それからというもの、なぜか飯島さんが僕に話しかけてくるようになった。

 親しげに、大学の授業のことや、最近見た映画の話しなんかをする。飯島さんは本当に映画好きらしくて、聞いたこともないような映画の話しをしてくれた。僕もそんな映画をなんとか探して鑑賞して、感想を飯島さんと話し合ったりしていた。飯島さんのすすめてくれる映画はどれもあまり知られていないものばかりだった。僕が加入している映画サイトでも公開されていないことが多いくらいだ。なんとかマニアックなレンタルショップをはしごして、必死の努力で映画を手に入れた。それもこれも、飯島さんと会話するためだ。

(やっぱり、好きなんだろうな)

 飯島さんのことが好きだ。

 自分の気持ちにはすぐに気づいた。

 これまで何人もの女性と付き合ってきたけれど、ここまで心がひかれることはなかった。僕は彼女に夢中になってしまっていた。



 *



 飯島さんとの距離が縮まっていく。

 部室で飯島さんと二人っきりで映画のことで談笑していると、彼女が唐突に言った。

「ねえ、なんで男の人って、女に負けるとマゾになるのかな」

 僕は飲んでいたお茶を吹き出して、そんなことを言い出した飯島さんのことを呆然と見つめるしかなかった。じいっと僕のことを見つめた飯島さんが続ける。

「最近、部長ってますます弱くなってるんだよね。私の与える刺激ならなんでも満足して、アヒアヒ言ってるんだ」

「そ、そうなんだ」

「うん。さすがに気持ち悪いんだよね。マゾはマゾでも気色悪いマゾ。依存しきってて、ないわ~って感じだよ」

 ざっくんばらんに話しかけてくる飯島さん。

 少し距離が縮まっている気がする。

 僕はなんと言っていいか分からずに黙っていると、飯島さんが少しムっとして言った。

「あ、翔太くん。信じてないでしょ?」

「え?」

「わたしが言ったこと信じてないんだ。いいよ。証拠を見せてあげる」

 飯島さんがスマフォを取り出して電話をかけ始める。「すぐに来て」と冷たく言い放ち、一方的に電話を切った。なにがなんだか分からないでいると、すぐに部室のドアが開いた。

「遅い」

 不機嫌そうに飯島さんが言った。

 そんな言葉に、息を切らして駆けつけたのであろう部長が、「ご、ごめんなさい」と敬語で謝っていた。

「まあいいや。そこに正座して」

 乱暴に言って、自分の目の前の床を指さす。

 部長は僕の存在に気づきながらも、はやくもガクガク震えて言われたとおりに膝まづいた。

「いつもやってること、ここでやりなよ」

 飯島さんが冷たく言う。

 足を組んで、そのつま先を部長の眼前に突き出す。

 男は既に泣きそうになっていて、顔を左右に振り始めた。

「ゆ、ゆるしてください」

 おびえきった男。

 年上の男らしかったはずの部長が、飯島さんの足下で正座しながら、がくがくと震えている。なぜか僕のほうに視線をやって怯えているようにも見えた。

「ほら、やれ」

 そんな部長の懇願なんて、飯島さんにとっては意味をなさないものらしい。彼女は組んだ足をぐいっとさらに部長へと近づけた。それだけで観念をした部長が、震える手で飯島さんの足を手にとる。そして、

「し、失礼します」

 ゆっくりと。

 うやうやしく。

 部長が、飯島さんの足を舐め始めた。

「じゅるううッ! じゅぱああッ!」

 滑稽な唾液音が響く。

 サンダルを脱がした飯島さんの生足。そこに顔をつっこんで、丁寧に、熱烈に舐めていく。男が女の足を舐めている。そんな異常な光景を前にして僕は言葉を失ってしまった。

「んっはああッ! じゅうるうううッ!」

 男は必死だ。

 しかも、その表情には恍惚としたものが浮かんでいた。悦んでいるのだ。自分の彼女の足を舐めて性的に興奮している。僕がここにいることなんて、いつの間にか部長の頭の中から消えてしまったらしかった。男が女に虐げられて、まるでご馳走を前にして腹をすかした犬のようにがっついていく。その姿はあまりにも惨めだった。

「ね、言ったとおりでしょ?」

 飯島さんが僕のことを見つめながら言った。

 その間も、彼女は膝まづかせた男に足を舐めさせているのだ。そんな異常な状態にもかかわらず、平然としている飯島さんが恐ろしかった。恐ろしくて、美しくて、とても興奮した。

