ彼女たちは、目の前で男子生徒たちが殺されたことに対して、こんなにも無頓着なのだろうか。


「大変だったんだよ?」


 月村が言った。

 笑顔で。

 言いたくて言いたくて仕方のなかった秘密を打ち明けるように、彼女は言った。


「ほかのクラスでは、みんな熱心に調教に励んでいたからね。うちのクラスの男子たちに、ほかのクラスでそんな調教がされているなんてこと、知らさないでいるために、いっぱい努力したんだ。それもこれも、卒業試験でみんなを不合格にするためなんだよね」


 月村が核心を言った。


「卒業試験で不合格になった男子生徒は、女子に殺処分されます。劣等遺伝子はここでふるいにかけて処分したほうが、社会にとって有意義だからね」


 月村が続けた。

 女子生徒はみんな笑っている。


「わたしたち、みんなのことを殺したくて殺したく仕方なかったんだ。だからわざと、ここ1年間、調教を一切しなかったんだよ。ふふっ、対等な立場になったなんて、そんな勘違いしてたでしょ」


 笑っている。

 むしけらである男子を見下ろして、女子生徒がみんな笑っている。


「それじゃあ、処分するね♪」


 始まった。


(続く)