「ほら見てよ。こいつ、わたしの足を舐めて勃起してる」

 淡々とした視線が部長の股間に突き刺さる。

 確かにそこには勃起の証拠となるふくらみがあった。自分の彼女の足を舐めて興奮している。それが信じられなかった。

「ね、マゾでしょ?」

 笑って、飯島さんが言う。

「女の子に虐められて悦ぶマゾ犬。情けないよね」

 くすくすと談笑してくる。

 そんな支配者としての彼女の姿に、僕は心を奪われていった。



 ●●●



 飯島さんとの距離が近くなっていく。

 飯島さんの家に呼ばれて、一緒に映画をみる。

 その場所には当然、部長もいた。文句を言われるかと思っていたけれど、なにも言われなかった。もうこの頃の部長は飯島さんの言いなりといった感じで、彼女の命令だったらどんなことでも聞くようになっていたのだ。

「ゆっくりしていって・・・・・・ください」

 部長が小さな声で言った。

 最初に会った頃の声の大きな体育会系といった様子はどこかに消えてしまっていた。あれだけついていた筋肉でさえ小さくなっているのが分かった。飯島さんと付き合っているうちに、心も体も弱くなっているのだ。すべてを圧倒されて自信がなくなっている。それが見ていて痛々しかった。

「あひん・・・ひい・・・・」

 しかも映画を見ている最中、部長は玩具にさせられていた。

 ソファーの上に座った飯島さん。彼女のムチムチな太ももの上に乗せられた部長が、背後からぎゅううっと抱きしめられている。飯島さんの巨大なおっぱいが部長の背中で潰れている。明らかに飯島さんのほうが体が大きい。そんな迫力満点な女の子に背後から羽交い締めにされて、部長は乳首をいじめられているのだ。

「ひいん・・・・あっはん・・・・・」

 部長は悶えっぱなしだった。

 そんな男の胸板には、さきほどから飯島さんの指が

這い回っている。いやらしく動く10本の指。右乳首も左乳首も、さんざんにめちゃくちゃにされている。シャツを胸の上までたくしあげられ、小さな乳首をさらしながら、眉を下げて被虐の快感に酔いしれている男が、いつまでも甘い喘ぎ声をあげていた。

「・・・・・・」

 そんな乳首責めをしているのに、飯島さんは無言で映画を見つめるだけだった。

 明らかな片手間。意識の半分も目の前の男にやらずに、お遊びみたいにして男を快楽地獄に落とし込んでいく。今も、彼女の人差し指がクルクルと男の乳首のまわりで円を描いていた。乳輪にそってフェザータッチで加えられるじらす。時折、その人差し指が乳首の中心をはじき、そのたびに男が「アヒンッ!」と大きな声をあげ、お腹をブルブルと震わせていた。

「うるさい」

「むぐうううッ!」

 冷たく言って、飯島さんが部長の口を片手でふさぐ。

 その状態のままで、飯島さんが熱烈な乳首責めを再開する。片手で男の口をふさいで言葉を奪い、もう片方の手でもって男の乳首をカリカリと勢いよく蹂躙していく。

「むううッ!」

 男は悶えるだけだ。

 背後から抱きしめられ片手で口を押さえつけられながら、それでも与えられる乳首の快感でダメになっている。全身を弛緩させて、びくんびくんと震えるだけ。すでに白目をむきかけ、眉を下げきって快感に悶えるだけの男の姿はどこまでも情けないものだった。

(す、すごい)

 あらためて飯島さんのすごさに感じ入ってしまう。

 片手間程度の乳首責めだけで男を壊してしまう。

 その強さと、美貌の前に、僕の体は嫌でも熱くなってしまった。



 ●●●



 サークルも、次第に飯島さんが支配していった。

 もとより部長が既に陥落しているのだ。

 誰よりも肉体的にも精神的にも頭脳的にも優秀な飯島さんにとって、サークルを支配することなんて簡単なことだったのだろう。

「ほら、翔太くん。もっと飲んで」

「う、うん」

 飯島さんにビールをそそぎ込まれて飲む。

 それをにっこりと笑って見つめてから、飯島さんはかなり濃い目のハイボールを一息で飲み干してしまう。お酒の強さでも飯島さんは圧倒的だった。居酒屋のお座敷には、彼女に潰された部員の屍が積み重なっていた。その中には、彼女によって早々に潰された部長もいた。

「みんな、わたしにお酒飲ませようとしたのに、返り討ちにあっちゃったね」

 ふふっと笑い、さらにハイボールを飲み干してしまう飯島さん。まったく酔う気配がなく、いつものように上品に笑っていた。

「みんな情けないな~。翔太くんもそう思わない?」

「そ、そうだね」

 言いながらなんとかビールを飲み干す。

 にっこり笑った飯島さんが再びピッチャーでビールをついでくる。

「お酒強いんだね、翔太くん」

「いや、そ、そうでもないよ。逆に弱いほうだと思う」

「そうなの?」

「う、うん。今もけっこうヤバい感じだし」

 ふらふらと頭が揺れる。

 隣の飯島さんがときどき二重に見える。それでも、なんとか踏みとどまった。せっかくの飲み会なのに、飯島さんを一人にさせてしまうのは申し訳なかった。それに、こうして二人っきりで飲める機会は大切にしたかったのだ。

「翔太くんは優しいね」

 にっこりと笑った飯島さんが言う。

 彼女の笑顔を見ていると、自分の胸のうちがすべて把握されてしまっているような気がしてならなかった。

「優しくてがんばり屋さんな翔太くんには、ご褒美をあげちゃうね」

「ご褒美?」

「そ。ま、わたしに任せてよ」

 ふふっと。

 怪しげに飯島さんが笑った。

「いただきま~す」

「あ」

 きづいた時には遅かった。

 目の前に飯島さんの顔が迫る。

 その口が大きくあき、蠢いている長い舌が見えたと思ったら、唇を奪われてしまった。

「ん、っふううううッ!?」

 驚きで声にならない。

 僕の口の中で肉厚な舌が暴れている。

 しかもその舌はとてつもなく長かった。僕の口の中が飯島さんの舌でいっぱいになる。それがぐねぐねと蛇みたいに蠢いて、快感の暴力で殴ってきた。

(ぎ、ぎもじいいい)

 陶酔し、目がトロンとなる。

 これまで自分がしてきたディープキスが子供騙しに思えてしまうほどの威力。僕の体がぴくぴくと震え、脱力し、飯島さんにされるがままにされてしまう。

「ふふっ」

 飯島さんが笑っていた。

 体から力が抜けてしまった僕のことをぎゅうっと抱きしめながら、目を見開いて笑う飯島さんが、僕の痴態を見つめて笑っている。彼女の大きな胸が僕の体でぐんにゃりと潰れている。体中の力がなくなって、腰が抜けてしまった。

「ぷっはあ・・・・・ふふっ、どうだった?」

 唇を離した飯島さんが言う。

 飯島さんの勝ち誇った顔を見上げるしかない。僕はハアハアと息を荒くしたまま放心状態になってしまった。

「あ~あ、翔太くんも目がトロンってなっちゃったね」

 ニンマリ笑った飯島さんが続ける。

「体中弛緩して、されるがままって感じ。さっきも、わたしのベロチューにまったく抵抗できてなかったよね。ふふっ、少しは自分から舌をからませるとかしなくてよかったのかな?」

「う、うううう」

「ほら、これがさっきまで、君のことめちゃくちゃにしてたベロだよ~」

 おどけたように言って、飯島さんが舌をベロンと出した。その迫力の前に言葉を失ってしまう。

「う」

 目の前の光景。

 長い、長い舌。

 顎の舌までベロンと垂れ下がった舌は、それ自体が筋肉のように蠢いていた。こんな舌でめちゃくちゃにされたらダメだ。どんな雄だって腰が抜けて捕食されてしまう。それが本能として分かった。

「ま、仕方ないか。わたしがキスすると、どんな男もお人形さんになっちゃうからさ」

 にやにやと笑って、

「アヒアヒ悶えて、体から力が抜けて悶えるだけのお人形さんになっちゃうの。今の翔太くんみたいにね」

 飯島さんが笑った。

 それはサディストの笑顔だった。

「翔太くんがいい子にしてたら、またご褒美あげるよ」

「あひん」

「わたしの舌でたあっぷりかわいがってあげる。アヒアヒ喘がせて、おめめをトロンとさせて、操り人形にしてあげるから」

 がんばってね。

 飯島さんが笑う。

 僕の心は完全に奪われてしまった。



つづく